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胡麻豆腐をつくるときの心得

精進料理のなかでもおもてなし料理と言われる「胡麻豆腐」。高野山や永平寺に行くと、お土産でも売られている。
胡麻を擦って練りゴマの状態にし、葛で固める。出汁や調味料を入れるものや、練りゴマから作るものなどレシピは様々。そんななかでも胡麻と葛と水だけで作るレシピがあり、胡麻を油がじっとりと出てくるまで擦り続け、抽出した胡麻の油を少しずつ水を加えて溶かし、葛で固める。調味料を加えないので胡麻の擦り加減が味の決め手。とっても時間はかかるし安定した味にはならないけれど(ごまかしがきかない)、そのときによって味が変わることと、このシンプルさがが精進料理らしくて気に入っていて、胡麻豆腐をつくる精進料理教室では必ずこのレシピを使う。胡麻豆腐を作ったことがないばかりかすり鉢を使ったこともない方も多いので、ゴマから油が出てくるまで擦り続けるのは本当にくたびれる作業。それでも胡麻豆腐を作るのが1番反響がある。

胡麻豆腐を作ることのなにが楽しいかというと、実は胡麻豆腐が完成することや、うまくできた胡麻豆腐を食べることではないだろう。
胡麻をフライパンで乾煎りするときの胡麻のにおいやパチパチとはねる音。胡麻を擦っているときの擂り粉木棒から伝わる感覚やにおいの変化、ゴリゴリとすり鉢をする音、目に見えて状態が変わっていく様など、調理過程で五感が刺激されるところに胡麻豆腐の楽しさはある。また、がんばらないと胡麻が擦り終わらないので自然と心は料理に集中(もしくは没頭、無心になること)できる。
胡麻を擦り終えたら今度は水に溶かして布巾で濾して油を出し切り、葛を加えて火にかけながら練っていく。これもまた力作業だが、胡麻から抽出された油と水と屑が混ざった白い液体がだんだんと状態が変化し透き通っていく様を、集中して目で確認しながら絶えず手を動かし続ける作業は、なんだか病みつきになる。

そして胡麻と葛と水しか使わないこの胡麻豆腐のレシピは、なにもなくてもおいしいものは作れるという自信を持たせてくれる。精進料理をやっていると、料理というものはなんと単純な作業の組み合わせなんだろうと気付かされる。洗う、切る、焼く、煮る、混ぜるくらいしかやっていない。いつのまにか料理が難しくて複雑なものになっていてめんどくさいにつながっていたけれど、ほんとうはいたってシンプルなもの。精進料理を習ったからには日々の生活も野菜に気を使って丁寧に料理して、なんてことは求められない。日常生活にそった料理の仕方があるだろう。
ただこんなに大変なものを作れたんだから、今日のところはちょっと手間を省くけれどやろうと思えば私は手の込んだ料理もできるんだと、私は心の支えにしている。


読んでくださってありがとうございます。精進料理がきっかけで移住したと言えるくらい精進料理の世界にはまっていますが、食べるものはなんでも好きです!四国は野菜に果物、お魚などおいしいものがたくさんあるので、食べものに使わせていただきたいと思っています。レポートします!