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人のふんどしで相撲を取る #アベフトシ墓参記 1 【再掲】

(※初投稿だった2022年4月のまま、ほとんど直さずに再度投稿しております)


「神社、寺、墓参りで会った動物や虫は触るもんでねぇ。そっとしてやれ」
「神社で会う動物は神様の使いだで。寺や墓参りで会う虫や鳥は、死んだ人がその姿を借りてこっちの顔、見に来てんだ。墓参りでは、例えアブ・ハチであっても、絶対に叩いたりしてはなんねぇど」

子どもの私にそう教えてくれた祖父。
田舎の人で、寺の行事は熱心に参加し、檀家を取りまとめるような事もしていた信心深い祖父の言葉。無駄な殺生を戒めた言葉であることは間違いない。そんな祖父も数年前に鬼籍となり、今は静かに眠っている。

祖父の命日は夏である。私は祖父の墓参りで「蚊」にしか会ったことが無い。お陰で、墓参りの後はいつもあちこちかゆくてたまらない。
ねぇ、おじいちゃん、なんでいつも蚊なんですか?
たまには、カブトムシやオオクワガタになって、私の顔を見に来てくれてもいいんですよ?

才能のある人は得てして短命であり、憧れのミュージシャンはすぐ神に召される。

その悲しい伝説を、子どもだった私に最初に教えてくれたのはhide(X JAPAN)だった。

X JAPANのギタリストとして80年代後半~90年代半ばの音楽シーンを荒らしまくり、1998年春、バンド解散から半年も経たずして33歳で不帰の客となったhide。おしゃれで先進的、優しくファン思い、2020年代の今も色あせないピンクの髪の男。

亡くなった当時、hideの人生のあまりにも劇的な幕切れに、ワイドショーは連日彼の姿を放送し、多くのファンが、葬儀が行われた築地本願寺に集まった。あまりの人の多さに、お寺へ近寄ることすらできないファンのために、花束だけでもhideに届けようと、列の後ろの方から、人々の頭上を通って本願寺まで花束が届けられた映像をニュースで見たのを覚えている。hide本人に似たのだろうか、ファンの人達の優しい行動が今も忘れられない。

私はそれから、憧れのお兄さんを何人見送ってきただろう。
何度もライブへ通っていたのに、タイミングが合わず参加を見送ったライブが開催された数日後、突如亡くなったあの人。
歌の才能にあふれ、若い頃はプチヒットも何曲かあったのに、いつの間にかメジャーシーンから姿を消し、以後は華やかな舞台とは縁薄く、若くして亡くなった事をネットニュースで知ったあの人。

なぁ兄ちゃん、なんで好きなミュージシャンってすぐ死んでしまうん?

私にとって、アベフトシさんもそういうカテゴリの中の1人。

もし生きていれば、ギタリストと観客として、ステージを挟み視線を結ぶこともあったかもしれない。しかし、今となってはそれも叶わず。生で見たことがない私には、本人の姿を想像することすら難しい。
生きていれば50代半ば、あのストレートで丈夫そうな黒髪も、少しは白いものが混じっていたりしただろうか。若い頃と変わらず、音数の多いギターを飄々と弾いていただろうか。

私はミッシェルガンエレファントの活動をリアルタイムでほとんど知らない。
金曜夜に放送される音楽番組、「ミュージックステーション」最大級のインパクト『t.A.T.u事件』を見ていた記憶はあるにはあるのだけれども、全員黒モッズスーツ+サングラスという出で立ち、音がうるさい音楽をやっているバンドという存在感、MCで全然喋らず近寄り難い雰囲気、たまにテレビに出ると異常に熱い観客のいるスタジオ収録。その何もかもが、まだ子どもだった私には早すぎた。ミッシェルの良さを分かるような年頃ではなかった。

だから、たまたま見たYouTubeのライブ映像で、雷に打たれたようにハマッた時は、己が大人になったと思えて嬉しかった。
ついにキタ!私もミッシェルに狂えるお年頃になった!やっとあのお兄さん達に追いつけた!

2021年秋、ミッシェルガンエレファントという強烈な雷に打たれはや半年。私は今や、月に4度もウエノコウジのライブへ行き、アベフトシのお墓参り目的で広島旅行を組むまでに成長した。生で見られなかった後悔を埋めるような著しい成長である。

沼に沈むスピードの速さよ……再会してまだ半年よ?

己の中に、こんなにも激しい情熱があったことに、私自身が一番驚いている。

2022年4月7日 アベフトシさんのお墓参りへ行ってきた。

元ミッシェルのウエノコウジさんのライブへ行って感じた「ときめきと体験」をレポのようなものにして有料販売した。(※2022年4月時点でのお話です。当該記事は削除済み)
その売り上げをアベフトシさんのお墓参りのお供え物代として使うと約束した。バンドファン内での自給自足活動。そう、私は人のふんどしで相撲を取る。

noteの販売代金、1000円でお供え物を買った。広島入り前に立ち寄った呉でギネスビールとお線香を。お墓参りの朝、スーパーで仏花とプリンを買った。お花は向日葵が好きだというアベさんに合わせて探したのだが、季節柄まだ早いようで見つからない。代わりに向日葵のように咲き、幅広い花弁を持つ種類の黄色い菊。綺麗に咲いた白いアストロメリア。紫色のスターチスの3種類にした。

アベさんの墓所は普通のお寺の境内だと聞いていたので、派手すぎず、スタンダードな切花にした。いつも格好いい姿ばかり見せてくれたアベさんには少し地味だろうか。

ところで、アベさんが向日葵やプリンが好きだという話はどこからきたのだろう?私はファンの人たちの話でしか聞いたことがないのだが、どなたか元ネタになる雑誌記事などをご存じであれば教えて下さい。


アベさんのお墓があるというお寺の山門をくぐる。山の斜面下にあるそのお寺は、山門から左手側の斜面が全て墓地だった。
山の斜面に貼りつくように段々を成し、綺麗に整備された墓所。しかも、墓石に決まりごとがあるのか、ほとんどみな、同じ素材の石で作られたお墓がずらりと並ぶ。

この中からアベフトシを探すのか…こんなのリアルウォーリーを探せでしょ…。

予想以上の墓石の数に驚いて急いで下の本堂に下り、手を合わせた。

アベフトシさんの、アベ家のお墓を見つけさせて下さい!お願いします!

2003年ミッシェルガンエレファント解散。アベさんは数年間の東京での音楽活動を経た後、地元である広島へ帰り、そこで亡くなった事は知っている。Wikipediaで知った。Googleはなんでも教えてくれる。
そんなGoogleでも、アベさんのお墓の詳細な場所までは教えてくれなかった。

こういう時に頼れるのは、我が先達せんだつ。ライブで仲良くなった音楽を愛するファン、バンギャのお姉さま方である。
平成の世の音楽を愛し、バンギャとして駆け抜けたお姉さま達。あんなバンドや、こんなミュージシャン達の、売れる前の姿を生で見て知っている貴重な証人達である。そんな頼れるお姉さまの1人に連絡をしてみた。

『ミッシェル・アベさんのお墓参りがしたい。墓地の細かい場所知ってる?』

『私は分からないけど、ミッシェル時代からチバさんを追ってる友達がいるから聞いてみるわ!』

1時間後、連絡が入る。

『お待たせ!ビールが沢山お供えしてあるからすぐ分かるってよ!場所は寺のこちら側を上がって……』

いや、全然待ってないっす!お姉さまありがとう!やっぱ頼りになる!

連絡して1時間で、墓地内での大まかな場所を教えて貰った。バンド界隈のお姉さま達のネットワーク最強説。
Google先生より物知り。MI6より優秀。

徒然草にもこんな一節がある。

『少しのことにも、先達はあらまほしきことなり』
(※ちょっとしたことでも、指導者はあってほしいものである)

兼好法師さすがである。兼好法師もアベフトシの墓参りで自分の事を思い出してくれる人がいたなんて想像していなかったはずだ。

教わった通りに墓地の斜面を上る。能登の千枚田のように段々に連なる斜面。墓石のデザインは多少違えど、ほぼみな同じ白系薄灰色の御影石で作られており、明るい日差しの下で荘厳だ。墓地特有の湿っぽさは全く無く、綺麗に整備されている。たぶんお寺や檀家さん達の手入れが良いのだろう。

教わった辺りの墓石を1つずつ確認して歩くが、アベ家のお墓がなかなか見つからない。
「ビールが沢山お供えしてあるからすぐ分かる」なんて教えられたけど、ビールどころか、お供え物があるお墓すら見当たらない。どのお墓もお花はあるがお供え物が無いのだ。
うーん。そもそも探す場所が違うのか?もう1度下までおりて探し直そうか…。

そう思って視点を変えた瞬間、『太』の一文字が目に飛び込んできた!

薄灰色の墓石、私から見える側の面、黒々とはっきりした字で『太』と書かれている!
あのお墓!絶対にそう!

思わず駆け寄ってしまった。まるで久しぶりに飼い主と会う犬のよう。そう、私は忠犬。

私の身長より少し小さな墓石。墓石の花立てはもちろん、お墓の横にも、枯れてはいるが、幾つものブーケや花籠が並んでいる。数日前にも誰かがお参りしたのだろうか。ほとんどのお花が枯れている中、墓石脇のガラス瓶に生けられた白いラナンキュラスと、スイトピーが綺麗に咲き、風に揺れている。
噂に聞いていたビールは1つも無かったが、ピックが沢山置かれたお墓。他のものと同じような形だが、明らかに他とは様子が違う。目立っている。

花立ての枯れた花を手でかき分けると「安部家」の三文字が見えた。
側面には「太 行年四十二才」の文字。
ここで間違いない。やっと来られた。

早速、手を合わせてビールとプリンをお供えする。花立てを外し、汲んできた水で花立てを洗った。供えられていた花は枯れてはいたが、カーネーション、ガーベラ、ストック、全ての花が真っ赤。赤みが強い大きな菊と、白いかすみ草も入っていた。カッコいい……これをお供えした方の心意気が感じられる。

あれ?墓地になじむようにと、大人しい感じの花を持ってきちゃったよ。
アベさんごめん。あなたが普通の人とは違うという事を忘れていました。今度来るときは、派手な花も入れるね!

ふと墓石の横を見ると、蓋付きの小さなプラケースが置いてある。中には花用ハサミとライターが入っていた。ありがたい!助かる!自分で持ってきたお花と、どなたかがお供えし生き生きと咲いているラナンキュラス、スイトピーの水切りをし、生け直しておいた。

安部家のお墓、おそらくお身内の方がこまめに手入れをしているのであろう。花切りハサミが用意してある事もそうだが、墓石もピカピカに磨かれ、とても気持ちが良い。

さて、後はお線香をあげるだけという時、ちょっと困った事が起きた。お線香に上手く火がつかないのだ。
アベさんのお墓は高い所にあり、ちょっと風が吹くとライターの火がすぐ揺らいでしまう。墓石を壁にしてその陰で何度もカチッカチッと着火するが、そもそもライターを使いなれていない私ではすぐ火が消え、お線香が黒くなるばかりで全く火が着かない。そのうち、ライターを擦る右親指も痛くなってきた。

困ったなあと空を見上げると、突然左側から何か黒い影がやってきた。

カラスだ。

アベさんのお墓の後ろにある電柱に止まり、キョロキョロと鳥らしい動きで頭を動かしながらも、明らかに私を見ている。

……なんか……大きすぎない?
君、本当にカラス?トビじゃないの?

普通より明らかに大きなカラス。私が東京で見るカラスより一回り大きい。広島ではアベフトシやウエノコウジの他に、カラスまでも大きいのだろうか?

黒光りする頭が、太陽光の下で青く輝いて見える。
私がわざと目線を合わせても、ひるむ様子が全く無く、明らかにこちらを観察している。度胸のあるカラスだ。
しかしいくら度胸のあるカラスでもライターは使えまい。一息入れ、風をよけながら線香の着火を再開する。

カチッ…カチッカチッ…カチッ……

参った。全くつかない。
あれ?ライターってこんなに難しい道具だったっけ?私が文明の利器を使いこなせないだけ?火打石なら使えますがどうですか?

ライターを使いこなせない私を、カラスも電柱からずっと見ている。私もライター着火に飽きてきて、思わず声が出てしまった。

「もしかしてアベさんですか?火がつかなくて困ってるんですよ。私、ライター苦手なんで助けてくださいよ。」 

声をかけられたカラスもひるまず、カアッと一鳴き。
立派な翼をバサバサと羽ばたかせるも、飛び立たずにじっと私を見ている。

お?人の言葉が伝わるのか?賢いやつだな。

改めてライターを着火させているうちに、少し風が和らいできて、何とかお線香の束に火をつける事ができた。嬉しくて、思わず顔をあげて私を観察していたカラスに声をかけてしまう。

「火!ついたよ!焚けましたよ!」

私の突然の声に驚いたのか、大きな翼を広げると、ガッ!ガッ!と短く2度鳴き、頭上を2度旋回して飛んで行ってしまった。カラスに見守られて線香を焚くなんて初めての経験である。

いやはや、お線香を焚くだけで大仕事だ。使い慣れていないライターじゃだめだ、次回はチャッカマンを持って来よう。

無事にお線香が燃え進んでいる事を確認し、そろそろ引き上げようかと立ち上がった瞬間、今度は左側から蝶がひらひらと飛んできた。
濃いオレンジ色の羽に黒や茶色の点々模様。たぶんベニシジミだ。

目の高さに飛んでくると、私の頭のまわりをゆったり2周する。お線香の煙で蝶がいぶされては可哀想だ。煙が上らないよう、思わずお線香の上を両手で軽く覆った。それでも蝶はまだ私の周りを周回する。

「危ないよ。煙でいぶされちゃうよ。」と声をかけると、今度は墓石と私の間を8の字を描くように2周し、他のお墓には見向きもせず右手方向の空へすんなり飛んでいった。

…なんだこれ。カラスの次はちょうちょか……次はなんだ?狸か?狐か?

線香に手間どって少し長居してしまったので、もうさすがに「帰りんさいよ」ということなのだろうか。
あ~、知らん奴が図々しく長居してすいませんね。お暇させて頂きますよ。

帰り際、墓地のあちこちに「お供え物は持ち帰りください」と注意書きがあるのを見つけたので、ギネスとプリンは持ち帰ってきた。どのお墓にもお供え物が無かったのはそういうことなのか。

 オチの無い話で申し訳ない。 冷静に考えると、おそらくカラスはお供え物狙いだったのでしょう。蝶は墓前に生けたお花に惹かれて来たのだと思います。
ただ、このカラスや蝶に私は勝手にアベさんを感じたので、記事を購入してくれた皆さんをはじめ、私のことをじっとりと見守っていてくれる皆さまにご報告でした。 

墓前から下げたギネスとプリンは今、noteを書きながら、私が頂きました。人のふんどしで相撲を取るどころか、人のお金で糖分と酒を摂取しています。記事を購入してくれた人達ありがとう。ごちそうさまでした。
そしてごめん。また面白いnoteを書けるよう頑張るので、見守ってください。


【追記】
この9ヶ月後、再び広島へ行くこととなりました。その時に墓参した記録です。



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