見出し画像

今回のチャンピオンです

 今回の記事のタイトルは、本来なら「A週間フレンズ」という物になるはずだった。これは友人に誘われてAPEXというFPSゲームを始めたぼくが、そのあまりの一見さんお断りぶりに愕然として、
「こんなゲーム、慣れるまでに友達が60人必要だろうが!(試合は60人で行われるため)」
 と叫んだことに由来する。それと、一週間しか記憶がもたない女の子との恋愛を書いた「一週間フレンズ」という漫画をかけて、「まるで記憶がリセットされているかのように、いつまで経ってもAPEXが上手くならない」ということを表現するつもりだったのだ。
 しかし見ての通り、実際のタイトルには別の物が採用されている。なぜ今回「A週間フレンズ」が不採用となったのか、その理由は記事の最後にオチとして明かすつもりだ。……というわけで、まずは前置きとして、そもそもぼくにとって「友人に誘われてFPSを始める」ということがどういった意味合いを持つことなのかを解説するために、過去を振り返っていこうと思う。今回の話にはその振り返りが必要なのだ。



 初めてFPSに興味を持ったのは高校生の頃だった。YouTubeでたまたま見たバトルフィールド4(以下BF4)の実況動画があまりにも魅力的に感じられて、自分もこのゲームを遊んでみたい!と思ったことが全ての始まりだった。
 当時家にはPS3があったので、BF4(PS3版)を購入すれば、その憧れを実現させることはすぐにでも可能だった。……が、近所のゲームショップで見たそれには高校生にとって微妙に高いお値段がついており、その隣にはかなり格安で、前作であるBF3も置かれていた。……ぼくはBF3を購入した。
 FPSゲームは世に数多ある中で、BFシリーズにはBFシリーズにしかない特有の魅力がある。それは具体的にどんな物なのか……ということを、実際にプレイした経験をもとに、ここで一度まとめてみようと思う。

☆BFのいいところ
・32vs32という大規模のチーム戦
・戦車や航空機などの兵器が使える
・撃ち合い以外にもいろいろと出来ることがあり、エイムが下手な初心者でも比較的チームの役に立ちやすい
・装備が安定している

 大体こんなところだろうか。
 大規模なチーム戦については、PS3版のBF3に限っては16vs16に縮小されていたけれど、それでも十分すぎるほどに充実していた。スプラトゥーンが4vs4のチーム戦をしていたり、APEXが3×20のチーム戦をしていたりすることを思えば、一つのチームに2桁人数がいることの貴重性はきっと伝わるだろう。
 一つのチームの人数が多いと何が良いのか? というと、「一人あたりの責任が軽くなること」が良い。ど素人が一人だけ混じったサッカーと、ど素人が一人だけ混じったダブルス系スポーツを想像すると分かりやすいけれど、チームの人数は多ければ多いほど、個々人の下手さが試合にもたらす影響は小さくなり、初心者の敷居が低くなるのだ。運動音痴で体育の授業が苦手だった人には、特に分かる話ではないだろうか。
 その点が、BF3でFPSデビューをしたぼくには非常にありがたかった。後に別ジャンルで2vs2のゲームを遊んで知ったことだけれど、どちらのジャンルでもぼくは下手くそだったのに、やはりそちらとBFとでは、かかってくるプレッシャーの重さが段違いだった。この時点ですでに、BFシリーズは最も初心者に優しいFPSだと言っても過言ではないだろう。
 またBFには、もちろん初心者云々を抜きにした魅力もある。たとえば対人戦で、戦車や航空機に乗り込んで戦えるFPSというのは、かなり貴重な物なのではないかと思う。CoDや虹6といった有名どころや、最近流行りのバトロワ系では味わえない唯一無二の魅力がそこにあるのだ。
 しかもBFシリーズには「敵を撃ち殺す」ということ以外にも様々な役割がある。回復、弾薬補給、拠点制圧、制圧射撃、索敵兵器やビーコンの設置、敵車両の破壊。……こういった役割には、必ずしもエイム力が要求されるわけではなく、強い味方についていってそういった役割を果たすことで、「ただそこにいること」に意味が生まれたりする。そしてその意味に従って、きっちりゲーム内で点数が入る……つまり評価されるようになっている。これがあるのとないのとでは、やはり敷居の差が段違いだし、ゲームの遊び方の幅だって変わってくる。そう考えるとやはりBFは、魅力的なゲーム性と敷居の低さを両立した傑作であり、初めてのFPSでそれに触れられたのは奇跡だったと思える。
 そして最後に挙げられる代表的な魅力、装備が安定していること。……これについてはぼくは当時、それが当たり前だと思っていた。BF3の装備(銃やアタッチメント等)はDLCを除いて、全ての物がゲーム内の点数を貯めることで平等に獲得できるようになっている。地道に遊んでいればそのうち全ての装備が使えるようになるし、一度使えるようになった装備はあらゆる戦場において愛用することができる。……書いていてなお「これが当たり前だよなぁ」とぼくは思うのだけれど、実はこれもBFの大きな魅力のうちの一つなのだ……ということを、FPSデビューを遂げたあとのぼくは後々知っていくことになる……。
 しかし、ではまぁそういう感じで、初心者に最も優しいFPSことBFシリーズに触れられた高校時代のぼくは、それをきっかけに楽しいFPSの世界へどっぷり浸かることが出来たのか……? ……というと、実はそんなことはなかった。
 めちゃくちゃ持ち上げておいてなんだけれど、悲しいことに、ぼくはBF3をあまり楽しみきれなかったのだ。その件についてBF3は何も悪くない。悪いのはぼくのゴミカスなエイム力だった。
 FPSに触れて初めて分かったこと、それはエイム(照準を敵に合わせること)が想定の百倍難しいということだ。それはもう鬼のように難しい、ていうか無理だろ、これができる人は全員化け物かよ……と思うほどだった。FPSに興味を持つきっかけとなったYouTubeの動画に対するリスペクトはそれである意味深まったけれど、憧れたゲームを自分の力ではまともに遊べないことの悲しさは、それをさらに上回った。
 フリックエイムはままならず、追いエイムもままならない。マジでこれっぽっちも照準が合わない、荒ぶる、明後日の方向へ向かう。リコイル制御の話にたどりつけすらしない、引き金を引く以前にまずエイムができない。感度をいじってみてもチーデスに潜り続けても、いつまで経っても成長の欠片も感じられない。……俺にはFPSができない! たしか50時間ほど遊んだ末に、そんな結論に達したように思う。ぼくはFPSを諦めた。BFは間違いなく良いゲームだけれど、ぼくの才能の無さがそれを負の方向へ追い越してしまった。
 ……そんな挫折からしばらくして、世間でとあるゲームが流行り始めた。彗星のごとく現れたそのゲームの名はスプラトゥーン。2023年3月現在、最新作たるシリーズ3作目のアップデートが頻繁に行われている超人気TPS(FPSの亜種みたいな物)であるそれの初作が、心折れた当時のぼくの目にも止まった。
 地面や壁に色を塗るという斬新なゲーム性、ローラーとかいう他FPSではまず見ないような武器種、ジャイロ操作なる新たなエイムの方法。……もしかしてこれならぼくにも出来るのでは? そんな希望を胸に、ぼくはスプラトゥーンを購入した。
 それで、実際に遊んでみて分かったスプラトゥーンの良いところを挙げてみると、大体このような感じだった。

☆スプラトゥーンのいいところ
・ジャイロ操作に希望を感じる
・リコイルが存在しない
・武器の個性が極めて豊富
・スペシャルがあることで行動にメリハリが生まれる

 まず何よりもジャイロ操作とリコイル。ここにぼくは希望を感じた。操作がジャイロになってリコイルの概念が消滅したところで、エイム下手すぎマンはエイム下手すぎマンのままであり、撃ち合いでは負けるしチャージャーを使うなんて夢のまた夢だけれど…………しかしそれでもなお、普通にスティックを使ってエイムするよりは遥かに希望を感じることが出来た。上手くはいかない、けれど、挫折するほど何もかもがそうというわけではなかったのだ。「下手なりに遊べる」というラインにまで、ジャイロ操作のおかげでようやくたどり着けたように感じた。俺、いま、このゲームを遊べている! BFではついぞ体験できなかったその感覚を、スプラからはしばしば受け取ることが出来たのだ。リコイルだってない方がありがたいと、初めて明確に実感できたのだ。
 そして次に感心させられたのが、武器の個性について。BFの武器にも個性はあった。アサルトにスナイパーにライトマシンガンやショットガン、ハンドガンにもフルオートやリボルバーやサプレッサーがあったり、ロケランがあったり、それぞれの武器でダメージ値な連射力のレートが違ったり……と十分に個性的だったように思う。けれどスプラの武器にある個性は、そういった物とは次元が違った。
 色を塗るというゲーム性が生まれたことで、武器の個性にも「威力や連射力や反動」の他に「塗り性能」という物が現れた。それが死ぬほど画期的だった。ザップやガロンのような物はもちろん、敷居の高さを生みがちなリコイルの概念をオミットした一方で、従来のそれが担保していたゲーム性を肩代わりするかのように現れる、スシに対するマーカーといった物たち。ローラーというまったく新しい概念の中にさえカーボンからダイナモまで様々な個性が確保されており、ほかにも筆、バケツ、ガトリング、ぼくには扱えないチャージャーの方にもそれはまぁ色々と……。個性的な武器を挙げればキリがない。
 個性豊かな武器を握ることの楽しさにおいて、スプラは明らかに従来のFPSゲームを超越している。ぼくはそう感じた。
 また、スプラにはBFにない概念として「スペシャル」という必殺技のような物があった。これは最近のFPS界隈だとウルトという呼ばれ方もしている概念だけれど、とにかくその「戦うことでゲージを溜めて、溜まったら必殺技を使う」というサイクルが、BFにはなかった新種のメリハリを生む神システムだったのだ。特にぼくにとってはそれが初めてFPSの文脈で出会った「必殺技」の概念だったから、ことさら衝撃を受けた覚えがある。必殺技の何が良いって、死んだらゲージがリセットされてしまうところが良い。キルされないことの大切さをぼくに最も直感的に教えてくれたのは、スプラのスペシャルをおいて他になかった。
 そうした未知の魅力の山に巡り会えた上に、操作性にまで希望を感じていると来たものだから、ぼくの一度は折れた心もそれでよみがえった。今度こそ自分はこのFPS(TPSも含む)というジャンルのプレイヤーとして生きていけるようになったんだ……! そんな気がした。
 ……けれどそう思ったのも束の間、一年も経たない間に、ぼくはスプラトゥーンを引退することになる。その理由を説明するために、ここは公平に、スプラトゥーンの悪いところも挙げることにしよう。

☆スプラトゥーンの悪いところ
・遊ぶルールやマップが選べない
・装備がガチャな上に影響が大きい
・ガチエリア以外のランクマの敷居が高め

 まず何よりの欠点、ルールが選べないこと。スプラのランクマには「ガチエリア」「ガチホコ」「ガチヤグラ」の3種類があるのだけれど、これらのうちどれで遊ぶのかを、プレイヤーは自分で決めることが出来ない。ゲーム側が「何日の何時まではこのルールです」という風に遊べるルールを決めており、ランクマで遊ぶにはそれに従うしかないのだ。またステージについても同様に選べず、それはカジュアルマッチにおいてすらそうだった。
 BFではプレイヤーがリアルマネーをはたいてサーバーを所有することで、各サーバーのオーナーは自由にステージやルールを決められるし、参加するだけのプレイヤーも数あるサーバーの中から目当ての物を選べる……という仕様になっていた。もちろんぼくは下手くそのカスすぎてサーバーを借りたいなんて気になるところまでたどり着けもしなかったし、リアルマネーを支払っている人たちの苦労と覚悟には想像しきれないところがある。……が、そういった諸々を鑑みても、望んだルールで遊べないことのストレスは想像以上の物だった。
 せめてそのルールという物が3つとも面白ければ、選べないことに対する不満も薄まっていたのかもしれない。……けれど断言させてもらう。少なくとも初心者から見れば、スプラのランクマは、ガチエリアが一番面白くて、他二つはどう考えてもそれに劣る物だった。異論は認めない。
 なぜガチエリアが面白いのか? それは、知識に乏しくても比較的まともに戦うことが出来て、行動の自由度が段違いに高く、そしてスプラの代名詞たる「塗り」の概念が、試合のルールに直結しているからだ。他二つのルールはこれを欠いている。
 これは実体験から言えることだけれど、ホコとヤグラは、マップをきちんと把握できてなければまともに試合が行えない。どの道を通ればホコを相手陣地に運べるのか、ヤグラはどこを通るのか、自分はどこを通ればヤグラの通り道に行けるのか。……という事柄は、知識としてマップが頭に入っていなければ分からず、それが分からなければ試合にならない。さもなくば、コースが覚えられないままマラソン大会に出場するような状態になってしまう。
 けれど、エリアの場合はそうでもない。どこに塗るべきエリアがあるのかは一目瞭然で、そこへの行き方も、まぁ適当に方角さえ合っている向きで走っていれば、そのうちたどり着ける程度にはシンプルだ。もちろんマップを把握しているのとそうでないのとでは戦略に天地の差が生まれるのだろうけど、「とりあえずゲームに参加する・試合を試合として成立させる」という点において、エリアの敷居の低さは随一だった。
 そして重要なことに、すでに一度言ったことだけれど、「スプラのマップは選べない」。マップが頭に入っていなければホコとヤグラはまともに遊べないが、とりあえず一つのマップを集中して覚えてしばらくはそこで遊ぶ……というような手段は、取ることができないわけだ。
 また、ガチエリアが「死んだ時のリスクが大きすぎるから、できるだけエリア(ステージのごく一部を占める激戦区のこと)の中には足を踏み入れるな。その外から撃て」というセオリーで動いているゲームであることに対して、ガチホコは持てば鈍足になるホコを持つことが必須のゲームで、ガチヤグラは極めて狭いヤグラに滞在し続けなければならないゲームである。つまりエリアに比べて他二種のルールは、プレイヤーの行動にかかる制限が段違いに大きい。操作や行動の自由度において、ガチエリアだけが頭一つ抜けて快適なルールなのだ。
 そして極めつけに、「塗ること」が試合に与える影響について。ガチエリアとはエリア内を塗ることによってそこを制圧し、その制圧を維持することで勝利条件を達成するゲームである。つまり絶対的に、そのルールから「塗る」という行為は切り離すことができない。しかしホコやヤグラはどうだ? 仮に「地面や壁についたインクは即時消滅する」という特殊ルールがあったとしても、ホコとヤグラはゲームを成立させることができる。もちろんまともなルールでやるよりはつまらなくなるだろうけど、エリアとは違って、少なくとも「ルールの成立」をさせること自体は出来るのだ。……分かるだろうか? 良いところを挙げて語った時に散々言ったことだけれど、スプラトゥーンの魅力と「塗る」の概念は密接に結びつきあっている。その魅力の根幹を、最も強力に活かせているランクマのルールは、ガチエリア一つだけなのだ。
 それだけ素晴らしいルールがあるのに、一つのステージに集中させてもらうことすら出来ず、どうして他の劣った二種のルールで遊ばせられなければならないのか? ぼくにはそれがどうしても耐えられなかった。自分が下手なばかりにエリアでボコボコにされるのはいい、仕方がない。しかしホコやヤグラで、行動を縛られ迷子になりながら負けるのはわけが違う。もちろんそれらのルールが好きな人はそれらのルールで遊べばいいと思うし、それを否定はしないけれど、でもどうしてどうして、嫌いなルールでしか遊べない日があるんだろう。とても耐えられなかった。
 だから、ぼくがスプラトゥーンを引退した一番の理由はそこにある。もしガチエリアを毎日遊べる世界線があったなら、ぼくは今でも現役でスプラをやっていたのかもしれない。
 そして、さらにそこへトドメを刺したのが、装備のガチャ要素とその影響力だった。スプラの防具には特殊能力が付くのだけれど、どの能力が付くのかはランダムで、狙った能力を付けるには能力のリセットと再抽選を繰り返す必要がある。……そしてその特殊能力の影響というものがかなりデカい。どのくらいデカいかというと、最適な能力を揃えられるか否かによって、キルに必要な弾数が一発変わったりするほどにデカい。こだわりとかそういう次元の話ではなく、そのガチャは回さざるを得ないガチャなのだ。
 一定のポイントを溜めるだけで誰もが平等に同じ装備を揃えられる……、そんなBFからやって来たぼくは思った。これがFPSでやることなのか……? モンハンのお守りを掘ってるんじゃないんだぞ……? ガチャを回すにも対人戦をする必要があるのに、いったいなんだこのふざけたシステムは……?
 ルールの問題とガチャの問題、それらが合わさって、ぼくはスプラへの愛想を尽かしてしまった。あとついでに、4vs4は一人あたりの責任が重くてつらいところもあった。プレッシャーがつらいという意味もあるけれど、死んでばかりいる味方にイライラしてしまうという意味もある。ウデマエA-にすらたどり着けない身分でイライラしていたのだから、自分にはこのゲームが向いていないのだと思った。実力的にも、人格的にも。
 ちなみに、公平性を期すために言っておくと、もちろんBF3にも悪いところはあった。挙げてみるならこんな感じか。

☆BF3の悪いところ
・乗り物の操作が難しすぎる上にチュートリアル無し。なおかつなぜか武装がアンロック式
・一方的な試合になることが多すぎる

 せっかく戦車や何やらに乗って戦うことが出来る貴重なFPSなのに、その乗り物類の操作が難しすぎた。特に航空機なんかひどい。ヘリの動かし方はリアルすぎて難解だし(ハンドル的な操作はなく、プロペラの推進力と、機体を傾けることで進む)、ジェット機に至ってはもはや意味が分からない。なのにそれについてのチュートリアルはほぼゼロだった。BFは最も初心者に優しいFPSだと言ったけれど、乗り物を利用する場合はその評価が180度逆転する。
 しかも、乗り物に乗っている最中はいろいろな警報が鳴るけど、その意味はゲーム中で解説されないし、戦車には座る席ごとに違った役割があるけれど、それはゲーム中では解説されない。さらには特殊装甲だのミサイルだのを搭載しているはずの戦車やヘリに乗ったって、なぜかそれらはアンロック式なので、まずは機銃で敵を何人か倒さないことにはそれが使えるようにならないし、使えるようにならないと練習することさえできない。……なんで乗り物の話になった途端にこんな死ぬほど不親切なんだ? わけが分からなかった。
 そしてもう一つの欠点は、BFの代表的なルール「コンクエスト」について。コンクエストとはBFで一番人気かつ、さっき絶賛したスプラのガチエリアに近いルールなのだけれど、それは一番オーソドックスかつ一番面白いルールであると同時に、かなりの頻度で事実上のコールドゲームが発生してしまう物になっていた。そこはスプラの方が上手く調整していたなぁ……とどうしても思ってしまう。しかしまぁ、BF3は遥か昔のゲームだし、もしかしてシリーズ最新作ではそのあたりが改善されていたりするのだろうか……? ……何にしてももうぼくがそれに手を出すことはないのだけど。
 ……さて、そんな紆余曲折を経て、話はこの記事の冒頭へ戻る。そうだ、ぼくは友人に誘われて、APEXを始めたのだった。
 ここまで読んでくれた人には伝わっているだろうけど、FPSというジャンルはぼくにとって並々ならぬ思いが、しかもほぼほぼ負の方面への並々ならぬ思いが沈殿している物である。友達に誘われたからといって軽い気持ちで三度手を出せる物ではないのだ。……けれども今回は、その友人と遊びたいという気持ちの方が勝った。
 しかし、そもそもぼくにはバトロワ系ゲームへのアレルギーがある。PUBG、フォートナイト、APEXと、様々なバトロワ系をYouTubeで見てきたけれど、ぼくはそれを面白いと感じたことが一度もなかった。一秒たりともそう感じたことがない。BFやスプラは今見ても「いいなぁ面白そうだなぁ」と感じるのに、バトロワ系はマジで、何が楽しくてみんながこんな物で遊んでいるのか、さっぱり分からなかった。
 けれど、だから逆に「あえて」なのかな、と思う。ぼくはこれまで動画で見て「面白そう」と感じたFPSに手を出しては、その心を折られてきた。ならばいっそ開き直って、まったく興味がないFPSに手を出すのも一興なのではないか? 何が面白いのか見て分からないものは、実際に触れてみればその面白さを理解できるのではないか? ……なにせAPEXは基本無料だ! ということで、スプラを引退してから早五年以上経ったぼくは、おそるおそるAPEXに触れてみたのである。
 そして、ぼくはそこで、自分の感性の素晴らしい信用度を実感した。APEXはこれまでで一番、ぶっちぎりでイカれたFPSだった。……残念ながらもちろん悪い意味でだ。
 自由には選べない装備! 異次元の広さを誇る上にある程度のことは覚える必要があるマップ!(しかもこれも選べねぇ! チュートリアルも無ぇ!) ばちくそに高い体力!(まぐれエイムじゃ一生勝てない) キャラごとの使いどころが難しい個性! 少人数のチーム!(しかもばちばちにコミュニケーション必須) 敵を撃ち殺さなければ試合に貢献できないゲーム性! 無駄に多いし拾えばいいってもんじゃないアイテムの数々! 敷居!敷居!敷居! あと全体的に画面が見づらい! 絶対まだBF3の方がUIに優れてたって!
 んああああああああああああ!!(´^q^`)
 あまりのえげつなさにぼくは発狂した。APEXは一見さんと下手くそお断りの、鬼のように敷居が高いゲームだった。かつてBF3を始めた時にすら自分以外のプレイヤーは全員化け物なのかと思ったくらいなのに、APEXに触れたことで今度は確信する。間違いなくみんな化け物だし、その化け物のうちの一人がぼくの友人なのだ。
 なんでこんなゲームが流行ってるんだ? みんなどうやって遊んでるんだ? 分からない。他人のことがまったく分からない、理解できない、なんだこのゲームは……。頭を抱えるぼくには、およそAPEXの良いところなんて物は見つけられなかった。そういう次元の話ではなく、ぼくはまったくそのゲームについていけなかったのだ。
 ……が、今のところ、ぼくはまだAPEXを引退していない。初めて一週間くらいしか経っていないのだから当たり前だとも言えるし、初日からずっと発狂しているのに辞めてないことが不思議だとも言える。ただ一つ確実に言えるのは、これが友達に誘われたゲームでなければ、初日でとっくに引退していただろうということだ。
 苦手な何かへ根気強く取り組むにあたって最も重要なこと、それは人との交流なのかもしれない。BFもスプラも、もしかしてその友達とやっていれば、もう少し長く続けることが出来たのだろうか……?
 ……ぼくは今まで、人に合わせて苦手なことをやるだなんて選択は、ナンセンスな物だと思っていた。自分に「仕方がないから合わせている」という感覚がある限り、いつか必ず不和は起こるけれど、自分の中からその感覚を消すことはどうしても出来そうになかったからだ。
 お互いに楽しめる物で遊ぶか、一人で遊ぶか、あるいは相手に合わせてもらうこと。自分の性格上、その三つだけが、友達とハッピーに遊ぶための選択肢の全てだと思っていた。……APEXの良いところをあえて挙げるのだとすれば、そういった自分の今までの認識に一石を投じてくれた点が、そうなのかもしれない。
 それと、さらにあえて言えば、ゲーム性に関係のないところでなら、ぼくにもAPEXの良いところが分かる。それはなんというか、近未来感があるところ、SF映画なんかに出てくる架空のゲームっぽさがあるところだ。
 APEXのキャラはよく喋る。こんなに喋るFPSは見たことがないというレベルで頻繁に、かつバリエーション豊かに喋る。キャラクター選択画面の映え方もFPSどころか全ジャンルのゲームと比べてもトップクラスの物を感じるし、UIとしてはいまいちでも、アナウンスや諸々の演出が非常にかっこよかったりする。そういった点は、間違いなくAPEX特有の魅力だと感じた。
 そしてぼくはその魅力の中でも、試合が始まる前のアナウンス「今回のチャンピオンです」が好きだ。試合に参加しているプレイヤーの中で、前回の試合で最も優秀な成績を収めた人がそのアナウンスと共に紹介されるのだけれど、その演出が近未来のゲームっぽくてかなり気に入っている。自分がチャンピオンになることはできなくてもだ。
 ……ところでぼくは、さっき話した通りつい最近まで「自分にとって、人に合わせて遊ぶことは、全て等しくナンセンス」だと思っていたので、たとえば自分の苦手なジャンルのゲームは、どんな絶世の美女に誘われてもプレイしないと心に決めていた。その決意は実際には友人の誘いによってあっさりと解除されたのだけれど……。……解除されたということは! ドミノが倒れるように、次の行動だって起こることになる。
 インターネットで知り合った友人の中に、APEXプレイヤーである女の子がいた。BFとスプラで過去二度も心が折れたのに、女子と遊びたいがためにFPSになんか手を染めてたまるか……と思っていたぼくの心を、例の友人の誘いが変えたので、男友達とAPEXを遊ぶなら、ネット友達(女子)とだってAPEXを遊んじゃえばいいじゃん! と思い、ぼくはその女子(以下、Yちゃんとする)をAPEXに誘った。ねぇYちゃん、APEX始めたてのチーデスで1キルもできないようなド下手くそのことを助けてくれない……? ……するとYちゃんは快く誘いに乗ってくれた。
 そうしてぼくの人生の実績トロフィーから、「ゲームの上手い女子に頼って姫プさせてもらう」がアンロックされた。とても貴重な体験だったと思う。ぼくはその日のことをあと十年は、あるいは一生忘れないだろう。
 そして最近ついにぼくは、ぼくをAPEXに誘った男友達と、ぼくと、Yちゃんの三人で、チームを組んでAPEXを遊んだ。ぼくはAPEXに触れるまでは、Yちゃんと一緒にゲームをして遊んだことなんてなかったし、その三人で遊んでみるまでは、リアルの友人とネット友達を仲介して遊ぶなんてこともしたことがなかった。リア友の誘いに乗り、APEXに手を出したことで、明らかに世界が広がったのだ。
 じゃあ、もう、ゲームのことはこの際どうでもいい! 「初心者のわりには上手い」という友人たちの言葉が、ゆっくりと時間をかけてぼくに失望していくことを表すサインでも、いつまでたってもエイムができるようにならなくても、FPSへ向き合うための心が三度折れてしまっても、もうそんなことはどうでもいい。世界が新たに開かれた時点で、APEXに触れた意味は十分すぎるほどにあったのだ! 俺たち三人三銃士、スパルタンX……!
 ……と考えていた矢先、この記事を書く直前に、Yちゃんから連絡が入った。

「ごめん、彼氏できたからAPEXできなくなったわ。わたしが他の男と通話するの嫌なんだって」

 ……そういうわけで、この記事のタイトルは急遽変更された。人生においては間違いなく、彼女が今回のチャンピオンです。
 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?