SS【秋と愛】#シロクマ文芸部
小牧幸助さんの企画「秋と本」に参加させていただきます☆
お題「秋と本」から始まる物語
【秋と愛】(859文字)
秋と本鮪フェア開催中ってなんだろう?
と思ったら『鮭』と書かれた紙が足元に落ちていた。
開店直前の回転寿司屋の人は忙しく、気づいていないのだろう。
本来は『秋鮭と本鮪フェア』らしい。
私はその『鮭』をそっと拾い上げた。
紙に筆文字で大きく書かれた『鮭』は、川を遡上する生き生きとした姿を想像させるに十分な迫力がある。
落ちたばかりなのか、紙もきれいである。
当然、店の人に渡すべきだろう。
しかし私の手は、ごく自然にその『鮭』を鞄の中に滑り込ませた。
誰にも見られてはいない。
『鮭』が消えていることに誰かが気づいたとしても、風で飛ばされたと思うだろう。
私はさり気なく踵を返し、家に戻った。
さて、『鮭』を鞄から取り出してあらためて眺めると、やはり立派な『鮭』である。
ずっと見ていたらゲシュタルト崩壊するかと思って眺め続けてみたが、『鮭』は鮭のままキリリと存在し崩壊しない。
私はますますその頑丈な『鮭』が気に入り、額に入れて飾りたくなった。
寿司を食べ損ねたのでお腹も空いている。
昼食ついでに額を買いに行くことにした。
しかし私の足は再び回転寿司屋に向いてしまう。
犯罪者は現場に戻りたくなるのだろうか。
それともやはり寿司が食べたいのだろうか。
多分そう。
まぁ誰にも見られなかったはずだし、もし見られていたとしてもゴミだと思って捨てましたとかなんとか言えばいい。
回転寿司屋の看板が見えて私は驚いた。
その横にはきちんと修正された『秋鮭と本鮪フェア』が貼ってあったのだ。
私が『鮭』を拾ってから小一時間。
『鮭』は戻る場所を失い、私自身も過ちを正す機会を失ったのだ。
せめてもの償いにと、私はせっせと秋鮭寿司を食べた。
とても美味しい。
しかしなぜか、食べれば食べるほど家にいる『鮭』を裏切っている気持ちになるのである。
これは犯罪者というより不倫しているオッサンみたいな気持ちだ、多分。
身が締まりサラリと美味しい秋鮭を味わいながら、家で待つ『鮭』を想う。
これでは秋鮭と本妻フェア……。
と、くだらないことを考えているうちに、
私の秋と愛は、どんどんと深まっていく。
おわり
© 2024/11/2 ikue.m
……先月、復帰のキッカケに参加させていただいた秋ピリカさん。
私の作品【伝える】が、すまスパ賞をいただいてしまいました(;・∀・)
な、なんかすみません……。
審査員のみなさま、たくさんの素晴らしい作品の中から選んでくださって、ありがとうございました。
そしてめろさん、楽しく温かい講評もありがとうございます。
嬉しくて泣けちゃいます……(ノД`)・゜・。
受賞を励みに、これからもマイペースに楽しく書き続けたいです。
(で、今回こんなくだらない話ですみません!記念に『紙』も含めました💦)