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勇者と魔王と聖女は生きたい【9】|連載小説

「まず、私たちには足りないものがある」

何だと思う、と首を傾げる魔王……改め、マオに僕が答える。

「僕たちには、旅に必要な必需品がない」

鎧は置いて来てしまったが、僕は武器を所持していたし、マントはあるのである程度の旅に出ても大丈夫だろう。しかし、それだけだ。食事もないし、野宿の道具もない。

「その通り。私も耳を隠せるものが欲しいし、ミーティアに至っては軽装だ。とても旅はできんだろう」

「私、なにか武器が欲しいです」

ミーティアの言葉にマオは難しい顔をする。
素人が武器を持ったところで、すぐにどうこう出来るわけもないし、自分自身が怪我をする恐れもあり危険だ。難しい顔をする理由もよく分かる。

「……うーん、まぁ、身を守るすべはいるな。ちなみに、全員お金はどれくらい所持している?私はないぞ」

「私もです」

予想はしていたが、二人とも無銭だった。。

「僕は魔王討伐の報酬に貰ったお金だけど、しばらく凌げるぐらいは……」

「うむ。私討伐よくやった」

マオは満足げに頷くが、それでいいのだろうか。

「では、まずはそれらの調達だ。さて、どこへ行けばいいと思う?」

「王都は論外ですよね。近くの街でしょうか?」

「……でも、無理をしてでも強行して、王都から遠くへ離れた方がいいんじゃないか?追手が来るかもしれない」

ミーティアの追手は誰か分からないが、少なくとも僕を追いかけてくるとしたら、かつての仲間たちだろう。
彼らにまた武器を向けられるかと思うと、ゾッと体が冷える。できればもう、相対したくない。

「追手の心配はないだろう。お前の仲間が来るのはあり得ない」

「え?」

「どうしてです?」

僕の気持ちを察したのか、追手の存在を完全否定するマオに僕たちは首を傾げた。仮にも、勇者の肩書を持つ僕を倒すとなると、相応の腕を持つ者が追ってくるだろう。
相応の腕を持つ=勇者の仲間、と考えるのは当然だ。

「私たちは、三人とも女神の預言に存在しない者だぞ?」

「?」

「”存在しない者を追いかけろ”、と女神の預言が詠むはずがない」

「あ」

盲点だった。
僕も聖女であるミーティアも、目から鱗が落ちた気持ちだ。

「じゃあ、近くの街に向かえばいいのか?」

「だと私は思うぞ。ミーティアはどう思う?」

「私も構いません」

満場一致で近くの街へ行くことが決まった。
僕たちの前に座っていたマオが立ち上がり、体を伸ばす。

「さて、ではのんびりと近くの街を目指そう」

「分かった」

僕もミーティアも遅れて立ち上がったところで、マオがポツリと呟いた。

「ま、教会からの追手は分からんがなぁ」

「え?」

追手はいない、と断言した口で何を言うのか。
僕は驚いて疑問を口にする。

「でも、教会も同じ理由で追手はいないんじゃないか?」

「いえ。教会からの追手はあるはずです」

暗い顔をしたミーティアが言った。

「教会が飼っている、"闇"がいますから」



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