菫色の実験室vol.5|書評|鳩山郁子『羽ばたき Ein Märchen』—生への飛翔、あるいは落下—
Text: 嶋田青磁
羽ばたく——。
それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無いのだから。思い浮かべてみると、たしかに鳥や虫、羽ばたくものたちはみな、飛翔するための羽(翅)としなやかな筋肉が生れながらにそなわっている。
けれどもし、人間に羽ばたくことが可能であるとしたら? 鳩山郁子先生の『羽ばたき』はその可能性を、堀辰雄による原作から掬い取り、きらめく結晶を抽出するようにして、“漫画”という魔法でわたしたちに提示しているように思われる。