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【映画批評】#25「侍タイムスリッパ-」一世一代の大勝負!その心意気に大あっぱれ!

現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディ「侍タイムスリッパ-」を徹底批評。
10名たらずのスタッフかつ自主映画で時代劇という向こう見ずな企画でも、優れた脚本が東映京都撮影所を動かした!動画撮影カメラマンを経て、米農家に転身した安田淳一監督と時代劇関係者、崖っぷちの彼らが一致団結した一世一代のアツすぎる大勝負に泣け!!


鑑賞メモ

タイトル
 侍タイムスリッパ-(128分)

鑑賞日
 9月16日(月)10:35
映画館
 MOVIX堺(堺浜)
鑑賞料金
 1,400円(リピーター割引)
事前準備
 予告視聴、TBSラジオ こねくと 町山智浩映画紹介視聴
体調
 すこぶる良し


点数(100点満点)& X短評

95点


あらすじ

時は幕末、京の夜。
会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。
「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。
名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、
守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。
一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ
少しずつ元気を取り戻していく。
やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、
新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。

「侍タイムスリッパ-」公式HPより引用

ネタバレあり感想&考察

見事な脚本と熱い心意気
その気持ちよさがダイレクトに伝わる傑作

めちゃくちゃに面白かった。めちゃくちゃに感動した!
古畑で小林稔侍にやられたショパンさん(長谷川初範)ぐらい、気持ちよく斬られた!サイコー!(いい加減、三谷コスるのやめますw)

低予算といっても、東映京都撮影所が結構バックアップしてくれているので、画自体が想像以上にリッチだった。
スタッフ10名程度はガチなのでなかなか大変な状況だったはずだが、そんなものを感じさせないパワーがある。
本当に見事な脚本だ。「カメ止め」のようなムーブメントを想定しての企画力とPR戦略も嫌味を感じさせない。作品自体がド級に面白いからだ。

苦しい状況にあえぐ時代劇への愛が東映とのタッグを生み、複雑怪奇化した近年では作られなさそうなアツいほんわか人間賛歌が観られるなんて誰が思いまっか?

しかも京都発、「カメ止め」っぽさに加え、特定業界へのリスペクトと関西という要素が乗っけられたら、もう浪花節で返すのが礼儀っちゅうもんでしょうが!久しぶりにこんな味付けの濃い関西弁にまみれた映画が観れたのも素直にうれしい。個人的には子どものころにみた、「ミナミの帝王」や「ファンキーモンキーティーチャー」などの大阪を舞台にした映画がテレビでかかっていた土日のお昼を思い出す。
結構観たことありそうな設定で、予測のつきづらい全然観たことないお話で、どっかで感じたような郷愁を誘うって、冗談抜きでエンタメ映画として完璧じゃないかと思う。

これらを実現したのはその見事な脚本がベースではあるが、時代劇への恩返しや背水の陣で挑んだ監督自身のキャリアも含めた熱い心意気がそうさせている。低予算、少ないスタッフ、一時代と比べて大きく人気に陰りがみえる時代劇という舞台設定、超有名キャスト不在というアゲンストな状況でも、
知恵と行動力で面白い映画は作れるんだと示せたことは大きい。その意味で既にエポックメーキングな作品だと言っていい。それぐらいスゴイ!

おそらくまだまだ口コミが広がって公開館数が増えていくだろう。そうなるとリピート率も上がっていく。文字通り、時代に取り残された人間と文化が一念発起して起こした正の逆流が日本全国の映画館に潤いをもたらす。

まだ観てないヤツは今すぐ行ってこい!マジで楽しいぞ!!!!

現代にタイムスリップした侍=
「哀れなる者たち」のエマ・ストーン!?

実はこの映画のミソは割と序盤だと思っている。筆者が泣いたのは序盤~中盤あたりだった。山口馬木也演じるタイムスリップした侍、高坂が目に映る現代の全てが新鮮に感じているさまはそれこそ「哀れなるものたち」のエマ・ストーンのようだった。
タイムスリップして斬られ役になるまでを時間をかけて描いているが、全くダレることなく何ともない日常を非日常にしてしまう演出。できたら「哀れなるものたち」もあわせて観て楽しんでほしい。面白い比較になるはずだ。(今年の洋画の傑作です)

人がショートケーキを食べるだけでメッタメタに泣かせることができるのである。これこそ映像のマジックだ。このシーン一発で大勝利と言っていい。このシーンが一番好きだ。あわせて、我々が普段観ているテレビドラマを初めて観た高坂が感動するシーンも、編集された映像のマジックを端的に示している。

珠玉の名シーン 号泣必至!

今自分たちが生きている目の前の世界は奇跡の集積なんだとこの映画は教えてくれる。「ラストマイル」もそういうシーンがあるが登場人物にそのことをセリフでガッツリ言わせててカッコよくない。本作はそれを舞台設定と脚本力で、自然になめらかに描写している。すごいことをサラッとやるから、より品の良さが際立つ。

徐々に現代の生活になじんでいく高坂だが、髪型や私服のセンスは全くあか抜けない。これがギャグとして効きまくっている。どこまで行っても高坂は時代に取り残されているのだ。それは時代劇のことも指しているようであり、もの悲しさも纏う。
演じる山口さん自体はめちゃくちゃ男前なのになんでこんなに野暮ったく映るのかが不思議でしょうがない。監督のこだわりと役者本人のなりきりぶりが奇跡的にマッチしている。こういうところもすべてうまくいっている。

もともとが武士なので、斬られ役といってもどうしても稽古で師匠を斬ってしまうというアホアホギャグもベタだけど、しっかり笑わせられた。ベタでしっかり笑えるという意味では吉本新喜劇的であり、ここにも関西の土日のお昼感が漂っている。

実はタイムスリップ直前に討ち入りするはずだった相手もタイムスリップしていて…という設定自体は目新しさは感じない。しかし、時間軸をズラすことで現代においての職業上でも格上であることを自然に強調するギミックを足しているのも面白い。普通なら現代では立場が逆転したりとか、適応力の違い等で笑いを生むのが思いつくあたりかなとは思う。
そこを風見(旧・山形)が高坂の10~20年以上前にタイムスリップし、その間に斬られ役から大スター俳優へと変貌を遂げていたという設定には舌を巻いた。マルチバースのようなややこい設定なんてなくても、発想ひとつで話はいくらでも面白くできる。エブエブが刺さらなかった自分としてはこっちの方がはるかに設定に浸かりやすい。

風見恭一郎役:冨家ノリマサさん カッコいい!!

本来憎しみ合う関係だった者同士が思わぬ形で再会するという運命のいたずら、というのは字に起こせば一見野暮だが、脚本の力でたしかな画で表現されていた。風見が斬られ役として活躍する高坂を知り、自身が主演する時代劇映画で相手役に指名するという、アツすぎる展開は素直に興奮せざるを得ない。
この風見の余裕とカッコよさがハンパなかった。ちょっとクサさを感じるあたりも、大仰な演技が前提の時代劇ならむしろマッチする。数奇な運命を受け入れ、本来敵だった高坂に手を差し伸べる人間としての強さと冨家ノリマサさんの佇まいも合わさって、強いキャラクター像を描き切れた。
高坂の対角に立つキャラクターとしてこの上ないキャストと人物像だった。この映画の格を一段も二段も上げた存在だ。

ラストの真剣勝負は武士として、芸能に生きるプロとして、現場で死ぬことを望む者の対話を描いている。
「蒲田行進曲」平田満の階段落ちに次ぐ時代劇作品の名シーンである。このシーンの手前に撮影所所長が念書を確認して一安心するくだりを差し込んだのは、「蒲田行進曲」を意識しているに違いない。でもそのあとに優子殿がとる行動で、現代的かつ冷静な目線をしっかり組み込むことで、観る者に安心を与える目配せもキッチリ利かせている。

何度も言うが、安心して観られるという意味でも、エンタメ映画として完璧なのである。ひいき目なしに本当によくできている。

優子殿がとにかく最高!
てか全キャストめちゃくちゃいいよね!

優子殿も大活躍!

とにかくこの映画、ヒロインの優子殿が最高なんですよ!
しかも、この映画内で時代劇の助監督役ながら、本作のスタッフとして本当に実務としての助監督もこなしているとのこと。正直意味わからん。
もう超人です。実質、元日ハム-オリ-阪神の糸井です。優子殿を見たら糸井だと思ってください。それぐらいスゴイ!

実質、糸井級の超人

今年2024年に観た邦画の三大ヒロインに晴れて仲間入りです。(名誉あるかどうかは知らん!)「ゴールド・ボーイ」の星乃あんな、「箱男」の白本彩奈、そして「侍タイムスリッパー」の沙倉ゆうの、これにて決定!最強クリーンアップ!

星乃あんなさん
白本彩奈さん
沙倉ゆうのさん

この方存じ上げなかったですけど、関西局のロケ番組のリポーターとか絶対向いてるでしょ!今すぐ人気出そう。おは朝とか、旅サラダとか、三田村邦彦と散歩する番組とかめちゃくちゃイメージしやすい。
関西のテレビ局仕事してんのかって言いたくなるぐらいだ!
関西のテレビマンは今すぐ彼女のスケジュール押さえろ!(長州力)

↑冗談はさておきと言いたいとこだが、割とマジで言ってます。

本作はその他のキャスティングもいちいち良いです。みなさん実在感がありながらもそれぞれ個性的。
主要キャストはもちろん、寺の住職夫婦、お師匠はん、斬られ役仲間、心配無用の介、所長を始めとした撮影所の面々、すべてがほほえましい。
さらに関西弁が飛び交っている。ここまで好意的になってしまう映画は今後出会えないと思う。

最高に楽しかったです。ありがとうございました!


まとめ

素晴らしい作品でした。とやかく言う必要はありません。ごちゃごちゃ言わんと観に行ってください。
前回記事との落差にビックリされるかもしれませんが、そちらもぜひ読んでください。本記事も魂の叫びですが、真逆の性質の魂の叫びです!

どうぞよろしく!!


最後に

昨日アップ予定でしたが、「極悪女王」初日に一気見のため、本日更新となりました。「極悪女王」は基本的に満足していますが、この作品で描かれている全女という団体はこんなもんじゃないです。
作品で描かれている数百倍も頭のおかしい団体です。だから凄まじい熱狂を生んだのにその部分の描写が少ないのがちと不満です。

以上、ありがとうございました。

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ご拝読、ありがとうございました。


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