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『PERFECT DAYS』??

ヴィム・ヴェンダース作品は初めて。

観ている間ずっと、この作品のコピー「こんなふうに生きていけたら」が引っかかっていた。本当にそう思う?なんかいいとこしか映ってなくない?「こんなふうに生きていけたら」なんて思う人は、今の便利で恵まれた生活があるからこそ、安全地帯で「こんなふう」にならないと分かっているからこそ、思うんじゃないの?

平山だって生まれは裕福みたいだし、トイレ清掃員で質素を極めた生活をやらざるを得ないという状況でもなさそう。そんな彼の生活に精神的な豊かさを見出すのはなんだか違う気がする。他者を消費しているように感じる。自分とは違う世界の存在、同じまなざしを持たないものとしてこの映画は平山を見せて来る。それでいいのだろうか。

上手く説明ができないけれど、私には平山の主体性があまり見えてこなくてそのせいであまりこの映画に入り込めなかった。きっと彼は自ら進んであの生活をしているのだろうけど、その背景は極力排除されている。多くを語らない映画はよく観るし好きだけど、本作にはどこか違和感を覚えた。言葉にできないのがもどかしい。

上手く入り込めなかったけれど、最後の『Feeling Good』が流れたシーンには引き込まれた。あのシーンのためにこの映画があるんだなと全員が気づいたと思う。毎朝仕事に行くのに家を出て空を見上げて微笑むわけないだろ、と思っていた私でも、このシーンには胸打たれた。少し悔しい。このシーンに限らず、音楽はとても良かった。

あと、小津っぽい(と言われるであろう)ショットが多く、そこも素敵。私はそんなに日本映画に詳しくないから分からないのだけど、あの遠くから覗き込むような撮り方は小津の代名詞となっているのかしら。溝口健二『赤線地帯』を観た時も同じようなショットが多く、撮影の宮川一夫の効果なのかなと思ったけれどこれは関係あるのかしら。

私が覚えた違和感は日本人だけが覚えるのだろうか。日本を知らない人は平山の生活を手放しで称讃するのだろうか。そうなのであれば、私たちにとっての平山のように、海外にとっての日本も他者にすぎず、同じ視座には立っていないのかもしれないなんて考えてしまう。


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