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編集後記『Table Top Exercise 机上演習で学ぶ人工呼吸器トラブルシューティング WEB動画付』

医学領域専門書出版社の金芳堂です。

このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。

どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

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■書誌情報

『Table Top Exercise 机上演習で学ぶ人工呼吸器トラブルシューティング WEB動画付』
編集:日本呼吸ケア教育研究会
著 :山田紀昭(済生会横浜市東部病院臨床工学部)
   安田英人(自治医科大学附属さいたま医療センター救急科)
B5判・208頁 | 定価:5,940円(本体5,400円+税)
ISBN:978-4-7653-1877-8
取次店搬入日:2021年09月10日(金)

『WEB動画で学ぶ人工呼吸管理』の続編。モードや設定などの人工呼吸の基礎は理解し、次はトラブルに対処できるようになりたい医療従事者向けのWEB動画付、人工呼吸管理のトラブルシューティング集。

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■編集後記

こんにちは。編集部のNです。

今日は、『Table Top Exercise 机上演習で学ぶ人工呼吸器トラブルシューティング WEB動画付』をご紹介させていただきます。

本書は、日本呼吸ケア教育研究会の好評なセミナーの書籍化になります。

実は、私、本書を作成する前に、このセミナーを見学しました。講師の先生方も、受講者も、熱気あふれるセミナーでした。また、わかりやすい講義で、目から鱗が落ちたのを、今でも鮮明に覚えています。そして、その場で「絶対、本にしたい!」と思い、出版に至りました。

なお、このセミナーは、コロナ前は対面で行われていましたが、Withコロナ時代の今は、オンラインで受けることができます。直近では、2021年10月17日(日)に行われますよ。詳しくは下記「日本呼吸ケア教育研究会」のウェブサイトをご覧ください。

本書は、タイトルのとおり、人工呼吸器のトラブルシューティングを独学できる内容です。セミナーの雰囲気も味わえる、わかりやすい内容です。また、ポイント、ポイントで、動画も掲載していますので、理解が進みますよ。

コロナの流行で、医療現場では人工呼吸器の触れる場面も増えていることと思います。医療従事者の皆様に役に立つ1冊になれば幸いです。

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■序文

人工呼吸器のトラブルシューティングというと、とても敷居が高い学習で、書籍を読む前から尻込みしてしまう人もいるのではないでしょうか。でも、何とか「知りたい」「身につけたい」もしくは「アラームにビビりたくない」という思いがあり、この本を手にとられたことと思います。これまでの人工呼吸器のトラブル対応やアラーム対応を取り扱っている成書を見ると、「〇〇アラームが鳴った場合」→「〇〇が考えられます」のように、アラームに関して考えられる原因の説明が繰り返し展開されているのが一般的かもしれません。

しかし、実際の臨床では、書籍に挙げられているような事例と全く同じ状況でアラームやトラブルが発生するということはありません。つまり、「アラーム」→「対応」だけを単純に暗記しているだけでは、実際の臨床で起こる多様なトラブルに対応することができないのです。

トラブルシューティングは応用問題なのです。つまり、応用問題は基礎ができていなければ解くことはできません。

「基礎ができている」。仮にこれを「何かしらの公式を暗記している」ということにしましょう。しかし、この公式を覚えているだけでは現実で起こる応用問題は解けないのです。なぜでしょう? それは、公式を繰り返し使うという「練習」が不足しているからです。小学生・中学生の勉強でも同じですね。トラブルシューティングを習得するのに近道はありません。そろそろ皆さんもこれからやるべきことがわかってきたのではないでしょうか。

トラブルシューティングを身につけるために必要なことは、まず「基礎を固める」。いわゆる課題を解くための公式のようなものを覚えなくてはいけません。そして次に必要なことは、その公式が使えるように練習することです。

本書の構成は、基礎から始まって、それを臨床にどのように活用・適応させていくのかという流れになっています。まずは、第1~4章で、トラブルシューティングに必要な基礎知識を学習します。そのためには「グラフィック」と「肺メカニクス」の知識が必要となります。なぜこの2つの知識が必要なのか、それは、第5~7章で明らかになります。それらを身につけた後は、第8~9章で、症例をもとに、グラフィックと肺メカニクスをどのように活用してトラブルに対応していけばいいのか、机上トレーニングをしながら理解を深めます。机上トレーニングを繰り返し行い「イメージ」できるようになれば、臨床現場で何かしらのトラブルに遭遇したとしても、そう驚くことはなく冷静に対処することができるでしょう。

そして、本書のもう一つの特徴は、研修の「作り方」を学ぶことができることです。第10章では、「チームでスキルアップするための研修の作り方」というテーマで、読者の皆さんの施設のチーム力を上げるための研修の「作り方」を学んでもらおうと思います。「何で? トレーニングの作り方を学ばなければならないの?」と思われた方もいるかもしれませんが、トラブルシューティングの知識や技術は、誰か一人だけが身につけたとしても、患者さんの命を守ることはできません。チームが同じ目線で、患者さんと人工呼吸器に向き合わなければなりません。共通言語も必要ですし、トラブルに対する考え方も概ね同じ方向を向いている必要があります。そのためには、やはり効果的なトレーニングを読者の皆さんの施設に組み込む必要があります。特に、様々な職種が管理に関わる人工呼吸器だからこそ、多職種で学ぶ必要があるのです。まさにチーム医療ですね。

2021年8月
日本呼吸ケア教育研究会
安田英人・山田紀昭

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■本文

第6章 「トラブルシューティングを実践する(各論①)~頻度が高く、危機的なアラーム~」より、気道内圧上昇のケースをチラ見せ。

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1.気道内圧上昇

 ●事例

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―今日は、肺炎の増悪で人工呼吸管理をしている患者さんを担当することになりました。

先輩看護師:「今日は、肺炎で人工呼吸管理を行っている患者さんを受け持ってもらいます。何かわからないことがあったら言ってね!!」

新人看護師:「はい。よろしくお願いします」

―新人看護師は、テキパキとケアを進めています。聴診して、モニターのチェックをして……などなど。一通り終わってホッとしていると……、人工呼吸器からアラーム音が発生しました。

新人看護師:「えっ! 気道内圧上限アラームが鳴っている。どうしたんだろう……。せっ、先輩~~~!」

―新人看護師は、アラームの原因がわからず、先輩看護師の助けを呼びました。

先輩看護師:「どうしたの?」(慌)

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 ●気道内圧上限アラーム(VCVの場合)

VCVの気道内圧上限アラームが鳴った時のフローチャートは以下のとおりです。

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アラームが鳴りました。最初に行わなければいけないことは何でしょう? まずは、何のアラームが鳴っているのか? を確認しましょう。何のアラームが鳴っているのかで、確認点や進め方が変わってきます。

a.発生しているアラームは何か?

鳴っているアラームの種類を確認しましょう。「気道内圧上限アラーム」が発生しているようです。それでは、原因検索を進めていきましょう。

b.レベルⅠ

まずは、確認点を整理しましょう。レベルⅠでは、それほど時間をかけずに、サクッと観察していきます。パッと見てわかる部分を見ていきます。なお、パッと見てわかる部分には、主に回路と気管チューブ、それと患者さんの咳嗽がありました。

次に、緊急性の高い「回路と気管チューブ」を考えましょう。回路と気管チューブのトラブルには「気道抵抗上昇」と「リーク」がありましたが、気道内圧、すなわち人工呼吸器回路の圧が上がる原因になるのはどちらだと思いますか? 答えは、「気道抵抗上昇」の方です。「リーク」の場合には、空気が漏れるわけですから、逆に気道内圧は下がりそうです。ということで、気道内圧上限アラームでは、気道抵抗上昇となる原因を疑っていきます。

また、致命的なトラブルではありませんが、「患者さんの咳嗽」も考えましょう。患者さんが咳き込んでいれば、人工呼吸器回路の圧が上がりそうです。もし患者さんが明らかに、「ゴホ、ゴホ」と咳をしていて、咳が治まりアラームが鳴らなくなったのであれば、原因は「患者さんの咳嗽」とわかります。

<確認点>
●回路:回路の折れ曲がり
気管チューブ:見える部分に分泌物
患者さんの咳嗽

この状況を踏まえて、次は、回路点検の鉄則に基づき、空気の流れに沿って、回路・気管チューブを見ていきます。特に「回路や気管チューブの折れ曲がり・分泌物・過剰な水滴」に注意を払いましょう。回路や気管チューブが明らかにくっきりと折れていたり、過剰な水滴や分泌物によって、回路やウォータートラップ・人工鼻が閉塞したりしていないかを確認します。また、気管チューブ付近では、見える部分にべったりと痰がついてないか、痰が吹き上げていないか、確認してください。

ここで原因がわかれば、さっとトラブルを解決してしまいましょう。回路の位置を調整したり、折れ曲がりを直したり、回路内の水滴を除去したりして、アラームが再度発生しなければトラブル解決となります。もし、この段階で原因がわからない場合は、レベルⅡへ進みます。

c.レベルⅡ

レベルⅡでは、情報収集やグラフィック解析、肺メカニクス評価を取り入れて、証拠を集めていきます。

 -①情報収集

レベルⅡでは、フローチャートを進めながら、情報収集も同時に行っていきます。「アラームが鳴る直前に、何か処置を行ったりしましたか?」と聞いてみると、「体位を変換した」「気管チューブの位置を変えた」という情報が得られることもあります。このような情報は手がかりと照らし合わせることで、トラブル発生部位を特定することができるかもしれません。

<情報収集のポイント(気道内圧上限アラーム)>※情報収集手帳に基づき聞き取りを行う。
●Who:
この患者さんの既往歴は?
 →【例】肺炎で入院しています。しかし、COPDが既往にあります。
誰が発見したの?
 →【例】私です。
●When:
いつ頃から鳴っているの?
 →【例】5分くらい前の処置の後です。
●What:
何の処置をしたの?(重要)
 →【例】体位変換しました。
  (→気管チューブの折れ曲がり、回路の折れ曲がり、分泌物の移動が考えられる。) 
 →【例】気管チューブの位置を変えました。
  (→気管チューブの折れ曲がり、気管チューブを噛んでいるが考えられる。)
●Why:
なぜ気づいたの?
 →【例】ゴホゴホして、その後アラームが鳴りまくっているため。
●How:
このアラームどんな時に鳴ることがある?
 →【例】体位を変えた後なる傾向にあります。
●その他気になるところは?
 →【例】痰の量が多いです。咳嗽力は強いと思います。

 -②グラフィック

グラフィックでは、気道内圧上昇アラームであれば、リークは考えにくいので、非同調があるかを見ていきます。非同調は、人工呼吸器の設定が患者さんの呼吸と合っていないことで起きます。VCVで気道内圧が高くなりそうな非同調には、何があるでしょうか?

まず、1回換気量が大きすぎる場合です。1回換気量の設定を大きくすると、肺がパンパンに膨らむため、気道内圧が高くなってしまいます(図6-1)。

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次にダブルトリガーがあると、1回の呼吸で2回分の1回換気量を吸うことになるので、やはり肺がパンパンになり、気道内圧は高くなります(図6-2)。

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そして閉塞性肺疾患のように、息を吐きにくくなっている場合には、吐ききれない空気が肺に貯まる「エアートラッピング」が発生し、また肺の中の圧が高くなってしまうというauto-PEEPが発生します(図6-3)。

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この場合も、肺はパンパンに広がるために結果的に気道内圧は高くなります。非同調がトラブルの原因である場合には、人工呼吸器の設定を見直す必要があります。

 -③肺メカニクス

グラフィックで非同調が見られなければ、気道抵抗上昇かコンプライアンス低下を考えます。この2つの区別には、肺メカニクスを使います。両者の区別には、プラトー圧を測定するのでしたね。

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気道抵抗が上昇したのか、コンプライアンスが低下したのか、区別できたら、さらに部位と原因を絞り込んでいきます。常に、

「トラブルの種類」「トラブルの部位」「トラブルの原因」という3つのステップ

を意識してください。

原因がコンプライアンスの低下であれば、患者さんの肺の問題です。得られた情報から「肺炎が増悪したのかな?」「ARDSになってしまったのかな?」など、裏づけることもできます。気胸が起こっても肺は膨らみにくく、コンプライアンス低下の原因になります。

「気道抵抗上昇」といった場合、患者さん自身の気道だけでなく、気管チューブも含まれます。気管チューブの見える部分については、解決済みで既に見ていますが、見えない部分にチューブの折れ曲がりがあったり、患者さんが噛んでいたり、痰が詰まっていたりしていないか、再度確認します。閉塞性肺疾患の増悪も、気道抵抗上昇の原因となりますので、忘れずに確認しましょう(図6-5、表6-1)。

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 ●気道内圧上限アラーム(PCVの場合)

なぜ、PCVでは気道内圧上限アラームが鳴るのでしょうか?

PCVは、設定した圧がかかるという特徴がありました。アラームの設定が適切であれば、設定した圧が維持されているので、気道内圧上限アラームは鳴らないように思われます。

しかし、いくらPCVでも、気道内圧上限アラームがなってしまうことがあります。それは、患者さんが吸気のタイミングで強制的に呼気を行った場合に起こることがあります。

例えば、設定吸気時間を長くしてしまった場合、吸気時間があまりに長いと、吸い終わったところで息止めを強いられている状況となり、このような状況の中、患者さんが頑張って息を吐こうとすれば、図6-6のBのように吸気の終わりに、上向きに尖った波形が現れます。これが原因で気道内圧が上昇する場合があるのです。

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PCVだからと言って、絶対に気道内圧が変化しないというわけではありません。

また、致命的なトラブルではありませんが、VCVと同様に「患者さんの咳嗽」も考えましょう。患者さんが咳き込んでいれば、いくらPCVでも人工呼吸器回路の圧が上がります。もし患者さんが明らかに、「ゴホ、ゴホ」と咳をしていて、咳が治まりアラームが鳴らなくなったのであれば、原因は「患者さんの咳嗽」とわかります。

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■姉妹本のご紹介

『WEB動画で学ぶ人工呼吸管理 基礎がわかれば実践できる』
編集:日本呼吸ケア教育研究会
B5判・192頁 | 定価:5,940円(本体5,400円+税)
ISBN:978-4-7653-1809-9
取次店搬入日:2020年03月09日(月)

好評な人工呼吸管理のワークショップを書籍化! 基礎から体系的に人工呼吸管理が学べます。約130分のWEB動画付。

こちらも、日本呼吸ケア教育研究会の好評なワークショップを書籍化したものです。人工呼吸管理を基礎からしっかりと体系的に学べます。

タイトルのとおり、本書には、そのワークショップを体感できる約130分のWEB動画もついています。こちらも独学で、人工呼吸管理がしっかり学べる1冊になっています。

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■終わりに

今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。

是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。

それでは、次回の更新をお楽しみに!

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