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勇者と魔王と聖女は生きたい【80】|連載小説

「先ほどは助けていただいてありがとうございます」

ティアを探していた僕に、馬車に乗っていた一般人の一人が話しかけてきた。全体的にさっぱりと清潔のある雰囲気の若い青年だった。目の上に真っ直ぐに切りそろえられた前髪、後ろは刈り上げられた黒髪。
優しそうな容貌と、柔らかい声だ。

「……?」

体も線が細くほっそりしていて、戦闘を知らないのが分かる。
しかし、なんだか違和感があり、僕は首を傾げた。

「坊ちゃん、俺らは先に街に行ってるぞ」

「はい。また後ほど」

戦闘狂の男が、青年に声をかけてサッサとその場を去る。
"坊ちゃん"。どこかの貴族だろうか?
もしかしたら、僕が勇者だった頃に会ったことがあるのかもしれない。僕は顔につけた仮面をさり気なく触って確認する。

「ぜひ、お礼をさせてください」

「あ、いや、たまたま僕らも通りかかっただけだから……」

「命を助けていただいたお礼をしなければ、街を預かっている身として、街の者たちに顔向けできません」

「……!」

ああ、そうだ。
僕は彼に会っている。

「申し遅れました。僕はイリヤ。イリヤ・セレスト。最北端の都市アデスイリスを任されています」

先ほどの違和感が解消された。
彼は、僕が勇者であったころ、魔族領へ入る前にアデスイリスで世話になった貴族だ。



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