勇者と魔王と聖女は生きたい【105】|連載小説
アランという傭兵のアジトに訪れてまで会う理由がない僕らは、とりあえず街の中を歩くことにした。
王都やその近くの街と比べると少ないが、今まで訪れた町村よりも人がずっと多い。人を見たら自ずと女神の預言が見えるティアにはキツくはないだろうか。
「ティアは大丈夫?イリヤ様の屋敷で待っててもいいけど……」
「いえ、今までの旅で慣れてきたみたいで、この程度ならなんとか大丈夫です」
「そう?体調が悪くなったらすぐ言ってね」
「はい」
頷くティアを確認して、改めて周りを確認しながら街を歩く。
とても落ち着いた街だ。最北端の都市と言われており、その名の通りこの街より北に行くと、魔族の域に入ってしまうか、極寒の山脈に登ることになる。
「なんだか、懐かしいなぁ」
「ウェル様は、この街に来たことがあったのでしたね」
「そう。1回だけだけど、なんだか懐かしくって」
勇者という名で旅をしていた時に、この街を訪れたのは最後の補給のためだった。
あの時は、ついに魔族の域に入ることに、恐れを抱きつつも、死に対する恐怖はなかった。
生きて帰る。
その未来を疑いもしなかったのだ。
この街で、この道で、一緒に歩いたハイス、シオン、レアムト、エル。
この4人で、必ず帰還するのだと、そう思っていた。
「……僕って」
「?」
……改めて過去の自分を思うけど。
「バカだったなぁ」
穴があったら入りたいってこんな気持ちなのか、ってぐらい恥ずかしいバカだった。
「う、ウェル様?」
「いや、ほんと。だって、女神の預言で勇者に選ばれて、僕が魔王を倒せるんだって信じて疑うことなくてさ。で、魔王城に着いたら手加減したマオにコテンパンにされて」
「いえ、でもそれは……」
「うん。死の預言を本人に聞かせられないから仕方ない。けどさ、それって誰もが知ってることだ。少し考えればわかるんだよな……"もしかしたら、死地に送られたのかもしれない"、"死の預言を隠されてるかもしれない"って」
実際に僕に詠まれた預言は、"勇者は魔王を討伐する"だった。
"魔王を倒して無事に帰れる"って詠まれたわけじゃない。
「…………」
「だからこの街で、すごく呑気にしてたんだよなぁ。遠足に行くような感覚だったんだよ……今更ながら恥ずかしくなってきた」
「そうね。シオンのケツを追ってたわよね」
「え」
「エル!」
エルの言葉に固まったティアに慌てる。
咎めるために声を上げると、肩をすくめてエルが笑う。
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