【限局性学習症/SLD(学習障害/LD)は教育と医学では基準が違うんです】その弊害とは?
・漢字がどうしても覚えられない
・勉強してもすぐ忘れてしまう
・先生の話を聞きながら板書を写せない
・算数の問題の意味がわからない
こういった自覚のある方、もしくはお子さんや支援している子にこういった特徴のある子はいませんか?
学習支援をしている中で、「限局性学習症/SLD(学習障害/LD)」に気づいていない保護者や先生をよくお見掛けします。
ひと昔前までは、「勉強の苦手な子」として問題にもならず、放置されていることがしばしばでした。
ですが、今はSLDによる弊害や本人の生きづらさに繋がっていくことも知られるようになり、いち早く支援を入れるべきだと日ごろから痛感しています。
なので、少しでも「もしかして自分って学習障害なのかな?」「うちの子ってもしかしてSLD?」「担任してる、あの子はもしかして?」と感じられる方は、ぜひお読みいただければと思います。
【限局性学習症/SLD(学習障害/LD)って何?】
「学習障害」は、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、発達障害のひとつです。
この学習障害は、「教育の領域」と「医学の領域」で考え方が少し異なります。その違いについてお伝えします。
【教育の領域での学習障害とは】
一般的に「学習障害(LD)」と言うと、文科省が定義した「教育の領域」での学習障害の考え方が一般的です。
■教育の領域でのLD(Learning Disabilities)
・知的に遅れはない
・読む、書く、話す、聞く、計算、推論の困難が1つ以上存在し、6ヵ月以上持続して困難を示す
・障害の原因として中枢神経系になんらかの機能障害が推定される
・視覚、聴覚、知的、情緒障害などの障害が直接の原因ではない
・環境的な要因によるものではない
(参考:文科省「特別支援教育について」)
「読む・書く・話す・聞く・計算する・推論する」などの知的能力が部分的に遅れている発達障害です。これまでは、“勉強が苦手な子”と捉えられ見過ごされることも多かったです。
が、現在はこの6つの障害のいずれかを持っている子どもを、現場の先生方が学習障害と「判断」し、支援を行っています。
この6つの障害の詳しい内容は、明日以降、記事にしていきます。
【医学の領域での学習障害とは】
医学の領域では「読字の障害」「書字の障害」「算数の障害」の3つに分ける考え方=「限局性学習症/SLD」が一般的です。
なぜかというと、医学において発達障害と診断する際の基準としてよく用いられる、アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル『DSM-5』」や、世界保健機構(WHO)の「国際疫病分類(ICD-10)」の分類では、LDに関する項目がその3つになっているからです。
では、どのような基準なのかまとめてみます。
■限局性読字障害(文字を読むことが困難な障害)
◆文字を見て理解しているのに言葉として出てこないタイプ(ディスレクシア)
・音韻の困難(文字と音が一致しない)
◆文章の内容が理解できないタイプ
◆まれに視覚機能自体に困難がある場合もある
※ディスレクシアに関しては、新井 清義(あらい すみよし)さんの記事がとってもわかりやすいです。おすすめです↓
■限局性書字障害(ディスグラフィア:文字を書くのが困難な障害)
◆文字が正しく書けない(特に漢字)タイプ
・音、イメージから文字が浮かばない(想起の困難)
◆文法や句読点の使い方や文章表現がわからないタイプ
・順序性の困難(記憶力・計画性の困難)
◆運動機能に課題がある(手先の困難)
■限局性算数障害(ディスカリキュリア)
◆計算が苦手なタイプ
・数概念の困難(数とイメージが一致しない)
・ワーキングメモリの不足(暗算できない)
◆数学的推論ができないタイプ
・「読む」力が弱いために、設問の意味がわからない
・量感の未形成(空間認知能力の困難)
このように、医学の領域では3つの分類で考えられ、「診断」されています。
【教育と医学ズレで生じる別の診断名とは】
◆判断基準が異なるため、宙に浮く子が出てくる
ざっくり説明すると、「学習障害」を教育では「学習に困難がある障害」、医学では「文字の取り扱いに困難がある障害」という認識です。
2つの領域の学習障害について読んでみると、その違いに気づかれたかと思います。
「話す」と「聞く」は医学では診断されないの?
そうなんです! そこなんです。
医学の領域では「話す」「聞く」の判断基準がないため、この部分に障害がある子どもたちを「学習障害」と診断されない場合が出てくるんです。
では、そういった子どもは何と診断されるのか。
私が今までみてきた子どもたちで最も多かったのは「コミュニケーション障害」と診断されているパターンです。
◆コミュニケーション障害とは
言語や会話、コミュニケーションに困難がある5つの疾患の総称で、先ほどの学習障害の判断基準でもあった『DSM-5』には、「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」という診断名で記載されています。
つまり、「学習障害」とは分けられて考えられているんですね。
では、コミュニケーション障害とは何かをまとめてみます。
①言語症/言語障害
言語の習得や使用に持続的な困難がある状態。使う語彙や構文の種類が限られていたり、文章をつなげることが難しいために話す能力が制限される。
②語音症/語音障害
身体的や神経学的な障害がないにもかかわらず、言葉を明瞭に発することが難しい状態が続き、会話による意思疎通が制限されるために社会生活や仕事などに支障が出ている状態。治療により会話の困難が改善するケースが多いとされる。
③小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害(いわゆる吃音)
音声や音節が頻繁に繰り返されたり、延長されたり、途切れたりするためにスムーズな会話が難しい状態で、吃音(きつおん)とも呼ばれる。会話の途中で無言になったり、言いにくい言葉を避けるために遠回しな言い方をすることもある。
④社会的コミュニケーション症/社会的コミュニケーション障害
言葉や、表情や姿勢、声色などの「非言語的コミュニケーション」の状況に応じた使い分けが難しいために、社会生活などに支障が出ている状態。ユーモアや比喩など、文字通りの意味を意図しない言葉やあいまいな意味の理解が苦手な傾向も見られる。
⑤特定不能のコミュニケーション症/特定不能のコミュニケーション障害
上に挙げたコミュニケーション症の症状があるものの、どの疾患の診断基準も完全には満たさない場合。
①と④が、文科省の「話す」「聞く」の判断基準に近いかと思います。
【教育と医学で判断基準が異なる弊害】
上記の医学における「コミュニケーション障害」を、一般のご家庭や学校の先生方にはあまり知られていないのではないかと感じます。
「コミュニケーション障害」と聞くと、社会性のスキルが弱い、人との関わり方に課題がある、といったイメージを持たれませんか。
なので、今まで私がみてきた子どもたちの中で、私からすると学習障害なんじゃ?と感じられる子どもも、診断名はコミュニケーション障害のため、学校や支援現場ではSST(ソーシャルスキルトレーニング)を受けていた、ということが多々ありました。
そうじゃないっ! そうじゃないんだぁぁぁぁ。人との関わりに問題があるのは結果であって、原因は「話す」「聞く」に課題があるからなんだぁぁ。
と、何度思ったことか(半分グチ)。
教育と医学の領域で判断基準が異なると、こういったパターンも出てくるため、適切な支援が届かなくなることが弊害です。
もちろん、お医者様の中には文科省の基準をご存じの方も多くおり、「話す」「聞く」に課題のある子どもを学習障害と診断してくださる方もいらっしゃいます。
ですが、実際に「コミュニケーション障害」と診断され、適切な学びに繋がっていない子どもたちがいます。
【まとめ】
「コミュニケーション障害」という診断名を見て学習障害と気づかない保護者や支援者もいらっしゃるため、今回このテーマを取り上げました。
学校や支援現場、ご家庭において、この違いに気づいて正しい判断のもと支援が出来るようになれればと願っております。
どの子どもにも適切な教育が行き届きますように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
↓続きの記事↓
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。「面白かった!」と少しでも感じていただけましたなら「スキ」していただけると、とっても励みになります!また遊びにきてください。全記事サイトマップ→https://note.com/kira_rin/n/na833d2ecd1be