見出し画像

パナマ帽 001/映像脚本

【登場人物】
・坂井真紀(サカイマサキ):33歳、男。
・岡崎友紀(オカザキトモキ):32歳、男。真紀の友達。
・水野美紀(ミズノミノリ):32歳、女。真紀と友紀の友達。

注)映像脚本『燐寸箱』続編


○二階建てアパート・外景
   うつむきかげんで外階段を上って行く岡崎真紀(33)。

○友紀の部屋・外
   真紀が玄関のチャイムを押す―チャイム音。
   岡崎友紀(32)がドアを開ける。
真紀「(元気よく)こんにちは!」
友紀「ど、どうした!?」
真紀「いや、言ってみただけ」
友紀「なるほど~。ま、入れ」
真紀「ああ」

○友紀の部屋・内
   あまり物がない小綺麗な1K。
   友紀がベッドに座り、真紀がイスに座る。
   友紀の正面の壁に白いパナマ帽が掛けてある。
友紀「(帽子を指し)それ、カッコいいじゃん」
真紀「(帽子の方を向き)だろ!」
友紀「買ったのか?」
真紀「ああ、Amazonで」
友紀「帽子なんて、被らないだろ?」
真紀「まぁな」
友紀「なのに、なんで?」
真紀「YouTubeで、ジュリーを観てな」
友紀「ジュリー?」
真紀「沢田研二さん、歌手の」
友紀「ああ、白髪白髭の太っちょさんか」
真紀「バカヤロー! YouTubeを観てみろ! (両手を頬にあて)こ~んな
 に痩せてて、色っぽいんだぜ~!」
友紀「へぇ~」
真紀「感動がないなぁ、トモキは!」
友紀「カーネル・サンダースみたいな人としか…」
真紀「バカヤロー!」
友紀「二度も怒鳴られた」
真紀「怒鳴ってねーよ、バカヤロー!」
友紀「はい、三度目~」
真紀「の~正直~」
友紀「はい、はい。ところで、この間の大量のマッチはどうした?」
真紀「オヤジに聞いたら、『処分していい』って言ったから、捨てた」
友紀「え、全部?」
真紀「ああ、全部」
友紀「もったいな~い!」
真紀「あんなの持ってたら、頭がおかしくなるって!?」
友紀「まぁ、確かに」
真紀「ていうのはウソで、一つだけ取っておいたんだ」
   真紀がポケットからマッチを取り出し、ベッドに置く。
友紀「やったぁ! もう一度、あれが出来るんだな」
真紀「ああ」
友紀「早く、早くやろうぜ」
真紀「焦るなって。いいか、やるぞ」
友紀「ああ、やれ!」
   真紀が何かを念じながらマッチを取る。
   ブラックアウト。

○マッチを擦る音
   パッと火が灯る。

○クロマキー合成
   真紀と友紀が、沢田研二のライブ(@渋谷公会堂)の映像の中にい
   る。
友紀「(キョロキョロしながら)どこだ? どこだ? ここはどこだ?」
真紀「たぶん、渋谷公会堂だよ。建て替え前のな」
友紀「たぶんって?」
真紀「マッチに小細工したんだ」
友紀「え、どういうことだよ?」
真紀「あのマッチは渋谷公会堂とほぼ同じ住所だったから、正確な住所に書
 き換えたんだ」
友紀「そんなことも可能なのか、この現象には!?」
真紀「現象って…」
友紀「だって、これはもうタイムマシンだろ!」
真紀「そうかなぁ」
友紀「そうだよ、タイムマシンだって!」
真紀「それは、違うよ!」
友紀「あッ」

○真紀の部屋・内
   真紀が椅子に、友紀がベッドに座っている。
友紀「なんでマサキが否定的なことを言うんだよ!?」
真紀「あれも、否定的なことだったのか?」
友紀「立派な否定だよ!」
真紀「そうか、スマン」
友紀「まぁ、しょうがないよ。もう一度やろうぜ」
真紀「残念! 一つのマッチで一度だけなんだよ」
友紀「そんな決まりまであるのかよ!?」
真紀「ああ」
友紀「もうマッチはないんだよな?」
真紀「ああ」
友紀「そうかぁ…なんだかものすごい喪失感というか、虚無感というか…」
真紀「トモキがそんなに落ち込むなよ」
友紀「だって、もうマッチがないんだぜぇ…」
真紀「まぁな」
友紀「なんで捨てちまったんだよ!?」
真紀「トモキがいないときも一人でやってて、恐くなっちゃったんだよ。悪
 いな」
友紀「オレはセミの抜け殻かよ!」
真紀「自分で突っ込むなよ」
友紀「あ~あ~。(ベッドに突っ伏す)」
真紀「なぁ、カラオケにでも行かないか?」
友紀「あの帽子を被って、ジュリーを歌ってくれるか?」
真紀「ああ、まだ一曲しか歌えないけどな」
友紀「(勢いよく体を起こし)よし、行こう! (立ち上がる)」
真紀「(立ちながら)立ち直りがはえ~なぁ…」
   友紀がパナマ帽を取り、真紀に渡し、二人で部屋を出て行く。

○真紀の部屋・外
   真紀が友紀にパナマ帽を被せ、笑いながら歩き出す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?