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鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》

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オンライン開催・霧とリボン企画・鳩山郁子著作刊行記念オマージュ展《羽ばたき Ein Märchen》|2021.11.18〜26 *11/21~23休|堀辰雄の短編を玲瓏な眼差し…
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#堀辰雄

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《1》|夜空の彼方へ——

Text霧とリボン  色づく葉々が澄んだ空を背景に揺れる頃、心地よい風にのって微かな羽音が聞こえてきました。ふと立ち止まって耳を澄ました先の地面に、落ち葉とともに菫色の羽根が一片。これからはじまる物語の予兆のように、拾われることを待っていました。  菫色の羽根に導かれて辿り着いた、丘の上の菫色の塔——静かに吹き抜けた秋風が扉をあけて、霧とリボン企画・鳩山郁子著作刊行記念オーマジュ展が本日、オンラインにて開幕致しました。  孤高の場所から放たれた「翼の夢」を、受け取っ

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子&霧とリボン&レミーのアトリエ|飛行するジジのティタオル

Text霧とリボン  菫色を纏って飛行するジジを先頭に、塔に棲まう鳩たちが眠りから覚め、そこここで美しい彩りを羽根に乗せて放ち始めています。  星々に祝福されて飛行するジジが、硬質なリネン素材の上にふわりと着地。塔の一角に秋風をはらんで飾られていました。  鳩山郁子先生が本展のために描き下ろした美しきメインヴィジュアル作品を「ティタオル」に仕立てました。  ティタオルは英国ティウェアの定番アイテム。リネンやコットン素材の大判布地に素敵な柄が大胆にプリントされ、食卓を

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子『羽ばたき Ein Märchen』書評|翼端の速度のために

Text|高柳カヨ子  飛翔は常に墜落を内包している。  まるで空へと真っ逆さまに落ちていくように飛翔する鳩の群れとジジ。  鳩山郁子はこれまでも作品の中で、飛ぶ少年とその落下を繰り返し描いてきた。彼女が描く少年たちは飛ぶことを恐れない。その澄みきった瞳は、空へ落ちる/墜ちるのを望んでいるかのようだ。  『羽ばたき』もまた鳩山にとって、飛翔と墜落の物語なのである。  子供たちが熱狂する映画の登場人物、ジゴマは怪盗だ。変装して世の中を撹乱する怪盗というのは、要するに社会の

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |合田ノブヨ|結晶世界の少年たち

Textヨネヤマヤヤコ  鳩山郁子先生の紡ぐ数々の幻想譚を合田ノブヨ様は結晶化させアンティークのファーマシーボックスに模した小匣に封じ込めてくださいました。  はじめて合田ノブヨ様のオブジェ作品と出会ったときの感動は忘れもしません。小匣のなかに意識がトランスポートして少女時代の夢想にうっとりと包み込まれてしまう。深遠でフラジイルな佇まいでありながら心の奥底にある記憶と呼び合い、星の引力のように見るものを捉えて離さないのでしょう。わたし自身も小匣に住むちいさな妖精たちに

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |DAY 1

本記事は、オンライン開催の霧とリボン企画・鳩山郁子著作刊行記念オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》DAY 1の配信記録です。最新の配信情報は霧とリボン ツイッターでお届けしています。 Text|霧とリボン  菫色の塔から高い秋空へ、悠々と鳩たちが飛び立った一日——今日という日を、どれほど待ち望んだことでしょう。  敬愛する漫画家・鳩山郁子先生の最新刊『羽ばたき Ein Märchen』へ、気鋭のアーティスト達と共にオマージュを捧げるオンライン展覧会がついに開

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |村松 桂|イカロスの記憶

Text高柳カヨ子  写真とはなんだろう。  一瞬と永遠の間に細く連なる光と影。存在した/存在しなかった光景の証明。  モノクロームの画面に写し出されるものは、生か死か。  村松 桂の写真は、空間や事物そのものではなく、そこで起こった出来事の記憶を写し出す。作品には幾重にも折り重なった時間が刻印されているため、二次元でありながらあたかも一冊の本を読むような奥行きが感じられる。  フォトコラージュやフォトモンタージュと呼ばれる技法を用いた村松の作品は、ゼラチンシルバープ

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |CANDLE STUDIO MAGIERA|蝋細工の森へ

Textヨネヤマヤヤコ  菫色の塔の上から飛行術を披露する少年。
半睡半醒の少年はいつものように鳩たちと旅立ちます。忘れられた手袋のように痛ましい亡骸に石のように落ちていった鳩───。  少年と鳩の亡骸から現れた架空の植物はアブサン色の花を咲かせました。木製の台座上に十字に組まれたワイヤーからビーズワックスで作られた雫型の蕾が螺旋を描き幽玄と揺らめいています。  螺旋は鳩塔内の階段であり、落下する羽毛の軌跡であり、肉体から解き放たれた少年の魂が母と再会する軌跡なのか

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |川島 朗|想起と伸展

Text|高柳カヨ子  箱の中の宇宙。そこには記憶が眠っている。  誰の?  もちろん、あなたの。  川島朗は多彩な手法をコラージュする。  アンティークの手紙や写真、金属や木材といった素材を組み合わせるだけでなく、描く・塗る・切る・貼るなど複数の手法自体をコラージュすることにより、箱の中にひとつの世界を創り上げるのだ。  ボックスオブジェというこのアート作品は、箱という閉鎖空間の中に無限の可能性を秘めて佇んでいる。  そして我々が箱を覗き込むことで、そこに封じ込めら

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |内林武史|少年の夢の在り処

Text霧とリボン  鳩たちの先頭をゆくジジに誘われて、時を超えて少年時代へ。  巻き戻した時の中で、夢のきざはしの一段目を見つける。仄かな明かりが灯る場所で、ひとりの少年が夢を形にしようと、小さな指先から熱情を発していました。  決して途切れることなく今日まで続いてきた、夢のきざはしの軌跡。夢はずっと先、手の届かない場所にあるのではなく、いつ何時も、少年の手の中に在り続けて——  木材、金属、鉱物、電気部品など多彩な素材で唯一無二の立体作品を制作発表してきた美術作

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |DAY 2

本記事は、オンライン開催の霧とリボン企画・鳩山郁子著作刊行記念オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》DAY 2の配信記録です。最新の配信情報は霧とリボン ツイッターでお届けしています。 Text霧とリボン  菫色の羽根が秋色に色づき、羽音が美しいアンサンブルを奏でた今日。  オンライン上の菫色の塔にお越し下さり、鳩山郁子著作刊行記念オマージュ展DAY 2をご高覧下さいました皆様に感謝申し上げます。  月食の空を見上げた方々も多かったのではないでしょうか。ジジも

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《2》|小さな夢の痕跡

Text|嶋田青磁  暗闇に浮かび上がるのは、小さな夢の痕跡。  少年はたしかにそこにゐて、夢を見ていたのです。  今秋の『羽ばたき Ein märchen』オマージュ展に際し、鳩山郁子氏による4点のイラスト作品が発表されます。菫色の小部屋には、まるでジジ扮する怪盗ジゴマが残していったかのような、アイテム(手がかり)の数々。不在の少年たち、その輪郭を、これらの”証拠品”を頼りに解き明かしたくなりませんか。  夢を駆け抜ける少年のポケットには、いつもさまざまな宝物が入

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |嶋田青磁|ぼくらが羽ばたける場所はどこか?

Text嶋田青磁  ぼくらが羽ばたける場所、そこは天使たちの棲まう場所。  生も死も、男も女も、なにもかもが曖昧に揺らめく菫色の領域——  このたび、鳩山郁子先生のコミック『羽ばたき Ein Märchen』に捧げるエッセイ・詩の小品集を制作させていただくという大変に光栄な機会をいただきました。鳩山郁子先生の作品、とりわけ『羽ばたき』には、について読者に深く考えさせるようなきっかけが散りばめられています。  皆さんは、できることならずっと夢の世界に住みたい、と思った

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |『羽ばたき Ein Märchen』書評再録|生への飛翔、あるいは落下

本記事は2020年オンライン開催、霧とリボン 直営SHOP 5周年記念 & 鉱物Bar by 鉱物アソビ オープン記念連動企画展《菫色の実験室vol.5〜菫色×スミレ属》にて公開された、嶋田青磁さまによる『羽ばたき Ein Märchen』書評の再録です。掲載の鳩山郁子先生のイラストサイン本も当時のものとなり、本展にて販売のイラストサインとは内容が異なります。 Text|嶋田青磁  羽ばたく——。  それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無い

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |永井健一|夢と現実のあわいにて

Text|嶋田青磁  どこからか羽音が聞こえる。遠くなったかと思えばまた近くなる。  これは夢——なのだろうか?  堀辰雄の小説を原作とするコミック、鳩山郁子『羽ばたき Ein märchen』に捧ぐ本展。永井健一氏による作品がやわらかな秋風とともに菫色の塔へと舞い降りました。その絵画世界は、わたしたちに夢の残り香を伝えながら、そっと語りかけてきます。  ジジの閉じた瞳の奥に広がるのは、どんな風景なのでしょうか。遠い少年少女時代に置いてきたはずの景色が、雲間からのぞ