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第4章 最初のプラン ~過去の事例を研究したものの~

滋賀県・長浜市の漆職人である宗永堂の杉中さんと一緒に、新しい挑戦が始まりました。その中には、トップ画像のように、私のパソコンへ箔押しと蒔絵をしてもらった、なんていうものもあります。最初に行ったのは、日本全国の伝統工芸の面白い事例の共有です。過去の事例を参考にすれば何か思いつくと思ったのですが・・・。

1.印象に残った工芸事業者さん ~坂本乙造商店~

私自身が過去に訪問した中で、印象に残る事業者さんがいます。

まず思い浮かぶのは福島県・会津漆器を訪問したときに出会った、坂本乙造商店の坂本社長。漆の吹きつけにスプレーを使うなど、工業化されている部分も多い事業者さんです。古くは日産自動車のインフィニティQ45というバブル時代の高級車の漆塗りダッシュボードから、フォステクスの高級ヘッドフォンの箔押しまで、工業製品×伝統工芸という文脈で活躍されています。

一番印象に残ったのは、社長自ら「漆なんて面倒な塗料、使わなくて済むなら使わない方がよいのですよ。現代では漆よりも機能的に優れた塗料がたくさんあります。」とおっしゃったことでした。その上で、「それでも漆を使わなければならない必然性。例えば、The Citizenという時計では伝統という価値を最先端のクォーツに加えているわけですね。こういった必然性が説明できるのであれば、ぜひ使おうということになります。そういった企画段階から入り込んだ上で、製品安全データシートなどを完備して、ようやく塗料として使えると言うことになるわけですね」という内容が、今でも心に残っています。

「漆はアイデンティティを付与する新素材」
HP記載のキャッチコピーの中身があって、かっこいい・・・・

FOSTEX ダイナミックヘッドフォン「TH900mk2」 (FOSTEX HPから引用)

2.印象に残った工芸事業者さん ~KYOTO Leather~

次に印象に残っている事業者さんは京都にあるKYOTO Leatherです。
田尻社長が、滋賀県・長浜市の工業技術センターで講演をされた際に、実際の製品と合わせてお話を伺いました。

日本の伝統工芸品には皮革産業が登場しません。一方、現在の私たちの生活では皮革を使うことが結構あります。そこのギャップに目をつけられたのがまず面白いです。
友禅などの様々な技法は本来、布に対応したものです。これを皮革に転用するのは本当に大変なのですが、工場を自ら訪問しつつ、B品もきちんと購入しながら事業化を進めていらっしゃるのがすばらしいと思いました。

一方、田尻社長は京都大学大学院在学中からITコンサルタントとしても活躍されています。一から工芸ビジネスを初めても大丈夫なんだ!、コンサルタントから事業を始める道もあるんだ!という勇気を頂きました。

工芸の技能と皮革を組み合わせる(KYOTO Leather HPから引用)

3.印象に残った工芸事業者さん ~ubushina~

建築素材へ伝統工芸材料の適用を考えている事業者さんです。東京・原宿のオフィスにお邪魔しました。

建材と伝統工芸は相性がよいと言われてはいるものの、実際のところ、建築家とのコネクションや超高価になってしまう工芸材料を使える施主との出会いなどが課題です。加えて、単に伝統工芸素材で作りました、という場合、田舎の会社の社長室にありそう、みたいな趣味の悪い物になりがちです。この辺のギャップをトータルで解消する会社です。

ただ、当たり前ですがこの会社さんへ登録をしたからといって、仕事が来るわけでもありません。加えて、どうしても下請的なポジションになってしまいます。やはり、直接お客様と向き合うビジネスでないと・・・、と感じました。

4.印象に残った工芸事業者さん ~アワガミファクトリー~

徳島県にある和紙の産地である、阿波和紙。講師として招いていただきました。
工業化が進んだ産地として、建材としても結構ポピュラーなものを作られています。私が訪問した際も国際版画展を開催されていましたし、新しいことに積極的に取り組んでいる産地です。

ちなみに、和紙というのは産地間の差別化が極端に難しいです。はっきりいって、どこの産地でも同じようなものを作っています。しかも、美濃和紙など高級和紙の世界では有名どころがきまっており、新しい市場への参入が難しい・・・。それだけに、どうして他産地から成功事例とされているのか、興味がありました。

阿波和紙の工房であるアワガミファクトリーでは、早い段階でアメリカ進出を果たしています。アメリカでこれが日本の紙=和紙です、という売り方を他の産地に先んじてされたのですね。外国であれば、和紙の細かな産地など、説明しても先方のイメージがわかない場合も多く、日本国内の和紙産地の序列など関係なかったのでしょう。
同じようなことが、国内の序列が決まり切っているお茶の世界でもあります。滋賀県の朝宮茶も、宇治茶が頂点の国内とは別に、海外輸出を精力的に行っている産地です。

最初から海外へ打って出て、日本の~であればここのブランド、というものを作っていく方向性。これは後に金継ぎのビジネスを立ち上げる際、大きなヒントになりました

立派な阿波和紙伝統産業会館
手漉き和紙を作成する工房
コムデギャルソンとのコラボレーション作品
古いMacが印象的な図書館

5.この方向性は止めよう ~インテリアライフスタイル東京とギフトショー~

逆に、この方向性は無理!と思ったものも書きます。

数ある展示会のうち、特にギフトショーは、支援機関が好んで出展するものです。インテリアライフスタイル東京も同じなのですが、一言で言うと、デザイン性に富んだ物品というのは山ほどあり、それだけでは差別化につながらない、ということに尽きます。むしろ、デザインを現代的にするほど無印良品に近づいていく気すらしています。
大量生産もできないし、この方向性は参考にならないな・・・と感じました。

インテリアライフスタイル東京 2019年の様子

6.個人の工房でステキと思った事業者さん

結局、大量生産ができない、職人さん1人でやっている工房が販路を切り開くというのは、なかなか大変なのだということがよく分かりました。
そんな中、一緒に活動しているデザイナーの乾さんから、すてきな輪島塗の工房を教えていただきました。輪島塗 ぬり工房 楽さんです。

漆は経年変化で色が薄くなってきます。その変化を楽しむことができる器です。漆を使う必然性、ストーリー、高級な価格が見事に合わさっている・・・
こういう存在感のある作品が作れるとよいなと感じました。直接お目にかかったことはないのですが、訪問したいものです。

時の変化で移ろいゆく色を表現した漆器 KOKEMUSU(輪島塗 ぬり工房 楽 HPから引用)

7.まとめ

それぞれの事例から学ぶべきことはたくさんあるのですが、過去の事例は過去の事例。これから何をするのか、という点では正直なところよく分からないままでした。フランチャイズをするわけでもないのですから、それはそうです。

中小企業診断士というか、士業の悪い癖として、勉強だけ続けてしまう、というものがあります。もちろん、お客様に価値を届けるため、勉強し続けることは必要です。ただ、自分で実際に理論を試すことなく、勉強だけをし続けてしまうのが問題なのです。

これは地方自治体や支援機関も同様ですが、各地の先進事例と称するものを視察したり、勉強会だけしておしまいになるケースです。結局、やる気のある事業者さんが必死に頑張った結果、成功事例として認識されるわけです。コンサルタントが各所で補助事業のために先行事例をまねて事業計画を書いたとしても、補助金は通る一方、実際の事業の失敗は避けられません。

【夫婦が得た教訓】

過去の事例は過去の事例。学ぶ必要はあるものの、それだけでは何も生み出せません。地図のない道を歩く勇気と歩き始める決断が、未来を創るには欠かせません。

次回に続きます!

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滋賀県のびわ湖のほとりでコンサルティングと伝統工芸のお仕事をしています。今後もnoteを通して皆様と交流できれば幸いです。

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