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【中編小説】恋、友達から

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『恋、友達から』がセクションごとに収録されます(全20セクションですが、全19本です)
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2021年12月の記事一覧

【中編小説】恋、友達から(019、020)

 彩ちゃんが逆光で薄暗く映る。公園にいる人たちはみんな私たちのことなんか気にした風もなく、自分たちの世界を謳歌している。その向こうには多くの人たちが縁日を賑やかしている。  煌びやかな世界に私たちは二人だけのように感じられた。  ドキドキと心臓が高鳴る。  体中が熱を帯びて、同時に心のどこかが冷えている。きっと怖いんだ。ここまで状況を整えてもらってもまだダメなんじゃないかと怯えている。  ずっと誰とも付き合ったことがない。  告白なんかしたことない。  女の子しか好きに

【中編小説】恋、友達から(018)

「あれ、萌絵は?」  隣にいたはずの萌絵が忽然と姿を消していた。この人混みだからほとんどくっついてる状態で歩いていたのに今あるのは空白だけだ。 「え、いないの?」 「ほんとですね」  二人が振り返る。立ち止まる訳にはいかないから歩きながらざっと周囲を確認して、近くにいないと分かったからすぐに脇に外れた。 「ちょっと連絡を」とスマホを取り出したところまさに萌絵から電話が掛かってきたところだった。私が話し出すのと同時につぐみたちもスマホを取り出して何やらチェックしていた。

【中編小説】恋、友達から(017)

 屋台を回り始めて三十分くらい経ったと気付き、花火が始まるまであと一時間だなぁと思い、気付けば打ち上げ会場の近くまでやって来ており、ここからでも協賛席とその奥の海が見えるんだと驚いて、一般観覧席はこの近くだけど人の多さを考えれば意味はあると思い、射的のために屋台が続く方へ歩いていくけど観覧席に行くためにこの人混みを戻らないといけないなんて大変だなぁ……。あ、でも逆の流れが出来てるから大丈夫か。――と、そんなことをぼんやりと思っていたら、 「はぐれた」  いつの間にかみんな

【中編小説】恋、友達から(016)

 それにしても緊張する。この浮かれてしまう状況を利用してこっそり萌絵から情報を引き出そうと考えているせいでさっきからお祭りを微妙に楽しめていない。 「葵は何にする?」 「シンプルにリンゴ飴にします。つぐみちゃんは?」 「私はイチゴ。萌絵は?」 「キウイかな。彩ちゃんは?」 「じゃあブドウで」  それぞれ受け取って脇に捌ける。ちょうど空いてるところがあったからささっと移動した。 「うん、お祭り効果もあるだろうけど、美味いね」 「そこは言わなくていいんですよ」  と葵に文句

【中編小説】恋、友達から(015)

 晴天の六時過ぎは見事なまでの茜空で、私は観覧席の入場券が巾着袋に入ってるのを改めて確認すると、サンダルと浴衣で彩ちゃんの家に向かった。  浴衣は薄い黄色の生地に赤い花が散らばっている柄で、お母さんが用意してくれたもの。自分で言うのもなんだけど、結構似合ってると思う。  でも問題は、彩ちゃんにそう思ってもらえるかどうか。  彩ちゃんは家の前に立っていた。  紺の生地に金魚が泳いでいる柄で、波紋がよりオシャレに見せている浴衣。彩ちゃんの可愛らしさと美しさに見事に調和していた

【中編小説】恋、友達から(014)

 その数日後――夏休みを翌日に控えた夜、私はお母さんと話をしていた。 「花火大会は雨天決行だけど、降ったら無理せず他のことして遊ぼうってなってる。うちからでも花火見えるしね。打ち上げ開始が八時だから六時半に集合で、打ち上げの三十分前までは縁日を見て回る予定」  続ける。 「一般観覧席の入場券――リストバンドなんだけど、当日正午に配られて一人で五人分まで確保できるから、私が並んで貰ってくるつもり。人数が埋まっちゃったら適当なところで見るよ」 「みんなで四人よね? どこで