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生中村達也、初体験記

ドラムという楽器は、ピアノやバイオリンのような国際コンクールが無い。

……と思う。私が知る限りは。

例えばピアノには、ショパン国際コンクールを始め、エリザベート王妃国際コンクール、チャイコフスキー国際コンクールなど、数々の国際コンクールがある。
けれどドラムには無い、多分。
もし、「リンゴ・スター国際コンクール」などというドラムコンクールが開催されていたとしたら、私の無知を詫びる。リンゴ、すまぬ。

そしてドラムには順位も優劣も無い。他の楽器に合わせて響かせる、演奏者の中に流れるリズムを表現するもの。だから上手いも下手も無い、と思い込んでいた。

この人の演奏を知るまでは。


中村達也

ついに、中村達也さんのステージを生で見た。
そう、私はついに「達也バージン」を失ってしまった。

今回は、私が初めて見た中村達也のステージ体験記です。
本来であれば「中村達也さん」と表記するところですが、今日だけは、今回だけは、この稀有な方に対する最大限の敬意と、畏敬の念をもって「中村達也」と呼び捨てにさせてください。
その凄まじい存在感ゆえ、一般人の私には遠い存在である達也さん。その名を呼び捨てにすることで、少しでも身近に感じたいという、常軌を逸した私の思考を笑ってお許し頂けると嬉しいです。

今年1月、広島で吉川晃司さんのライブを見た帰り道、終演後の楽しさを味わいたく、市内の喫茶店「オルガン座」へ立ち寄った時のこと。

店内でご一緒した方に、私が、今年のお正月に期間限定配信されていた「私立探偵 濱マイク」にハマった話をした所、ミュージシャンとしての中村達也を見た方が良いと強く勧められたのだ。

「中村達也のライブ見た事ないの?絶対に見た方がいいよ!すごいから!」

中村達也の何がどう凄いのかと尋ねるも、「他のドラムとは全然違うから!とにかくすごい!」とおっしゃるばかりで、その魅力が判然としない。

これは、中村達也本人を生で見なければ答えが分からないやつだ……。


私の心の中にある「見るべきリスト」、そこへ中村達也の四文字がすぐに書き加えられた。

他人が勧めてくれるものはとりあえず見る。
今、生で見られる人を全力で応援する。

それがアベフトシさんをはじめ、数々の「憧れのお兄さん」であるミュージシャン達を、生で見るより先に見送ってしまい、後悔の多い人生を送る私なりのポリシーだ。


2023年3月15日BLACK RUDE NIGHT @恵比寿リキッドルーム

へ行ってきた。

The Birthday、SPEEDER-X(中村達也×KenKen)、TRI4TH
の3バンドが共演するイベント。

The BirthdayとTRI4THは、ライブで見た事があり、私はその魅力のとりこになっている。そこへ加えてSPEEDER-Xである。
これは行くしかない!


SPEEDER-Xは一番手。
KenKenのベースと、中村達也のドラム、ただそれだけ。リズム楽器による即興演奏。
ステージに登場した中村達也。浅草の祭りで着るような股引きと、そろいで着ているのは鯉口シャツだろうか。その上に、丈が長く、薄い上着をさらりとひっかけたラフな姿。そのままドラムセットに座ると、すぐに即興が始まった。

互いに目と目で合図をし、うねるような音の流れが形になっていく様は圧巻の一言。強烈な個性のぶつかり合い、音の一触即発のような雰囲気に、私の心は鷲掴みにされてしまった。
特に中村達也が放つ迫力から目が離せない。誰に似ているとか、どういうスタイルとは言い表せないドラム。心がスティックを持っているかのような、感情に訴える演奏とパワーの同居したドラミング。

なんじゃこりゃ……こんなの見た事ないわ。

なんて感情あふれる強いドラムなんだろう!こんなに野性味ある人が現代の日本にいるんだ!

とにかく音数が多いドラム、火花が散るようなハイハットの音にこちらの心がしびれる。
荒々しくドラムを叩きながら恍惚とする姿は、袖口からちらりと見える入れ墨の雰囲気もあいまって、まるでシャーマン。
だとすれば、ドラムの音は祈り、スティックを振り下ろす姿は神託者だろうか。リキッドルームに降り立った中村・シャーマン・達也。めちゃくちゃかっこいい!

なんだか、見ているこちらの胸までザワついてきてしまう。この都会の薄暗いライブハウスで、客として見ている場合じゃない!私も何かしなくちゃ!という気持ちになってくる。
こういう内的衝動を、音や声、ダンス、芝居、といった身体表現で解放できたらどんなに気持ち良いだろうか。

ん?なんで私、表現者になりたいなんて思ってるんだろう?
今の私、確実に中村達也に感化されている……。あぶないあぶない。

私はこの猛烈なドラムにすっかり魅入られてしまった。

優しく、美意識が高く、ジェンダーフリーな考え方を持つ男子がもてはやされるこの令和において、中村達也の衝撃的な荒々しさ。演奏中、そのまわりで音がとぐろを巻いているかのような雄々しいドラム。
その姿は、まるで京都・相国寺の法堂はっとう天井にある巨大な龍の絵、「蟠龍図ばんりゅうず」のよう。
生きている人を空想上の生き物である龍に例えるのは失礼だとは思うけれども、私にはそういう風にしか見えない。自由自在にリズムを奏で、天衣無縫な中村達也の姿は、控えめに申し上げて異形である。

しかしその、音がとぐろを巻く龍のような姿は、決して明るくキラキラしたものではない。どちらかというと、暗く、念のようなズシリとした気迫がある。
頭を振り、汗を飛ばす姿。「しんどいでーす!」と吠え、踊るように弧を描く腕。
怒り、欲求不満、破壊衝動といった熱を持った黒い本能が、音となって外に発散されているかのようだ。

はぁぁ────!こりゃ魔性のドラムだわ。

こんなすごい演奏を見せつけられてしまっては、心が取りつかれてしまう。
私に「中村達也はとにかくすごい」と勧めてくれた人の言いたかった事が、今やっと理解できた。この凄さは一言では言い表せない。

中村達也には、ずっとライブハウスで暴れていて欲しい。ライブハウスの板の上で強いスポットライトにあたりながら、声援を浴び続けていて欲しい。
詩の身体表現、生きるアートを体現できる稀有な人。誰ともかぶらない、オンリーワンの存在。見た人を魅了し、憧れるけれども、決してそれにはなれない。北極星のような人。

人に衝撃を与える存在になるというのは並大抵のことではない。才能と努力、鋭い感性、生き様、人間性……そういったものが絡み合い、結果的に唯一無二の存在感を放つのだろうか。
少なくともこの方は、凡人には手が届かない存在だ。

こんな衝撃的な存在の後に出演するTRI4THが可哀想じゃない?

SPEEDER-Xのステージが終わり、次のTRI4THまでの転換時間、明るくなった場内でつい余計な事を考えてしまった。

特にTRI4THドラムの伊藤さん。このステージを見せつけられた後に、同じ板の上で同じ楽器を演奏するなんて、常人にはできない。
もし私が同じ立場だったら、その輝きを前に苦しむはずだし、自分はどう表現すべきか悩みすぎて、プレッシャーの重さに楽屋で血を吐くだろう。

あれ?なんで私、偉そうにドラムやってる人みたいな事考えてるんだろ。
ドラムなんて全く叩けないのに。

けれど私も少しは楽器をやっていたから、想像はつく。上手い人の演奏を目の当たりにし、しかもそれが自分の順番の直前だった時の、暗澹あんたんたる気持ちたるや!
これで心に火が付くタイプの人だったらいいけど、私の場合は気持ちがめげるタイプなので出番を放棄したくなる。

自分達よりはるかにキャリアがあり、場数も踏んだ大先輩。SPEEDER-XとThe Birthdayに挟まれた出番。攻めて、攻め続けて、やっと肩を並べるだろうか。少しでも遠慮してひいたら負けである。
しかしそんな中、引けを取らないステージを披露したTRI4THの勇気に乾杯だ。私の体感としては、出演3組の中で一番の盛り上げ上手!
フロアと呼応する姿は輝いていたし、こちらも踊り、飛び跳ねることができて楽しい時間だった。あの、獅子奮迅した姿は決して負けていなかったと思う。この日の敢闘賞は間違いなくTRI4THだ。

プレッシャーに耐えて、よく頑張った!感動したっ!!(小泉純一郎風)

TRI4THにおかれましては、これからも中村達也と同じ板の上で戦い、輝いて欲しい。私はその輝きをいつまでも見ていたい。だって私は、その輝きを享受することしかできない凡人だから。

今夜は、黒くあやしく輝く中村達也を生で見られた事が本当に幸せだ。
目の前で音楽を奏でる素晴らしい存在を生で確認出来たこと、この人が生き生きと音楽を表現する瞬間に立ち会えたことに安堵の気持ちがわいてくる。

私、中村達也に追いつけた。
中村達也の人生に間に合った。

あぁ、ステージの上で輝く存在を、同じ時代に生で見られるということの素晴らしさよ!
きっとこれからも、その強い輝きと戦う後輩が出て来るだろう。そのぶつかり合いを輝きに変える最高の瞬間に立ち会いたくて、私はまたライブハウスへ足を運ぶのだ。


やはり、人が勧めるものは素直に見ておくべきだな、という思いを強くした恵比寿の一夜でした。
これをお読み下さったあなた様のおすすめもぜひ教えてください。できましたら、どんな風に魅力的なのかを具体的に教えて下さると、行きたいライブが多過ぎて、年中財政難な私の財布が助かります。


※相国寺=京都市内にある禅寺。その本堂にあたる建物が「法堂」
法堂にある狩野派の蟠龍図(通称:鳴き龍)が有名。近年は伊藤若冲の絵が多数奉納されていることでも知られる寺。
蛇足ですが、若冲の他、池大雅、円山応挙など18世紀の京都画壇が好きな方、禅寺で目にするような書画が好きな方は相国寺境内にある美術館も大変おすすめです。

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