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レース模様の図書室、再訪

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霧とリボン企画展《レース模様の図書室、再訪》|2021.4.22〜30|少女たちは或る日、レース舞う図書室への扉をふたたび開ける——オンライン・ギャラリー「MAUVE CABIN… もっと読む
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#絵画

レース模様の図書室、再訪|黒木こずゑ|私の中の物語

Text|KIRI to RIBBON  精霊たちの気配を感じながら図書室を歩いていると、一心に読書するひとりの少女に出会いました。レースの縁飾りのあるドレスを纏い、大きなリボンを髪に飾って、書物の世界を旅しているようです。  不思議なことに、散ったはずのクレマチス・アーマンディの白い香りが、どこからともなく漂ってきました—— * * *  少女が手にしているのは、確かに一冊の本でした。  しかしそこからしだいにぐんぐん茎が伸び、花がひらき、様々な動物や少女たちで

レース模様の図書室、再訪|深瀬優子|夜について

TextKIRI to RIBBON  菫色の図書室に夜の帳が降りる頃——漆黒の装いに身を包んだ不思議な姉妹が、「夜」について思索を重ねていました。  時が満ち、特別な夜の瞬間が訪れようとしています。夜に寄せられた物語を、一緒に紐解いていきましょう。 * * *  お揃いのシルクハットに飾るための特別な花の開花を、姉妹は待っていました。夜に咲くその花を讃えるために、姉妹は「夜」について、夜のもたらす不思議について、夜が来るたび考え続けてきました。  そうして迎え

レース模様の図書室、再訪|横井まい子|午後の図書室

TextKIRI to RIBBON  晩春の美しい光と新緑に誘われて、今日も静やかにレースが舞う図書室に来ました。やわらかな日差しが届く午後の図書室はぽかぽかと暖かく、図書室を包む菫色も微睡んでいます。  1年前に出会った三編みの少女たちが、図書室で待っていました。少女たちの時間を邪魔しないように、そっと覗いてみたいと思います。 * * *  菫色のヴェールの奥に、少女たちはいました。  ヴェール越しに見る少女たちの表情は少し大人びたように感じましたが、図書室の

レース模様の図書室、再訪|金田アツ子《1》|夕ぐれの色、薔薇の色

 新しい緑の眩しさが落ち着きを見せる晩春の夕暮れ——図書室の菫色もうっすらと翳りを帯びてきました。暖かだった室内にも冷気が少しずつ流れ込み、昼から夜へと移ろうはざまの刻が訪れます。  何度も読み返してきた書物が、ふと哀音を奏でる時間帯。時のはざまで揺れる少女のこころに寄り添うことができますように・・・ * * *  レースブラウスを折り目正しく纏い、髪をきっちりと結い上げたひとりの少女。熱心に紐解いていた書物からふと目を上げ、夕暮れの諧調が差し込む窓辺に近づいていき

レース模様の図書室、再訪|くるはらきみ|レース専門の図書室

TextKIRI to RIBBON  光と新緑が織りなすレース模様を楽しみながら、麗らかな気持ちで到着した菫色の図書室——扉を開けた途端、歓声をあげてしまいました。一夜にして、菫色の図書室が「レース専門の図書室」に様変わりしていたのです。    午後のひととき、ちいさな司書さんと一緒に、レースと戯れてみたいと思います。 * * *  此処は、昨日までと同じ菫色の図書室なのでしょうか。  日本語、英語、仏蘭西語——昨日まで背表紙にあった文字という文字がすっかり消えて

レース模様の図書室、再訪|野村直子|ある午後、図書室で

TextKIRI to RIBBON  新緑がさらに煌めきを増し、春から初夏へと移りゆく健やかな頃——ここ菫色の図書室では、煌めきを頁の中に探すように、少女たちが書物の迷宮を散策しています。  1年前と変わらぬ落ち着きで迎えてくれた懐かしい図書室で、午後のひとときを過ごしましょう。 * * *  図書室は書物が傷まないように、書架の方には強い日差しが届かない造りになっているから、書架の辺りはいつもひんやりと薄暗い。ぐるりと囲む壁の菫色も、本当はもっと鮮やかなラベン

レース模様の図書室、再訪|金田アツ子《2》|Rosa damascena

TextKIRI to RIBBON  図書室の終幕が近づいてきました。  名残惜しい気持ちで書架の間に佇んでいると、少女たちがひとりまたひとりと、閲覧室の方に集まってゆくのが見えました。図書室の少女たちに、贈り物が届いたようです。    また会う日までのはなむけとして、植物を愛するこころやさしき温室の主が届けてくれたもの——  薔薇色の薄紙をそっと開封してみましょう。 * * *  レースを編むように、少女たちとの美しい思い出を花びら一枚一枚に編み込んだ金田アツ