マローボーン家の掟を観た〜家族という虚構の話〜

昨年観たマローボーン家の掟のDVDが出ていたので借りてきた。感想。(若干ネタバレかもしれない)


あらすじはこういった感じ。
“マローボーン家の4人兄妹は、森の中の大きな屋敷でひっそりと生きてきた。彼らは、母親が病気で亡くなり凶悪な殺人鬼である父親を殺害したことをきっかけに、不可解な現象に見舞われる。母の死後に生まれた五つの掟が次々と破られ疲れ果てた長男のジャックは、妹たちを守るためにある決断を下す。”(シネマトゥデイより)


ドント・ブリーズあたりから流行った〜したら化け物が来る類の禁止系ホラーかと思ったら、もっと重たく悲しい家族であるための掟の話だった。


恐ろしい父親から逃れ、辿り着いた母の生家で厳重な掟に縛られながら過ごす兄弟の姿は、自然豊かなのにどこか寂しい風景と合って美しい。


正直作中の謎のタネにはホラーやサスペンスが好きなら途中で気づいてしまうと思うけど、この映画の大事な部分はどんでん返しではないから問題ないと思う。
大事なのは、掟を敷いて限定された空間の中で生み出されていた家族という虚構の方だ。


前作の永遠の子どもたちを観て、監督は家族というものに対してすごく冷ややかな諦めに近い感覚を持っていると思った。

家族とはいえ、同じ家に住んでいるだけの、血が繋がっているだけの他人という、愛とか情とかで普段蓋をしている事実を、淡々と、でも、嫌というほど突きつけてくる。

今作は更に、絆であるべきものががそのまましがらみに転化する家族という呪いも描かれていた。

冒頭で、子どもたちを連れて移住しきた母は埃だらけの床に線を引いて言う。
「思い出は消えて過去はなくなるの、新しい人生を踏み出すのー」

彼らにつきまとっていたのは、犯罪者である父の姓という呪いだ。どこにいてもつきまとうフェアバーンのいう父親の姓を捨て、最期まで優しかった母“マローボーン”の子どもたちで居続けるために彼らは掟を敷いた。
暗く軋む家の中で見えない影に怯えながらも、その家が、兄弟と一緒で居られる楽園という物語を紡ぐために。

現実から目を背けるための掟はひどく脆くて虚しいし、隠されたショッキングな事実は徐々にボロを出す。

ラストは万人がハッピーエンドだとは思わないと思う。
特に最後、現実と向き合う術を捨てて、穏やかに寄り添うマローボーン家の住人たちの姿はとても病的だ。

でも、その病理は家族という虚構を生きているひとが全員持っているものじゃないか。

ただの他人どうしを繋ぎ止める家族という虚構を生きているのは、健常な人間も彼らも同じだ。
側から見て気づくかどうかだけの違いで。

現実で作られた思い出ではなく、虚構だとしても愛で作られた物語を紡ぐための掟の話。

家族ドラマというには悍ましく哀しいけれど、ホラーやサスペンスというにはあまりに切なくて綺麗な映画だと思った。

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