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【企画参加】 ともだち ~ 夏ピリカ

夫に先立たれて10年、1人の生活は寂しくないわけではないが住み慣れた家は居心地が良い。

一人娘のさとみは、毎日電話をかけてくれるし、時々帰ってきてくれる。
老いては子に従えと言うから、娘が言う事には「はい、はい」と聞くようにしている。
そのさとみが『そろそろウチで一緒に暮らさない?』と言ってくれるけど、まだ1人で大丈夫だからと断っていた。

いつの間にか83才にもなっているのだから心配するのも当たり前ではある。

そんなある日のこと
迂闊にも私は庭で転んでしまった。
骨折とか入院とかでは無かったけれど、みんなに心配をかけてしまった。

さとみから『だから言わんこっちゃない』と怒られる始末

それでも1人で暮らしていたが、今度はお鍋を焦がしてしまった。
煮物をしている事をすっかり忘れてテレビを見ていたのだ。
お鍋はダメになってしまったけれど、家が燃えなくて本当に良かった。

それから少しずつ体は言うことを聞かなくなり、物忘れが多いと言われるようになった。
自信を無くした私は、「さとみの家に行ってみようかなぁ」と言ったら、あっという間にさとみの家で暮らす事になった。

ところが、最近さとみが家にいない。
今この家にいるのは同じ名前の「さとみさん」だ。
「さとみさん」が作ってくれるご飯は美味しい。好みが合うのだろう。

「さとみさん」に、「私の娘もさとみです、一緒ですね」と言ったら、「さとみさん」が『私が娘のさとみだよ』と言う。
冗談かと思ったら「さとみさん」も『何の冗談?』と聞いてくるのだ。

「あなたの家族は?」と聞くと、『あなたが私のお母さんでしょ』と笑い出す。
私の親戚とも電話で話す「さとみさん」は一体何者なのだろう?

それにしても「さとみさん」は怒りっぽい。
『毎日毎日同じ事を言わないで!どうして私だけわからないの?』と言われるけれど、私にはどうして怒られているのかわからない。
そんな時は黙ってお茶を飲んでいる。

だから昨日さとみから電話があった時に言ってやった。『いつ帰ってくるの? さとみさんはすぐに怒るの』と。
さとみは黙っていた。
お茶でも飲んでいたのだろうか。

少し前のこと、「さとみさん」に連れられ病院に行くと、こんなに元気なのに薬が出た。
「認知症の薬」だと言う。

私は毎日1人で散歩に行けるし、ご飯もちゃんと食べる。掃除だって何だって出来るのに。

昨日、「さとみさん」に買い物に連れて行ってもらった。

そこで会ったお友達と楽しく話しをしていたところに「さとみさん」が来て、変な顔をして『鏡に何を話しかけてるの?』と言う。

私と友達は顔を見合わせた。

「さとみさん」は目が悪いのだろうか。

私は友達に挨拶をして「さとみさん」と帰った。

さとみから電話があったら、今日の「さとみさん」の事を話そう。

「さとみさん」が病気で無ければいいけど。


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夏ピリカグランプリに応募します、

一人称、創作、そしてテーマの「鏡」を終盤にチラリと書いていますが、わかってくださいましたか?

夏ピリカグランプリの皆さま、よろしくお願いいたします☘️

ピリカさん、素敵な企画をありがとう✨


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