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編集後記『救急現場の精神科診療 若手医師が悩んだ症例から学ぶ58例』

医学領域専門書出版社の金芳堂です。

このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。

どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

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■書誌情報

『救急現場の精神科診療 若手医師が悩んだ症例から学ぶ58例』
編著:久村正樹(埼玉医科大学総合医療センター救急科)
A5判・144頁 | 定価:3,740円(本体3,400円+税)
ISBN:978-4-7653-1883-9
取次店搬入日:2021年11月24日(水)

対応に悩むことの多い精神科救急。本書では実際に悩んだ58症例を収録しており、精神科救急の疑問を解決する糸口となるでしょう。

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■編集後記

こんにちは。編集部のNです。

今日は、2021年11月下旬発売の『救急現場の精神科診療 若手医師が悩んだ症例から学ぶ58例』をご紹介します。

「精神科の救急対応は難しい」

そう思う医師の先生方も多いのではないでしょうか?

本書は、その不安を解消するべく、救急科専門医、精神科専門医の資格をもち、現在は、救急現場で活躍されている久村正樹先生を中心に、ご執筆いただきました。

特徴は、なんと言っても、読みやすく、わかりやすいです。1つの疑問に2~3ページで答えていく形で展開しています。また、それぞれで完結していますので、前から順番に読まなくても大丈夫なんです。近い悩みがあれば、その項目から、読み進めていただけます。

さらに、現場の不安を解消できるよう、今回、動画配信サイトでおなじみのケアネットさんとタッグを組みました。本書から、8つの疑問を厳選し、動画解説もご用意いたしましたので、ぜひご覧ください。

本書は、精神科救急を苦手に感じる先生方に、役立つ1冊になっています。
ぜひ、手にとって読んでみてください。

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■序文

「精神科の救急対応は難しい」

こういう声を聴くことがあります。精神科の救急は身体救急と違い、生命に直結することは少ないですが、後に大きな問題となることがあります。

救急外来から帰した患者が、急性薬物中毒で再度救急搬送された経験がある人もおられるかもしれません。また興奮している患者をとりあえず鎮静してしまってその後困ったり、よかれと思って患者の話をじっくり聞いていたら救急外来のリピーターになってしまったりなど、精神科救急では通常の医療行為とは異なる後味の悪さが付きまといます。これには精神症状に対して身体症状と同じように、きちんとした医学の知識に基づいた診断・治療を行えばよいのですが、精神科を専門としない医師には難しいことが多いです。実は、精神科の救急で必要な知識は、精神医学そのものではないことが少なくありません。精神科の患者に対応する時に必要な法律の知識や、自治体の精神科救急システムの理解が患者への適切な処置に役立つことがあるのです。このため法律や精神科救急のシステムを知ることが、精神科の救急患者対応への第一歩とも言えます。

本書は、救急医や産業医の精神科救急患者対応の疑問に、精神科の立場から答えたものです。問答を通じて精神科の救急にまつわる法律や、精神科救急のシステムが理解できるように作ってあります。精神科救急を知りたい初期研修医や、救急外来を担当する若手医師にはぴったりの本です。精神科救急の本で、精神科医からではなく救急医からの疑問を取り上げたのは、日本の精神科救急システムでは精神科医よりも救急医が悩むことが多いからです。これは救急医の精神科救急システムの理解度も関係していますが、多くは精神科と救急科で緊急度の捉え方が異なることに依ると考えています。例えば精神科のいわゆる一次救急は電話相談で対応することが多いですが、一般救急はすべて対面診察を行います 1) 。電話相談で精神科医が明日の診療でよいと判断した患者が、一般救急病院を受診することは少なくありません。そして患者を診た救急医が精神科の診察が必要だと判断して精神科救急システムに相談すると、そもそも医療につなげることが困難である事実に直面します。精神科救急システムの問題点は、救急医が日々実感しているのです。

本書の救急医側の筆者には、クリニックから重松咲智子先生、市中病院から川口祐美先生、大学病院からは入江仁先生と、それぞれの施設から現場の第一線で救急医療に従事されている先生方に執筆をお願いしました。また職場のメンタルヘルスが叫ばれて久しいですが、産業医は精神科を専門にしない場合でも、精神科の患者に独力で対応しなければならない場面があります。この状況は非精神科医が救急現場で精神科患者に対応する状況に似ていると考え、本書では産業医の面談時の疑問も取り上げました。産業医側の筆者には、林哲也先生に執筆をお願いしました。林先生は産業医の傍ら、救急医として大学病院で非常勤勤務をしておられます。精神科側の筆者は、私以外には日野耕介先生にお願いしました。日野先生は精神科救急分野で著名な新進気鋭の精神科医です。救命救急センターでの勤務経験もあり、救急医側の立場も理解しておられます。果たして先生方からは、実践的で素晴らしい原稿が返ってきました。新型コロナウイルス感染症で医療状況が大変な中、本邦の医学教育にご尽力いただいた筆者の先生方に、この場を借りて心よりお礼を申し上げます。

本書を読むことで、精神科救急ですべきこと、すべきでないこと、できないことを知ることができるでしょう。内容は各著者の質問をランダムに列挙しています。そのためどこから読んでもよい構成になっています。

筆者と編者を兼ねる立場としては、できるだけ実際の救急現場に即しながら、かつ精神医学の正しい知識をはずれない範囲で書くように努めました。しかし精神科の臨床というものは答えのないものが多く、我田引水な記載・編集となってしまっているところもあるかもしれません。また私の浅学のために、誤りや不十分な記載、編集もあると思います。反論も含めてご指導いただけたら幸甚です。

本書が広く愛される書となるよう、祈念しております。

1)林 道彦.福岡県の精神科救急の現状とソフト救急. 日本精神科病院協会雑誌 2003;22(7):738-741

2021年9月21日 久村正樹

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■目次

はじめに
Q1.希死念慮のある患者を、ただちに精神科へ紹介しなくても良い場合はあるか?
Q2.自殺企図患者は、また自殺を試みる可能性があると考えてよいか?
Q3.再企図の危険性が高い自殺企図患者の見分け方はあるか?
Q4.致死性の低い自殺企図手段であれば、再企図の危険性は低いと考えてよいか?
Q5.リストカットや過量内服を繰り返すパーソナリティ障害患者が、本当に自殺することはないか?
Q6.精神科のない病院でも自殺企図患者を受け入れてよいか?
Q7.入院での身体治療が必要にもかかわらず退院を希望する自殺企図患者にできることはあるか?
Q8.自殺企図後なのに、スッキリしていて元気そうにみえる。精神科への相談は不要か?
Q9.夜間休日に救急外来を受診した患者の精神疾患を疑ったら、精神科受診は平日昼間まで待ってよいか?
Q10.精神科治療が必要な患者が精神科受診を拒否する場合、受診させる方法はあるか?
Q11.かかりつけへの受診を拒む精神科患者を、患者が希望する施設へ紹介してよいか?
Q12.精神科主治医に受診を拒まれて救急外来を受診した精神科患者を、主治医以外に紹介してよいか?
Q13.身体疾患が完全に否定できていなくても、精神科へ紹介してよいか?
Q14.興奮している患者に鎮静薬を使用してよいか?
Q15.精神疾患、認知症で判断能力が十分ではない患者への医療処置は同意がなくても可能か?
Q16.自傷行為であれば必ず精神科入院となるか?
Q17.うつ病に罹患した患者が酩酊状態で暴れている。措置入院はできるか?
Q18.認知症患者の入院先は精神科でよいか?
Q19.薬物使用が疑われる患者の薬物検査を同意なく行ってよいのか?
Q20.薬物検出キットで違法薬物の使用が疑われた。警察に通報すべきか?
Q21.保護を拒否する被虐待患者を帰宅させてよいのか?
Q22.精神症状のため興奮している患者からの暴力を受けた。仕方ないと我慢するべきか?
Q23.過換気症候群の患者を精神科に受診させずに帰宅させてよいか?
Q24.精神科では患者に病名を患者に告げないことはあるか?
Q25.断酒をする気がない患者に、精神科への受診を勧めても意味がないか?
Q26.幻聴や妄想を訴えている患者に同意を求められた。きっぱりと否定してよいか?
Q27.患者が話をできる状態であれば、かかりつけ精神科からの診療情報提供書は不要か?
Q28.昏迷状態は精神疾患によるものと断定してよいか?
Q29.統合失調症患者が幻視を訴えて混乱状態を呈している。精神科への入院の方針でよいか?
Q30.患者の不眠の自覚だけで睡眠薬を処方してよいのか?
Q31.心的ストレスに反応している患者に、抗不安薬を処方してよいのか?
Q32.救急外来で摂食障害患者を診るガイドラインはあるのか?
Q33.緊急性が低い病態で頻回に救急車を呼ぶ患者に、救急車の要請を控えるよう伝えてもよいか?
Q34.うつ病患者が抑うつ気分を訴え受診した。抗うつ薬を処方してよいか?
Q35.昏迷状態を呈している患者への対応は、覚醒するまで待つだけでよいか?
Q36.薬物過量内服により意識障害を呈している場合、覚醒するまで精神科受診させなくてよいか?
Q37.身体疾患で入院した精神疾患の患者の向精神病薬を中止してよいか?
Q38.悪性症候群では、向精神病薬はすべて止めてよいか?
Q39.アルコール依存症の治療を中断している患者が身体的な問題で入院した。離脱予防は必ず始めるべきか?
Q40.自殺企図患者が身体疾患で一般病棟に入院する時、家族の付き添いは必須か?
Q41.暴言・暴力で目を離せない患者は、すぐに警察通報してよいか?
Q42.低活動性せん妄患者の食欲を亢進させる方法はあるか?
Q43.認知症患者がせん妄になった場合、見分ける方法はあるか?
Q44.せん妄を予防するために静かな部屋に移動させた。医療行為として正しいか?
Q45.向精神病薬服用中の患者が急に落ち着かなくなった場合、抗不安薬を使用してよいか?
Q46.認知症患者が不満を訴えている。BPSD として薬物で鎮静してよいか?
Q47.医師から、入院すると認知症が進むと説明された。医学的に正しいか?
Q48.過労、うつ状態の患者に抗不安薬を内服させて仕事を継続させてもよいか?
Q49.仕事ぶりに問題のないうつ病社員患者の仕事を継続させてもよいか?
Q50.「うつ病は治ります」と説明してもよいのか?
Q51.うつ病患者に薬物を使用しない場合はあるか?
Q52.体調の悪い従業員との面接で、本人の訴えを聞くこと以外にできることはあるか?
Q53.自殺、自傷行為のリスクの高い医療スタッフを見分けられるか?
Q54.双極性障害で体調不良の患者に仕事を休ませたり、仕事量、負荷を減らしたりすることは有用か?
Q55.病気で仕事ができないのか、怠けて仕事をしていないのかの判断は可能か?
Q56.メンタル不調の患者では、本人の訴えのみを根拠に評価をしてよいのか?
Q57.カウンセリングに副作用はあるか?
Q58.訴えの多い患者の話を、時間をかけて聞いた。医療行為として正しいか?

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■サンプルページ

今回取り上げます「Q.14 興奮している患者に鎮静薬を使用してよいか?」は、CareNeTV『救急現場の精神科診療 若手医師が悩んだ厳選8症例』の第1回目に取り上げられるテーマとなります。

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■終わりに

今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。

是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。

それでは、次回の更新をお楽しみに!

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