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第8章:特徴を強みにできるビジネスを考える

前回、金継ぎ作品を海外に販売するビジネスを始めようと決めました。今回は実際にビジネスを始める際の経営戦略です。経営の中核は「創る(開発)→作る(生産)→売る(販売)」と言われます(出典:『V字回復の経営』 三枝匡 日経ビジネス文庫)。
それぞれを誰が受け持つべきでしょうか・・・

1. 創る

まずは価値を創る部分です。この部分は私と妻で一緒に考えました。日本ではSDGsと呼ばれますが、欧米ではサステイナブル、環境と調和した形でのビジネスが強く求められています。

こういった新しい価値観=思想を反映する工芸品が求められているという理解を行いました。
特に高額な工芸品は「自分はこういう人だよ」というメッセージを周囲に与えることになります。一種の見せびらかしと言えばその通りですが、家に飾るのであれば、知的で現代的なイメージを与える存在に、ギフトとして贈るのであれば、その意味がきちんと相手に伝えられるものであってほしい。つまり、価値の本質は工芸品の背後にあるサステイナブルな価値観=情報ということになります

決して、金継ぎ=金の模様が入っていてきれいでしょ!ということではありません。それであれば、1個500円くらいの金継ぎ模様入りの器で十分です。なぜお客様は高いお金を出してまで手作りの工芸品をお買い求めになるのか。それを徹底的に考えなければなりません。

【サステイナブルな思想を実現する工芸品に必要な条件】

  1. 金継ぎを美術史的に位置づけ、深い精神性をもつ現代的なアートであると宣言し、サステイナブルな趣旨をアメリカで理解される文脈で説明する

  2. 伝統的な漆を使って作った作品であることを明記する

  3. 金継ぎの精神を大切にするため、故意に割っていない器であることを明確にする。器の入手先を明らかにする。器自体も価値があるものが望ましい

その上で、商流を含めデザインします。売れた場合にどのような形で利益分配を行うのかまで、職人さんときちんと話し合いました。共栄できなければ、事業の継続はできません。

2. 作る

見事な作品を作るのは、もちろん一緒に事業を行っている、宗永堂の杉中さんです。杉中さんは滋賀県の北部、長浜市で30年以上にわたって仏壇を作っている職人さんです。滋賀県では彦根仏壇が国指定伝統的工芸品として有名なのですが、隣の長浜は彦根ほど職人さんも多くない関係で、木の加工から漆塗り、蒔絵まで、基本的にほぼ全ての工程を自分で行う必要があります。

杉中さんは神戸からも仏壇の注文が直接来るくらい、腕の良い方です。漆業界では、例えばキャンプグッズとのコラボレーションなど、仏壇では食べられない・・・と見切りを付けることで他業界へ進出して活路を見いだす例が存在します。
仏壇を作っていれば食べられる状況が続いていたからこそ、他領域への展開が遅れてしまったという面は否めません。技能が高いという特徴も強み・弱みの両方がありうると感じる瞬間です。

オーソドックスな金継ぎをauthentic、蒔絵を入れたちょっと変わった模様の金継ぎをunique、サステイナブルだけれども割れていない器に金継ぎ模様を漆で描いた作品をneoと分類し、それぞれ作品を作って頂くことになりました。

3. 売る

実際に作った作品を海外へ売る必要があります。10年前と大きく異なるのがこの部分です。越境ECでも比較的簡単に個人のお店を持てるようになったため、事業を始めることができました。
選ぶのはShopify一択です。海外へ自力で販売を行う場合、BASEやSTORESでは対応できません。必然的にShopifyを使うことになります。
妻が英語に関してネイティブレベルなので、中心となって構築を担当してもらいました。

ただ、ECサイトを作るのは初めての経験です。いろいろなサイトを参考にしましたが、なんといっても参考になったのはサステイナブルな靴の販売で有名なAllbirds(リンクは日本版。現在ではアメリカ版とほぼ同じ構造になりました)です。

アメリカで受け入れられるには、製品そのものよりも、なぜこの事業を始めたのか?、この製品はどのくらい世の中の役に立つのか?、というメッセージ性を全面に押し出す必要があることがわかりました。
日本の多くのECサイトではここら辺が不明なものが多かったので、そこを優先的に考える必要があり、順序は逆ですが創るにつながっています。

あと、地味に大変なのが法令関係です。返品のルールを含め、海外発送では国内のそれとはレベルの異なる細かさが求められます。ここら辺をきちんとまとめることにしましたが、ここでは司法試験時代の経験が生きたのでした。

【夫婦が得た教訓】

事業は1人ではできません。創る→作る→売る、というそれぞれの分野に最適な人員を集めて・・・いや、私たちのようなスモールビジネスでは、今いるメンバーでできることを考えたというのが正しいです。
今いるメンバーの才能を最大限に発揮できるビジネスを考える。1つ1つは単なる特徴に過ぎませんが、そこに経営の方向性が加わると、それを構成する強みに変化する。一番大事なことに気づけたのでした。

次回に続きます!

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滋賀県のびわ湖のほとりでコンサルティングと伝統工芸のお仕事をしています。今後もnoteを通して皆様と交流できれば幸いです。

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