編集後記『Dr.ミヤタクの研修医養成ギプス』
医学領域専門書出版社の金芳堂です。
このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。
どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
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■書誌情報
釧路という地域に根ざして約30年、その間100人近い研修医を育成し送り出してきた一人の卓越した指導医である著者の“実体験と経験知”が織り成す、今ここでしか読めない珠玉の研修医指導語録!
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■編集後記
こんにちは。琵琶湖に飛来する冬鳥が気になり始めた編集部のFです。
これは、Dr.ヤンデルこと市原真先生(札幌厚生病院病理診断科主任部長)が本書の著者であるDr.ミヤタクこと宮城島拓人先生(釧路労災病院副院長・内科部長)を評した言葉です。
実はこの言葉、市原先生の著作「病理トレイル」(弊社刊行:2021.4)の書評について依頼を行う際に、先生から頂いたリストに添えられた弊社宛の簡単なメモ書きでした。
(関連書籍)
そのメモを見て私はすぐに「この宮城島先生にこれまでの経験を元になにか書いてもらえば、きっと今まで読んだことのない面白い本ができるはずだ!」と直感的に反応しました。
すぐさま市原先生にもその旨を伝えて賛同を得ました。
本書「Dr.ミヤタクの研修医養成ギプス」は、この瞬間に産声を上げたのです。
…いや、この時点では想像妊娠です。まだ宮城島先生にオファーをしていません。
「書いてもらいたい先生に実際書いてもらえるのか?」意中の先生への執筆依頼・企画相談、これは企画編集を行う者にとっていつもドキドキの真剣勝負です。
このようなメールを送ったのが今年2021年の5月でしたが、なんと!それから僅か2ヶ月程度の期間にほぼ完成に近い状態の原稿が出来上がっていました。
おそらく、このとき“北大第三内科第二医局”はたまた“宮城島再生工場”とも呼ばれた中で展開されてきた研修医医指導にまつわる様々な「物語」の一つ一つが、宮城島先生のうちに醸成され結実していたものが原稿として一気に花開いたのだと思います。
洗練された技術や科学的根拠だけではない「患者とその患者家族の心に寄り添う仁術としての医」の普遍的かつ本質的な重要性。それはイキイキした実体験を通した経験をもってのみ語り得るものです。またその重要性を理解して長年現場で実践してきた者のみが語り得ることでもあります。
本書が研修医指導語録として伝えたいメッセージはどうもその辺りにあるようです。
養成ギプスに例えられた昭和臭漂うスポ根的ギミックには、こうした血の通った、心を通わせた指導のあり方、研修医の育て方・付き合い方を示す意味合いが込められているのだと感じています。
本書をすべての研修医、かつての研修医であり現在上級医や指導医として研修医を育てる側にあるすべての方々、また日頃から研修医に接するすべての医療従事者の方々、そうしたすべて方の気持ちを暖かく元気にする特効薬としてオススメします。
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■序文
推薦の言葉
「宮城島再生工場」とは、本書で語られる、釧路ろうさい病院内科の別名である。ほのかな愛嬌を感じるとともに、どことなく、大学でうまくやっていけなかった若い医者を田舎でゆっくり育成し直すような、牧歌的なニュアンスもある。
しかしこれは宮城島拓人先生なりの、「一流の謙遜」であろう。なぜなら、私が知る同科の通り名は、誰が呼んだか、「北大第三内科第二医局」だからだ。
全国の地方病院が研修医取得に苦労する中、過疎地中の過疎地である釧路市において、毎年多数の研修医・専攻医を育てて全国に輩出している様は、古き良き「大学医局」に例えられるにふさわしい。おまけに若手指導のみならず、道東圏の医療を文字通り支えているのだから恐れ入る。担当する疾病の広さよ! 消化器内科、腫瘍内科、血液内科、呼吸器内科、肝臓内科、感染症内科。これらを内科医たちが手分けして診ているわけではない。「みんな全部見る」。医局員全員がゼネラリストかつスペシャリストである。
研修医養成ギプスとはよく言ったものだ。ただし昭和の香りは煙幕である。教授になる道を選ばなかった著者の洞察、先見、連環、矜持、後悔、理念、栄光、宿業。ナラティブは患者だけのものではない、医者にだって物語がある。
札幌厚生病院病理診断科
市原真
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はじめに
前代未聞の新型コロナ感染症が世界を席巻している。まだまだ先が見えない不安の中で医療の現場はこの新規感染症の診断、治療、そして予防のためのワクチン接種に汗だくになって対応している。
世の中は生活のニュースタイルを構築しようと必死だ。しかし、医療にはニュースタイルなどない。新型コロナウイルス感染症の出現により、リモート診療やAI(人工知能)を駆使したシステムなどの構築は加速されてきた印象はあるが、医療の本質は目の前にいる助けを求める患者をいかに救うかにある。その基本は患者の体と心に触れることであり、技術と言葉で癒すことにある。それは、未来永劫変わりはない。その文脈ではコロナ禍であろうとも、サスティナブルな研修医の指導に特別な変化はないと感じている。
外出の制限や外食の自粛が求められる中で、病院と家との往復を繰り返す日々を送るうちに、私が釧路ろうさい病院という定点で30年近くやってきた代わり映えのしない研修医の指導の実際を言語化する意義を考えるようになった。コロナ禍だからこそ、今だからこそできるのではないか。そう考えながらキーボードをたたき始めた。
波乱万丈な世の中の外力に惑わされない研修医との付き合い方を、読者の皆さまと共有し、少しでも共感が得られたら幸せだと思っている。
2021年11月
さわやかな青空の釧路にて
宮城島拓人
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■目次
推薦のことば
はじめに
プロローグ
Experience based medicineとしてのEBMを語る覚悟
モノローグ
1 まず私のことを語ろう
2 研修医とは何か
研修医養成ギプス
鍛錬01 釧路で学ぶ覚悟、教える覚悟(4Kから新しい4Kへ)
鍛錬02 学生と研修医の決定的違いは、生活の時間軸にある
鍛錬03 一に挨拶、二に感謝
鍛錬04 マルチタスク人間であれ
鍛錬05 三つ子の魂、百まで
鍛錬06 お前が主治医だ
鍛錬07 広く深く
鍛錬08 ゆりかごから墓場まで
鍛錬09 カルテは誰のためのものか
鍛錬10 サマリーは自分のためのみにあらず
鍛錬11 昔はムンテラ、今はIC
鍛錬12 職業を聞く習慣
鍛錬13 とにかく触れる
鍛錬14 その検査は誰のため
鍛錬15 医療安全と院内感染対策
鍛錬16 HBV(B型肝炎ウイルス)とHCV(C型肝炎ウイルス)を検査する理由
鍛錬17 内視鏡養成ギプス;まずは姿勢から
鍛錬18 エコー(超音波)検査養成ギプス;外堀から埋めよ
鍛錬19 HIVを忘れるな
鍛錬20 救急対応に求められるもの
鍛錬21 まずやってみろ。責任は俺がとる
鍛錬22 ほうれんそうにおひたし
鍛錬23 EPOCとJ-OSLERを使いこなす
鍛錬24 On the Job Training(OJT)ということ
鍛錬25 脊髄反射か大風呂敷か(研修医から学ぶワークアップ)
鍛錬26 口コミがモノを言う
鍛錬27 来る者は拒まず、去る者は追わず
鍛錬28 カムバックサーモン理論
鍛錬29 NRホスピタルから発信;オール釧路で育てる試み
鍛錬30 ケニア医療ボランティアで得たもの
つまずいた者たちへのエール
1 精神科に自分で入院した男
2 ネギ嫌いの脳梗塞
3 失踪
4 トイレに籠城した女医
5 スタッフとのコミュニケーションがとれないトラブルメーカー
6 遅れてきた青年
エピローグ
研修のその先にみえてくるもの
ひと休み
新3K
1年の差
やりすぎは良くない
ここにもあった、マルチタスク?
どこまで似る!
初期研修医のド根性
Gastroenterohematologist
見落としと再発
OB(オーべー)だけでも、れっきとしたカルテ記載
針のむしろ
You know……
目的を誤ると
鼓音、濁音、濁音界
検査誘発性貧血
優しいだけじゃいや
HBVワクチンは医療行為の肝である
内視鏡で食っている話
若い女性を診る時の心構え
「ビンゴ!」を引き当てた研修医
二次救急にへばりつく研修医
ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)専門医の心境
「し・な・び・る」
年度末のメール地獄
オー・ジェイ・ティー!
負けない診断
コロナ禍で変わる学生の指向
自分探しをしにきた研修医
“ほっちゃれ”でもいいですか?
病院間シャトルバスの夢
索引
著者プロフィール
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■サンプルページ
プロローグ
この編集後記でも触れた本書誕生の経緯や目的が、著者である宮城島先生の視点から書かれています。
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研修医養成ギプス
養成ギプスと銘打った「鍛錬(研修医指導語録)」が30本まとめられています。すべて実体験・経験値でしか語り得ないエピソードベースの格言・金言にあふれています。
まずは興味のあるものから読んでみてください。きっと一気読みしてしまうこと請け合いです。
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つまずいた者たちへのエール
この巻末に収められている「つまずいた者たちへのエール」から読んで、それから本編である「研修医養成ギプス」を読み始めてもよいかもしれません。
世の中バリバリの研修医だけではありません。「患者と患者家族の心に寄り添う医(医療)の重要性」それを短い期間で研修医に伝えるには研修医の心に寄り添った実物見本としての指導医のあり方こそ重要になってくるのではないでしょうか? ここにはそんなことを思わせる示唆に富んだ貴重なエピソード(物語)の数々が収められています。
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■終わりに
今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。
是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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