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勇者と魔王と聖女は生きたい【106】|連載小説

「ほんとのことでしょ。飽きもせず毎日毎日シオンシオンって後を追っかけて」

「いや、まぁ、そうだけど……あれは田舎者が、華やかな都会の女性に憧れる気持ちだったよ。シオンは優しくて、理想的なお姉さんみたいだったから」

田舎出身の僕は、華やかな女性に縁がなかった。
たぶん、あれは近所のお姉さんに憧れるような気持ちだったのだと思う。
"擬い物"と糾弾され、敵意を向けられたときはすごく、すごく傷ついて、心がズタズタになったけれど……今はもう思い出しても大丈夫。心は揺らがなかった。

「ふぅん?シオンはそうでもなかったみたいだったけれど」

「え」

「え!?」

またも固まるティアと、声を上げて驚く僕に、今度は呆れた様子でエルが肩を竦めた。

「"ウェルがなかなか手を出してくれない"って愚痴をこぼしてたから、あの時はそういう関係なんだと思ってたわ」

「て、手を出さないって……付き合ってもないのに。しかも、シオンは聖職者じゃないか」

聖職者が"そういうこと"を禁止しているわけではないが、あまり好まれていないのは確かだ。聖職者として高い位に登れるかどうか、欲を禁じれるかどうか問われることもあるらしい。

「ふうん?」

どうしてだか、僕のその言葉に少しエルが考え込んでから、口を開いた。

「……ああ、なるほどね。じゃあ、"それ"もまた、女神の預言だったのね」

「えぇ?」

「シオンの女神の預言が、ウェルに抱かれるって詠まれたんでしょ」

エルが断言する。
僕は一瞬、その言葉の意味が分からなくて固まった。

「いや、そんな、さすがに、そこまで……しないだろ」

理解して、ようやく出てきた言葉は、そんな言葉にならない言葉だけだった。
シオンが好きでもない相手である僕。しかもシオンは僕の死の予言を知っていた。
これから死ぬ相手である僕に、聖職者であるシオンが抱かれる?
"女神の予言に詠まれたから"というだけで、身を捧げる理由になるだろうか?

「…………」

いや、でもその疑問は、"擬い物"になるまえの僕だったら、疑問に思っただろうか?
僕は魔王を倒せると詠まれた女神の預言と同じく、受け入れていたんじゃないだろうか?

「……今思うと、付き合ってもいないアンタに抱かれることへのシオンの執着は異常だったわ。

私、確証のないことを言うのは嫌いだから、想像で話をすることを今までしたことないけど、これは想像で断言できる。女神の預言に詠まれていたことに間違いはない。

シオンの女神の預言への拘りは……それぐらい狂気じみてるわよ」

今更ながら、女神の預言通りに生きる考え方にゾッとした。



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