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編集後記『この局面にこの一手! Dr.長澤直伝! 腎臓病薬物療法の定跡』

医学領域専門書出版社の金芳堂です。

このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。

どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

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■書誌情報

『この局面にこの一手! Dr.長澤直伝! 腎臓病薬物療法の定跡』
著:長澤将(東北大学大学院医学系研究科腎・高血圧・内分泌学分野講師)
B5判・182頁 | 定価:本体3,400円+税
ISBN:978-4-7653-1876-1
取次店搬入日:2021年08月11日(水)

腎臓病に対する薬物療法で、「どこから手をつければいい?」、「なぜその薬を使うの?」、「薬以外に重要なことは?」などの疑問をわかりやすく解説!

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■編集後記

こんにちは。編集部のIです。日々感染者数・重症患者数が更新される新型コロナウイルスのニュースを見ると気が沈みます……が、皆さまは無事お過ごしでしょうか?

この度、2021年8月11日に『この局面にこの一手! Dr.長澤直伝! 腎臓病薬物療法の定跡』を出版いたしました。将棋に定跡があるように、腎臓病薬物療法にも定跡があるんだ! と気付かせてくれる素敵な一冊。装丁も可愛いですよね。思わずジャケ買いしてくださっても後悔させません。

本書は腎臓内科に研修にきた古賀先生(架空の人物です)の疑問から繰り広げられる話が中心です。研修医の疑問=みんなの疑問! 皆さんが日々感じているような「?」の回答や、腎臓病の患者さんを診るにあたり、絶対に知っておくべきことを、専攻医の里見先生(こちらも架空の人物です)と長澤先生がわかりやすく解説しています。

古賀? 里見? この名前で「!」となられた方は相当な将棋好き。そうなんです、現役のプロ棋士で、性別・年齢が近い方から苗字をお借りしました。ご本人とは全く関係ありませんので、ご注意くださいませ。

それでは、ジャケ買いはちょっと……という方はぜひ下記をちらっと読んでみてください。

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■序文

はじめに

東北大学病院の腎臓内科の長澤将です。

今回、腎臓内科が守備範囲としている薬物療法についての本を出すことができました。医療を提供するうえでは栄養や運動などの基本的要素を土台にして薬物療法を載せることが原則ですが、本書ではこの上物の「薬物療法」について解説しました。

「薬物療法」というとどうしても「どの薬を使うか?」ということに目が行きがちですが、実際には「どの病態にどのような薬を使うか」が大事で、薬の効果と同じくらい副作用を把握しておく必要があります。インターネットや鈍器と称される本をみれば、どこかに全部が書かれていますが、その中の情報のどれがよく起こり、どれが重要かということがわかりにくいと感じており、その点を整理した本にしました。ここを、初期研修医の古賀先生、専攻医の里見先生と一緒に学んでいっていただければと思います。

古賀先生も里見先生も架空の人物ですが、それぞれこれまで出会った複数の人のイメージを組み合わせて作りました。初期研修医ならば古賀先生ができるようになるレベルを目指す、内科の専攻医は里見先生のレベルを目指すことが目安になるのではないでしょうか?(ちなみに里見先生は優秀に分類されます。)

とはいえ、この本は若手医師だけのものだけではなく、ぜひ、保健師や看護師、薬剤師、そして製薬企業間連のMRやMA、MSなどの方も読むとよろしいかと思います。薬に関わる仕事では、どうしても近視眼的になりがちですが、医療を通して患者さんをよくするという流れの中での薬物療法の立ち位置を感じていただければと思います。

もちろん、薬物療法とはあまり関係ない方には、オーベンとネーベンってこんなことを話しているんだと娯楽的に読んでいただければ嬉しいです。

最後に本書の制作にあたり、お声がけしていただき編集を担当していただいた金芳堂の藤森祐介様、「恥ずかしがり屋の熊さん」(本人が名前出すのを固辞したので、村上春樹風にペンネームをつけてみました)、私をはじめ古賀先生、里見先生の絵を生み出して、本書の素敵なデザインを描いてくださったnaji designさんにこの場を借りて感謝を申し上げます。

いつも申し上げますが、本書を7回読んでいただき、いつでも本書に書いてあることを引き出して使えるようにするとお役に立てると思います。

2021年7月
長澤将

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早速、目次を見てみましょう。書名に「定跡」とありますが、当然将棋に強くなる本ではありません。いや、でも目次を読んでも将棋風……中のデザインも将棋風……。それが本書の特徴でもあるので、あまりお気になさらず!

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■目次

推薦のことば
はじめに
プロローグ

第1局 血圧

その壱 薬物選択よりも降圧目標
その弐 具体的な降圧目標を達成する。その前に、どこで血圧を測るの?
その参 では、どこまで下げるか?
その四 では、何を使うか?
その五 RAA系阻害薬はキードラッグだけど使い方に注意
その六 意外とCKDに使われていないβ遮断薬、心不全のキードラッグ
その七 激安だがとてもお世話になる薬、サイアザイド系利尿薬
その八 玄人好みのα遮断薬、人によっては結構下がります。ただし起立性血圧に注意

第2局 血糖降下薬

その壱 どの薬? よりも、どこまでどうやって下げるか
その弐 ファーストチョイスはどの薬? その前に
その参 DPP-4阻害薬は名脇役
その四 SGLT2阻害薬は2020年代の標準治療薬
その五 インスリンの腎臓内科的な考え方
その六 その他の薬、GLP-1受容体作動薬など

第3局 利尿薬

その壱 総論
その弐 ループ利尿薬は使う量が大事
その参 トルバプタンの使い道
その四 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、利尿薬というよりは……

第4局 吸着薬

その壱 カリウム(K)吸着薬の使い方と使いどころ
その弐 リン(P)吸着薬の極意
その参 慢性腎不全を診ると反射的に出す人がいるが……

第5局 知っておいたほうがよい薬

その壱 ビタミンD投与はCaのモニタリングが必要
その弐 Ca値は低めに管理するのが好み
その参 Ca値を下げる薬もきちんとモニタリングが必要
その四 尿酸値を下げる意義を再確認
その五 NSAIDsなどの痛み止めは頻用されているからこそ注意
その六 腎臓を悪くする可能性のある検査を行う必要は本当にあるのか?
その七 帯状疱疹を診るときは腎機能に要注意
その八 意外と多い血糖降下薬、フィブラート、H2ブロッカー、DOAC

第6局 なかなか難しい問題

その壱 腎臓が悪くなると抗凝固薬の恩恵を受けにくいかもしれない
その弐 その抗血小板薬は何のため?
その参 脂質を下げるエンドポイントは?
その四 主にステロイド
その五 シクロスポリン、シクロフォスファミド、リツキシマブ
その六 薬剤選択は増えたがコストとベストチョイスは?

第7局 腎臓内科のマイナーな問題

その壱 入院中に腎性貧血の治療はどうする?
その弐 古くて忘れ去られた問題(というか問題にすらなっていない問題)
その参 訴える人も多い、薬は選択肢が増えてきた
その四 ベーキングパウダーっていうと驚かれますよね

コラム

高血圧前夜
ガイドラインについて思うこと
RAA系阻害薬の歴史と最近の話題
血圧の成り立ち
オマケほしさに薬を選択してはいけない
実臨床ではNNTを大事にしたい
SGLT2阻害薬はゲームチェンジャー
サロゲートマーカー
アルブミン尿の話
そういえば、どこに行ったの? バルドキソロン
これを変と気づけるか?

エピローグ
むすびに
索引

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いかがでしょうか? 将棋ファンならワクワク? 腎臓病マニアならゾクゾク? 目次に目を通しただけでも気になることばかりではないでしょうか?

今回、「第1局 血圧」から
その七 激安だがとてもお世話になる薬、サイアザイド系利尿薬
の本文をご紹介いたします。

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■本文チラ見せ

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●第1局 血圧

 その七 激安だがとてもお世話になる薬、サイアザイド系利尿薬

利尿薬は臨床上とても有用です。これの使い方を見ると内科の技量がわかるくらい差が出ますのでしっかり学びましょう。

◎:Dr.長澤(長澤先生)
■:里見さん(里見先生)
◇:古賀くん(古賀先生)

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◎「今日は利尿薬だね」

◇「長澤先生から話を始められるのって珍しいですね。話しかけると答えてくれる印象でしたから」

■「長澤先生、利尿薬が好きなのよ……」

◎「ん!? 古賀先生は利尿薬では何を知ってるかな?」

◇「ラシックス、サムスカ、ダイアート、ハンプも利尿薬ですか? 学校では、トリアムテレンなんかも聞いたことがあります」

◎「サイアザイド系は?」

◇「あまり使ったことがないですね」

◎「そうかぁ、降圧薬として使う利尿薬はサイアザイド系が主役だね。利尿薬も歴史が古くて、水銀なんかが使われていたなんて話があるんだ。その後サルファ剤という薬がベースになって、ST合剤が生まれ、アセタゾラミドの研究からサイアザイド、そしてフロセミドなどが誕生したね。ペニシリンが出現し、その地位を取られて、歴史的にも埋もれてしまった。ペニシリンの話が有名なのは知っているでしょう? まあサルファ剤にはこの本を読むといいね。『サルファ剤、忘れられた奇跡―世界を変えたナチスの薬と医師ゲルハルト・ドーマクの物語』(トーマス・へイガー著、小林力翻訳、中央公論新社)。これと関連して面白かった本が『ゾルゲを助けた医者―安田徳太郎と<悪人>たち』(安田一郎著、安田宏編集、青土社)だよ、この安田宏先生は東北大学のOBだっていうのを同窓会誌で知ったんだ。あとは少年ジャンプの『Dr.STONE』(稲垣理一郎原作、Boichi作画、集英社)の3巻にも“石から作るサルファ剤”って出てくるね」

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◇「サルファ剤は知りません……。ペニシリンって青カビが……ていう話ですか?」

◎「そうそう、さっきの漫画にもペニシリンが便利すぎて忘れられたと石神千空が言ってるね。センクウっていうと、『魁!!男塾』(宮下あきら、集英社)の戮家殺人拳の使い手と同じ読みなんだよね、髪型も似ているし関係あるのかな……。それはさておき、利尿薬、特にサイアザイド系の話だね。この図1を見てもらえる?」

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■「わーまたオリジナルの図が~」

◎「ん? ダメ? こんな感じで利尿薬を分類するといいよ」

◇「はぁ……」

■「古賀先生。腎臓のどの部位に効くかわかる?」

◇「ぜーんぜーんわからないです」

■「はぁ……」

◎「まあ、ここがわからなくても臨床上は問題ないから。サイアザイド系はNa利尿をきたして体液量を減らす薬なんだよ」

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◇「Na利尿って何ですか?」

◎「Naが尿に出ることを増やす、って覚えておけばいいかな」

◇「はい。でもどうしてですか?」

■「サイアザイド系が効くところは遠位尿細管のNaCl共輸送体(NCC)なので皮質にあって、尿濃縮に関わらないから、水利尿は伴わないのよ」

◇「???」

■「だーかーらーっ」

◎「まあまあ、このあたりが苦手な人って多いから。Naを多めに出す薬だと思ってくれればいいよ。副作用は知っておく必要はあるけれどね。どんな副作用がある?」

◇「うーん……」

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◎「里見先生どう?」

■「ダントツで、低Na血症ですね。Thiazide-InducedHyponatremiaと言われています。高齢、痩せ形、女性で小柄な人などに多いです」

◎「うんうん、そうだね。特に風邪などをひいて食事が摂れないときに水ばかり飲んで、でも薬はきちんと飲んで、というパターンでよく起こるんだよ」

◇「となると、この前のRAA系のようにシックデイルールを決めたほうがいいですね?」

◎「そうなるね。このシックデイルールは患者さんごとにどこかにまとめておくといいね。ところで、身体の中のNaが下がると、どうして血圧が下がるかわかる?」

◇「……。自信がありません」

◎「ここはコラムで話そう(後述:コラム「血圧の成り立ち」)。あと使い方の注意点としては半量で十分ということ。通常用量だと上記の低Na血症以外にも低K血症や高Ca血症なんかを起こすことがあるね。ビタミンDとかCa製剤を飲んでいる人には注意が必要だよ」

◇「ずいぶん古い薬ですが大丈夫ですか?」

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◎「まあ、古賀先生はまだ素人みたいなものだけど、医療関係者ならこういう点はきちんと質問しないといけないね。漠然と“大丈夫か、大丈夫じゃないか”という問いかけは、治療選択ではほとんど意味をなさないよ。あと古いからといって効果が弱いというわけじゃないからね。実際、ここ10年で行われたSPRINT研究でも30~50%に使われているし1)。ALLHAT研究でも心不全のイベントに関してはCa拮抗薬に勝っているんだ2)。そして、サイアザイド系は非常に安い。トリクロルメチアジド1mgなんかは10円足らずだよ。最近のメインの薬が1錠200円程度することを考えるととっても安いよね。MRの方は新しい薬を売りたがるけれど、古くても良い薬がたくさんある。薬剤費の負担が厳しくなって外来へ来なくなる患者さんたちもいるから、慣れてきたらそこら辺も考えて治療しないとね。そうなると新しい薬はたくさんあるけれど、血圧だけを考えれば、安価なCCB、利尿薬、ACEiあるいはARBから選ぶことが理に適っている。これは『高血圧治療ガイドライン2019』の推奨でもあるからね。なんか利尿薬の話をしたら焼き肉が食べたくなったなぁ……。ぼくの会議が終わったあと、どうだい? そこで残りの降圧薬の話をしようか」

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◇「行きます!」

■「どうして利尿薬の話をしていて焼き肉なんですか……? 理解できません。でも、焼き肉は食べたいので行きます」

◎「じゃあ里見先生、19時にいつもの焼き肉屋に古賀先生を連れて行ってください。“もしもし、おかみさん? 19時に3人で行くのでよろしくー”」

(参考文献)
1)SPRINT Research Group. A randomized trial of intensive versus standard blood-pressure control. N Engl J Med. 2015;
373: 2103-2116.
2)ALLHAT Officers and Coordinators for the ALLHAT Collaborative Research Group. Major outcomes in high-risk
hypertensive patients randomized to angiotensin-converting enzyme inhibitor or calcium channel blocker vs diuretic;
The antihypertensive and lipid-lowering treatment to prevent heart attack trial. JAMA. 2002; 288: 2981-2997.

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この局面にこの一手! 血圧の定跡 その七

● 体液量を減らすサイアザイド系利尿薬は重要です。
● 低Na血症(高齢、痩せ型、女性で小柄)、低K血症、高Ca血症に注意しましょう。

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 コラム 血圧の成り立ち

「血圧の定義は?」と若い先生に聞くと、意外と答えられません。もしかしたらぼくの質問の仕方が悪いのかもしれませんね。血圧は何によって規定されるの? という意味です。血圧は下記の図のように定義されます。

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このように、血圧はホースに水を通したときの圧力に喩えるとわかりやすいでしょう。ホースの中の水が多くなれば圧が高まりますが、ホースが柔軟な間は拡張して対応できます。しかし人間の血管なので、加齢に伴い動脈硬化が進むと十分に拡張できなくなります。こうなると、血圧を左右するものとして体液量が絡んできます。この血管内のボリュームを減らすのがサイアザイド系利尿薬ですが、入れたものを出すよりも入れない努力のほうがかなり重要です。ですので、血圧の薬はもちろんですが、それ以上に減塩指導を行うことが大切です。

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■これ、余談なんですけど①

本書に出てくる東北にある料理屋さん、コロナ禍でなければ、この本を片手に回りたいくらいです。そして、脚注の充実度! 要らぬ知識と斬り捨てないでください。この脚注の豊富さもこの本のポイントです。長澤先生の医学知識はもちろんですが、それ以外の趣味の広さといいますか、面白い話や雑学などが満載で楽しいですよ!

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■これ、余談なんですけど②

本書の登場人物をモチーフにしたLINEスタンプも販売しています。医療従事者でなくても使えるような汎用性の高いものですので、LINEスタンプストアなどでご覧いただけますと嬉しい(購入していただければなお嬉しい)です。

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■終わりに

今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。

是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。

それでは、次回の更新をお楽しみに!

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