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【怪談】現代版雪女?

 現在、四十代後半の優子さんが小学校低学年の頃に出会ったある女の話。

 優子さんは年末に家族に連れられて、父方の実家に帰っていた。その実家というのが雪国にあったので、到着する前から窓外一面の銀世界に幼い優子さんは大はしゃぎだった。
 実家に到着すると、祖父祖母が孫を可愛がりに家から出てきた。古民家、広い庭、隣家は田畑を挟んで数メートル先。普段、優子さんが暮らしている都市部とは全く違う環境に、なんと言っても雪景色。
 すぐにでも遊びたかったが、どうも大人たちは大人たちで盛り上がり、忙しいらしい。「遊びに行きたい」と言っても、両親は「あとでね」と返すばかり。拗ねていたところに祖父が「お家を探検しておいで。昔の玩具もあるから、それで遊んでも良いよ」と言ってくれた。まだなんとなく納得がいかないものの、諦めて室内で遊ぶことにした。
 大人たちが談笑している居間を出て、寒い寒い廊下を歩く。適当に襖を開けると、そこは物置部屋だった。やたら木箱や段ボール箱が置かれていて、埃っぽい。他の部屋を捜索して面白いものがなければ此処に来よう、と一度襖を閉めて他の部屋に向かった。
 トイレ、風呂場、台所、寝室、父親のかつての部屋(ここももはや物置部屋状態だった)など見て回るも、面白そうなものはない。諦めて物置部屋へ行こうと引き返した。その途中、台所の前を通ると、

トントン───。

とノックする音が聞こえた。すぐに反応した優子さんは台所を覗いた。やけに暗い台所。その理由は流しの上にある唯一の窓に誰かが顔を近付けていて、ただでさえ弱い光が採れないからだった。磨りガラスの窓から中の様子を窺うように顔は左右に角度を傾けている。そして、

トントン───。

と窓をノックしていた。優子さんは恐怖よりも好奇心が優り、窓へ近寄って「どうしましたか」と言ってみた。
 近寄って、シルエットからなんとなく女性らしいと分かったが、その人は優子さんに視線を固定したかのように動きを止めて、話し始めた。

「あぁ、良かっ、た。困ってっ、いて。助けてください。寒くて、寒くて、死んじゃうぅ。お風呂、貸してください。お願い」

 若い女性の声がまさに体が凍えているように震え、途切れ途切れに聞こえた。子供ながらに『この人の命が危ない』とわかり、大人に確認するまでもなく「良いよ」と優子さんは許可してしまった。

「あ、ありが、とう」

 そう言うと顔がすうっと窓から離れ、台所が俄に少し明るくなった。そこから三十秒ほど優子さんはその場で待っていたが、何も起こらない。痺れを切らし、一旦大人たちに報告しようかと廊下に出て、居間に向かうことにした。
 居間まで向かう廊下はそのまま玄関に繋がっている。廊下に出ると、そのまま玄関が見え、そしてガラス戸越しに誰かの影が立っているのが見えた。『待ってたんだ!』と焦った優子さん。ドタドタと廊下を駆けて、玄関に行くとガラガラッと勢いよく戸を開けた。
 一面の雪、そこに立っていたのは───。

 青白い肌を晒け出した、裸の女だった。
 目は逆に充血したように赤く宙を見つめ、髪はぱりぱりと固まっている。
 その女が全身を痙攣させて、直立している。

 異様な姿を前にして動けないでいる優子さんを無視して、女はガクガクと震えながら一歩また一歩踏み出し、優子さんとすれ違うとヒタヒタと音を立てて廊下を通り、風呂場にたどり着くと扉を開けて入っていった。この間、体感一時間ほどに感じたという。
 ザァーとシャワーの出る音がして、我に帰ると戸を閉めて、風呂場へと確認しに行った。すると、居間の襖が開き、祖父が出てきた。
「あれ、優子? 風呂に入ったのかと」
 不思議そうにしている祖父と共に風呂場へ行く。まずは脱衣所に入ると、床のあちこちに雪の塊がコロコロと落ちていた。依然、すぐそこの風呂場からザァーとシャワーの音がしている。この頃には祖父も何か異常なものを感じていたらしく、恐る恐る風呂場の扉に手を掛けた。途端、シャワーの音が止み、タプンッと湯に浸かる音がした。
「湯はまだ……」
 祖父がそう呟くと、ゆっくり扉を開けた。ほかほかと湯気が立っていて、一瞬視界を失う。視界が戻ってくるとそこには誰もいなかった。浴槽に目をやると、そこには水が溜められていたが、それは湯ではなくただの冷たい水で、雪の塊が数個浮かんでいた。それも数秒のうちに水へ溶け出してしまい、湯気もすっかり消え失せた寒い風呂場に優子さんと祖父の茫然とした顔のみが残った。

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