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【映画批評】#13「日本で一番怖くない間取り」真っ当な問いを投げかける脱力系映画

阪元裕吾監督作品の常連、大坂健太主演、鳴瀬聖人監督作「日本で一番怖くない間取り」を徹底批評!
国内唯一の無事故物件となった何てことはないアパートの一室を巡る争奪戦。ワンアイデアの発想を終始ギャグと脱力で押し切る、低予算映画のあるべき姿。


鑑賞メモ

タイトル
 日本で一番怖くない間取り(82分)

鑑賞日
 7月17日(水)19:00
映画館
 シアターセブン(十三)
鑑賞料金
 1,300円(水曜サービスデー)
事前準備
 特になし
体調
 仕事後、汗だく、ややグロッキー


点数(100点満点)& X短評

75点


あらすじ

少し先の未来の日本。続く不景気による死亡率上昇に伴い、事故物件の数は増加。[たった一件を除き、]国内の物件は全て事故物件となった。特にその価値について無頓着な、最後の“普通の物件”に住む男・山田。その物件を狙う幽霊アレルギーの富豪・富良野は、その物件の管理会社の男・根津と手を組み、山田を家から追い出すことを計画する。しかし、どんな事をしても、山田は退こうとはしなかった。それでも引かない富良野と根津の計画は、霊能力者や殺し屋までをも巻き込み、どんどんエスカレートしていくのであった…!

「日本で一番怖くない間取り」公式HPより引用

ネタバレあり感想&考察

正しくは「オレんち以外、全部事故物件」
国内唯一の無事故物件争奪バトル

アイデア一つで映画は面白くできる。ワンアイデアで押し切れたのも、設定と話の作りこみがあってのこと。小規模映画だが、十分なパワーを持った作品だった。面白かった。

ただ、観る人を選ぶかもしれない。
作品自体はリアリティラインを低く設定していると捉えることができたので自分は楽しめたが、そうでない人はツッコみどころが多くなって~という感想はあってもおかしくないなと感じた。
正直ネタくさいという意味でやりすぎな部分があるのは同意するが、作り手側の面白くしよう!という気概は十分に伝わった。
結構こういうの大事なので!決してテキトーに作られた作品ではない。

「ベイビーわるきゅーれ」シリーズ、「最強殺し屋伝説国岡」や「グリーンバレット」でおなじみ、坂元裕吾監督作品常連の大坂健太さん主演ということで興味を持って、急遽観ることにした。

正直久しぶりに十三で飲みたかったのもある。
そういう軽いノリで観る映画にしては最適だった。実際、映画自体のノリも軽い。その後に飲んだ酒とガツ刺しが格別にうまかった。映画は観てゴキゲンになれたらそれでいいのである。

話の大枠はこうだ。
そう遠くない将来、衰退した日本では全国のあらゆる物件で自殺孤独死が多発し、ついに国内の無事故物件が1件となった。その無事故物件に住む山田と山田を退去させ高く売ろうと画策する不動産屋グループとの抗争を描く。

抗争といっても、イメージするようなドンパチはない。お隣さんから四六時中壁ドンドンされるとか、基本的にしょうもない。霊に出くわしたくないという理由で、この部屋を買うために150億も出す大富豪が出てくるなど、デタラメっちゃデタラメである。ついに殺しを最終手段として使い、緊張感を演出するかと思いきや、バカ祈祷師が出てきてミスリードするなど、終始ギャグに徹している。

一方の山田も不動産屋グループの意図を察すると自ら相手会社に乗り込み、退去しない旨を高らかに宣言、ライバーとして家での生活を常時生中継するというトンチキ対応で迎撃する。
終始アホなんだけど、日本唯一の無事故物件をめぐる争奪戦という、一歩間違えると大風呂敷を広げてうまく回収できませんでしたになってもおかしくない設定をムリなく展開しており、観客が自然に楽しめるような工夫が施されている。
ギャグ映画なのでエキセントリックな登場人物が多いが、通常の演技力も求められる山田、富良野、根津の主要3キャストの配役は抜かりない。
仕事も丁寧だと思う。

低予算映画でできる範囲という限定的な環境の中で、最大限表現できるスケールを探し出し、お話を魅力あるものにしている。
小規模映画はこういった【限られた環境の中でどこまでできるか】を楽しむものだと思うので、自分が求めるものとも合致した。
ミニシアターで観るにはもってこいの映画なのは間違いない。
軽い気持ちで観に行って楽しんでほしい。

アホ映画なのに真っ当なラスト
最後のやり取りに隠された2つの問い

愛をもってあえて言うが、アホ映画である。
しかし、ただのアホ映画ではない。ラストはかなりビターな要素を含んでいる。

山田がそれまでの暗い生い立ちや自立した生活を送れていることの喜びを素直に吐露する。このシーンは結構白眉で、2つのメッセージを読み取ることができた。

ひとつは「迷惑かけずに自活してるのに、なんであなた方は後ろ指差すんですか」というシンプルな問いだ。

貧困など福祉が必要な状況の方々を除いて、パラサイトシングルや子供部屋おじさん、ましてや弱者男性などという社会からの余計なお世話としか言いようのないレッテル貼りがいくらなんでも多すぎるし、ほとほと呆れていたのでいたく共感した。

しかも山田は親からの暴力や依存というわかりやすい被害を受け、早い段階で自活せざるを得なくなった人間だと明かされる。ただそのおかげで自立して社会に微力ながら貢献し、生活できていることで生の実感を十分に得ていることを嬉しそうに話す。
ここはかなりグッときた。
この当たり前の事実に気づかず、それを愛でず、自ら不幸になりにいく人間だらけの現代社会に向けた痛烈なカウンター。ましてや、他人のすることにいちいちケチをつける人間だらけで、もう目も当てられなくなっている状況だ。
実際山田は作中、無事故物件に住んでいるというだけで、不動産屋グループやライバー視聴者から言われもない仕打ちを受けることになる。そういうことへの問題提起をアホなふりしてぶちこんでくるあたり、監督は聡い方なんだろうなと容易に想像がつく。

山田を最後自殺で終わらせなかったのも自信を持って生きていいよという優しさが垣間見れて、良い風に解釈した。(違うかもしらんけどw)

もうひとつは山田が富良野に発した「見えてないんですか」だ。
これはお話の中のある隠された真実を示唆するものでもあるが、本質はそこではないと思う。

富良野というキャラクターは、終始自分が置かれている状況を正しく【見れていない】存在として描かれる。
娘の最期の扱いから本質が見えていないし、家族から本当はどう思われているかも見えていない、そもそも霊も見えていなかったことがラストに分かる。逆に自らを不安にさせるものを積極的に見つけにいっているようにも映る。その不安を消すのは無事故物件だという結論も何も見えていない証拠だ。ついでに値付けもおかしい。

この必要以上に不安に駆られている富良野から、「みえない、わからないものに対して何をそこまで不安がっているんですか」というやや攻撃的な問い、もしくは「みえない、わからないものをそこまで不安がらなくていいですよ」という優しいメッセージ、両方含んでいるかもしれないメッセージを勝手に受け取ったつもりでいる。

そして、富良野にもラスト見どころをしっかり用意している。上記のメッセージを補強した素晴らしい演出だ。これらの演出に演技で見事に応えた大坂健太さんと広山詞葉さんに大あっぱれあげてくださいよ!(張本)

とにかく、アホ映画とはいったものの骨太なメッセージを提示する真っ当な映画である。これだけで絶対に観る価値があるといえる。


まとめ

「蛇の道」より上、「関心領域」と同程度なので、75点は正直高すぎると思いますが、ちょっと肩入れしたくなるようなチャーミングな映画なのは間違いないです。
言い方は悪いですが、期待はしていなかった分、良い裏切りでした。
キャストのみなさんの演技も見ごたえありましたし、特にヤマダユウスケさんとエアコンぶんぶんお姉さんの不動産会社の上司部下チームのやり取りも楽しかったです。

ただ一点だけ、森羅万象さんの祈祷シーンだけはちょっとキツかったです。あれはさすがにシンプルに不快でした。イヤがってるひとも多いんじゃないかと。

それを除けば、良くできた映画でした。
鳴瀬監督の次作も期待しています。


最後に

久しぶりの十三、楽しかったです。
来週も時間合えば「エス」を観に行こうと思っています。

ナナゲイ・シアターセブンがある商店街
困ったらすぐ行く「立ち呑み庶民」
ガツ刺し(150円)とビール

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ご拝読、ありがとうございました。


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