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行き違い

私は漫画は電子書籍に、一生読み返す様な本は紙に分けて読むようにしている。紙の本はその気になって買おう、となれば腰を上げられるのだが電子は左様とはならない。金銭の流出が視認できなくて散財してしまいそうで抵抗があるのだ。唯一、知人が書いた漫画が掲載された雑誌を買うのに恐る恐る金をちびったぐらいだが、その位抵抗がある。

そんなので無料漫画ばっかり漁ってしまう。無料だからと見くびるなかれ、存外に面白いものが転がって来た。「間宮さんといっしょ」という、NHKのような響きの作品である。残念なことに無料なのは一巻だけだったが、一巻だけでも我々の、自他領域の認識を歪めそうな程の圧力を持っていた。

あらすじは割愛させていただく(一巻は此処から期間限定で読める。コミックシーモアだが、リンク:https://www.cmoa.jp/title/86057/)が、主要登場人物の3/4が利己的であった。然し残りの人々とも、他人と関わるうえでの共通点は在った。其れは、他人を想っているとき、其の像は他人の恰好をした自己であったという事だ。

思い出してほしい。今にも宿題に手を付けようという時に「勉強しなさい」と怒鳴る大人の姿だ。彼/彼女は、少なくとも我々の将来の利益の為に忠告をしている、という意図はくみ取れるのだが、何だか頓珍漢な事を云うもんだ、と怒りが沸き上がってきた記憶があろう。

彼らは真に我々を見ていなかったのだ。若し真に子供を分かっていたのなら、勉強をしようという意図を汲み取って、我々を其の儘向かわせていた筈だ。ならば、彼/彼女等が心を向けていたのは、誰かというと、丁度子供大に縮んで我々に重なった自分自身であったのだ。偶々目に映った自分の子供が遊んでいるのを見て、子供を優秀にしようと企んでいたのを思い出して、自身の神経を延長させ、筋肉を動かすように子供に投影された自身に命令を下すのである。

我々がこんな調子であるのは、子供に限らない。私は生粋の陰キャラ村っ子なので、こんなのを見つけてしまった。(https://ayamevip.com/archives/53726456.html)ゲームの二次創作だが前提が無くても読める筈。(私は此のゲームを一回もやったことがないので、恐らく他の方々も差し支えは無かろう。)或るアイドルをプロデューサーが妊娠させてしまった為に、彼女の指示で、仕事を放り出して逃避行をするという物語だ。彼女は、旅の間にプロデューサーに、アイドル業を二人で降りようと決めるだろうと期待しているが、此の作品の視点であるプロデューサーは、彼女が芸能界に戻れるよう、堕胎の決心を固めるだろうと意図している。此処でも、互いは自身の願望の像を相手に見ていて、相手の眼を見ている訳ではないのだ。

人と深い関係を持つということは、相手自身の思想を手に取って吟味しなければならないので、皆其の、自他を歪め得る綱渡りから目を背けようと決め込んで関わっているんだろうか。そんならば、「人間は、お互い何も相手をわからない、まるっきり間違って見ていながら、無二の親友のつもりでいて、一生、それに気附かず、相手が死ねば、泣いて弔詞なんかを読んでいるのではないでしょうか。」(人間失格、太宰治、青空文庫157p)

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