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おそらくこの世で一番面白いすごろく、wiiパーティについて。

 今まで遊んだ中で一番面白かったすごろくは? と聞かれたら、世のゲーマーたちは即答することができるだろうか。
 ぼくはWiiパーティだと即答する。


 すごろくというジャンルを最も大きい括り方で二分すると、「アナログ」と「デジタル」に分けられる。前者には児童ホームに置いてあるような人生ゲーム等が、後者にはマリオパーティ等のテレビゲームが当てはまる。
 そして、デジタルすごろくの方は、さらに大きく二つのジャンルに分けることができる。ミニゲーム搭載型と、非搭載型の二つだ。前者の代表作としてはマリオパーティが、後者の代表作としては桃鉄が挙げられる。
 ……このように一口に「すごろく」と言ってもその形式は様々であり、それぞれ多様な良さを持つそれらの物を、強引に一緒くたにして「どれが一番か?」なんてことを考えるのはナンセンスなのかもしれない。けれども、すごろくを好む者であれば、ぼくはやはり「一番面白いすごろく」を決めておくべきだと思う。何かを自覚的に好む者のたしなみとして、自分の価値観の軸がどこにあるのかは、自分で把握しておくべきだと思うからだ。
 だからぼくはすごろくの一番を決めている。Wiiパーティのすごろくが一番だ。ぼくはそれがきっと、この世のすごろくの中で最も高い完成度を誇る物だと信じている。
 そう考えるに至った理由を、以下に語っていく。




 Wiiパーティのすごろくはミニゲームを搭載したデジタルすごろくである。ルールとしては、4人のプレイヤーがサイコロを振ってゴールを目指し、誰よりも早くそこへたどり着いた者が優勝というシンプルな物になっている。
 このすごろくの特徴的な点は何かといえば、なんといっても毎ターンの初めに行われる「追加のサイコロを賭けたミニゲーム」が挙げられるだろう。Wiiパーティでは、マリオパーティのようにゲーム内通貨を賭けたりするのではなく、そのターンに振るサイコロの追加を賭けてミニゲームで戦うのだ。
 ミニゲームの順位によって、プレイヤーには以下の通りの追加サイコロが与えられる。
・1位……1~6が出る金サイコロ
・2位……1~3が出る銀サイコロ
・3位……1~2が出る銅サイコロ
・4位……追加サイコロ無し
 これらの追加サイコロは、通常のサイコロと同時に振られて、単純に出目を足し算される。つまりミニゲームで1位になった者は2~12が出るサイコロを振ってゴールを目指すというわけだ。そして、そのようなミニゲームは毎ターンの初めに必ず行われるので、プレイヤーの振るサイコロの質は目まぐるしく入れ替わっていくことになる。今回の手番では金サイコロを追加して振ったが、次の手番では普通のサイコロのみを振る……なんてことも日常茶飯事だ。
 また同時に、ミニゲームには「手番の順序」を決定する力もある。ミニゲームの順位が若い順にサイコロを振って進むことになるので、他のすごろくとは違い、Wiiパーティにおける「順番」はやはり目まぐるしく入れ替わることになる。
 そしてもう一つ、本作の特徴として見逃せない点として「関門」の概念が挙げられる。これはぼくが勝手にそう呼んでいるシステムだが、要するにゴールを目指す道中に「~以上の出目を出すまで先に進めない」という箇所がいくつか存在している。
 ……文章で一見するだけではそれの何がそんなに面白いのか伝わらないかもしれないけれど、この関門のシステムが、本作のすごろくゲームに深みを持たせていることは間違いない。詳しくは後々説明しようと思う。
 ……さて、ところで今のうちにはっきりさせておきたいことなのだけれど、「面白いすごろく」の定義とはなんだろう?
 幼少期から今に至るまでずっと家族ですごろくゲームを遊んできた身として、ぼくはその定義をこのように考えている。

・サイコロやその他のランダム要素が、ゲーム性を向上させていること。
・プレイ時間のできるだけ多くの割合で、参加者全員が楽しめること。

 ……つまり、運要素を取り除いた方がより理にかなった作りになりそうなゲームだったり、誰か一人にでも楽しめない時間が発生することが当たり前になっているゲームは、「すごろくとして面白い」とは言えない。……と、ぼくはそう考えている。
 その点、Wiiパーティは完璧だ。その完璧さを解説するためには、まず「ミニゲーム搭載型すごろく」が根本的に抱える難点、ジレンマについて説明する必要がある。
 ミニゲームの勝敗とは、基本的には運ではなく技術で決まる物である。数あるミニゲームの中に時々アクセントとして運勝負をする物も入っていることは確かだけれど、それでも技術がものを言うゲームの数の方が圧倒的に多い。なぜそうなっているのかといえば、毎ターン似たり寄ったりのミニゲームをさせられては人は飽きてしまうから、ミニゲームのジャンル自体を多様化させる必要があるのだけれど、その結果どうしても技術の介入する物を多く用意せざるを得なくなってしまうのである。短く締められる運ゲーは、どう捻っても多様性に限界があるからだ。
 しかしそうして技術を競うミニゲームを多く搭載すると、すごろくにはあるジレンマが発生する。それは、すごろくとはサイコロという運要素を軸にした根本的に運を競い合うゲームであるはずなのに、ミニゲームという技術を競い合うゲームがそこに合わさることで、運か技術か、どちらかの要素がゲーム性の中で蔑ろにされてしまいがちだということ。
 ミニゲームには全勝したのにサイコロ運だけでビリになったとしたら、何のためにミニゲームをやっているのか分からない。しかしそのまた逆もしかり……という問題を、ミニゲーム搭載型すごろくは常に背負っているのである。
 しかしWiiパーティは、その点に完璧な回答を用意している。なぜなら先述したように、本作のミニゲームが与える物は「追加の運とその質」だからだ。
 運さえあれば、ミニゲームの結果を事実上覆すこともできる。しかし確率的に考えてそれは起こりづらい……という絶妙なバランスがWiiパーティにはある。
 なおかつ素晴らしいのは、マリオパーティの「コインの入手と、稼いだそれの使い所にたどり着くこと」のように分離している技術要素と運要素を合致させる形式ではなく、最も速く前に進んだ者が優勝するゲームで技術要素が「出目の確率」に直接作用するということ。この「成果に対する報酬のレスポンスの早さ」のおかげで、せっかく発揮した運や技術に消化不良が起こってしまうということがなくなっている。溜まったコインを使えずにゲームが終わったり、周回だけは誰よりも速かったのにそれが勝利に繋がらなかったりといったことが、仕組み上起こらないようになっているのだ。
 また、Wiiパーティのサイコロには実は「ゾロ目ボーナス」の概念がある。ゾロ目ボーナスとは、二つのサイコロを振った人がゾロ目を出すと、ボーナスとしてもう一つ1~6の出るサイコロを振らせてもらえるというルールのことである。……なので先ほどは「金サイコロの持ち主は2~12が出る」と言ったけれどもあれは嘘で、正しくは「金サイコロの持ち主は3~18が出る」ということになる。
 このルールの妙は、ゾロ目の出る確率は金~銅の追加サイコロのうち全てで等しいという点にある。銀と銅だとそれぞれ出目の幅は3~12・3~10と順当に低くなっていくものの、これはビリのサイコロ1~6に比べれば明確に大きい物であり、勝ち取る価値のある物だと言えるだろう。
 けれどその一方で、実際に金サイコロを振ってみれば1+2の3が出て、通常サイコロが6を出すということも大いにあり得る。しかしそのバランスこそが最高なのだ。技術の競い合いを「不平等な運比べ」として反映することで、ミニゲームの価値を高めつつもすごろくらしい運要素をきちんと残している。
 この時点で、運要素がゲーム性を向上させているという定義にはきっちり当てはまっていると言えるだろう。運要素のあるゲームといえば、初心者と上級者が合わさって遊んだ場合でも比較的楽しみやすいジャンルだけれども、そのジャンルとしての良さもゲーム性もどちらも損なわずにいる。これは素晴らしいことだ。
 そして第一の定義は満たしたとなれば、当然話題は次の点、全員が楽しめるかどうかについて……に移るけれども、結論から言ってWiiパーティはその点も完璧に定義を満たしている。
 ゴールへの到着を競い合うゲームにおいて、参加者のうちの誰かが楽しめなくなってしまうケースにはどんな物があるだろう? ……と考えるとそれはもちろん、誰かに勝ち目がなくなった時だろう。およそ何をしても自分が勝つことは出来ないと察せてきた時、そのプレイヤーはやる気も楽しみも失ってしまいがちだ。とはいえ、あまり理不尽な逆転要素があっても、今度はそれの餌食とされる側がつまらなく感じてしまう。
 Wiiパーティはそんな逆転要素のジレンマについて、「UFOマス」を回答としている。それは数あるマスの中でも最も強力な効果を持つ物であり、止まると「ランダムな誰かと場所を入れ替える」という効果が発揮される。
 要するにビリの人もUFOマスに止まって1位の人との入れ替わりを引き当てられれば逆転が可能ということになる。……それでは理不尽すぎるのではないか? とも思いがちだけれど、これが案外そうでもないのだ。
 まず、UFOマスはステージの終盤にそれなりの数が用意されている。つまりその効果によって順位を引きずり下ろされた人が、今度は自分でUFOマスに止まって同じことをやり返すことだって現実的に可能なのである。
 また、このUFOマス絡みの仕様として、先述の「ミニゲームの勝敗が決める物」と「関門」の要素が深く関わっている。まずは関門の話からしていこう。
 道中にはいくつかの関門があると言ったけれど、「最後の関門」はゴールの直前にある。「そこを突破する=ゴール到着」を意味するその関門を突破する条件は、「サイコロで6以上を出すこと」。……普通に考えて6分の1というかなり渋い確率である。
 しかしその関門には特別な仕様がある。それは、「突破に失敗した場合にはその場に留まり、次からのチャレンジにミニゲームによって得た追加のサイコロを使える」というものだ。つまり6分の1を外したあとは、ミニゲームの順位によって最大3~18が出るサイコロで「6以上」という条件に挑めるのである。こうなると突破はかなり現実的になり、かといって成功率100%には程遠い……といった、絶妙な確率が実現することになる。
 また、繰り返しになるけれども、ミニゲームが決める物は追加のサイコロだけではない。サイコロを振る順番もミニゲームが決める。……ということはつまり、最終関門で詰まった次のターンに、他のプレイヤーがUFOマスに止まる可能性のあるサイコロを振るのが先か、それとも自分が最終関門を突破してゴールする可能性のあるサイコロを振るのが先かは、ミニゲームの結果次第で決まるのである。つまり、ゴール直前にこそミニゲームの重要度は最高潮に高まるのだ。
 しかしそうなってもまだ、ミニゲームに勝って先にサイコロを振っても運悪く関門を突破できない可能性は残る。同じように、ミニゲームに負けたところで誰もUFOマスに止まりもしなければ、関門を突破することもないかもしれない。あるいはUFOマスに止まってもどうでもいい相手と入れ替わっているかもしれないし、はたまた全身全霊で挑もうにも、そういう時に限ってミニゲームその物が運ゲーかもしれない。……という風に、最後まで運要素は生き続ける。それが絶えることは絶対にない。ミニゲームという基本的には技術を競い合う要素の重要度が最高潮に達する一方で、運要素の重要度もまた高い水準で残り続けるのである。
 ぼくはWiiパーティの他には、ここまで完璧な強度とバランスで運と実力が融合しているすごろくを知らない。しかもその上で、本作はぼくの考える「面白いすごろくの定義」を二つとも満たしている。Wiiパーティは本当に非の打ち所がなく、なおかつ舌を巻く要素の多い、まさに完璧なすごろくゲームなのだ。
 ……Switchの時代に今さらWiiのソフトを遊ぶことの難しさは承知しているけれども、すごろくに関心があってまだWiiパーティを未体験の人は、可能であればぜひ遊んでみてほしい。これを遊んだ経験があるのとないのとでは、おそらくすごろくというジャンルに対する認識自体が変わってくるだろう。
 そしてもしさらに可能なのであれば、「ビリの人にはその日の家事を一つ任せる」等の平和な罰ゲームを付けて遊ぶといい。我が家においてそうであったように、そうすることでUFOマスの魅力が倍増することを、体験者にはきっと分かってもらえるだろう。

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