勇者と魔王と聖女は生きたい【97】|連載小説
安心した、ばかりだというのに。
「女神の預言が……」
"見えません"。
顔色を真っ青にさせて、ポツリと隣にいる僕とエルだけ聞こえるように小さく呟かれた言葉を正確に聞き取り、絶句する。
「…………」
さすがのエルも言葉が出ない様子で、"彼"を見つめた。
「みなさん、どうかしましたか?」
彼は……先に朝食の席についていたイリヤ様は、不思議そうに首を傾げている。優しく微笑む顔も、柔らかな声も、ほんわりとした雰囲気も、昨日と何も変わらない。
そのはずなのに、ティアから話を聞いた後だと得体の知れなさを感じた。
「……悪いわね、ティアがどうも調子が悪いみたい」
「えっ!大丈夫ですか?良ければ僕専属の医師を呼びますが……」
「旅の疲れが出ただけだと思うから、心配不要よ」
エルが機転を利かせてティアの体調不良であると誤魔化す。
実際にティアの血の気が引いた顔を見ると説得力があった。
「よければ、ティア様の体調が戻るまで屋敷に泊まってください。屋敷の中も自由にしていただいてもかまいません」
「あ、いや、それは……」
元凶ともいえるイリヤ様がいる屋敷にこのまま滞在してもいいものか、判断に迷う。このままだとティアの調子も戻らないのではないだろうか?
「あら、じゃあこの屋敷に魔法に関連する本とかあるかしら?読んでみたいわ」
「エル!?」
相変わらずの魔法に夢中なエルの言葉に、僕は慌てた。
だが言った言葉は取り消せず、イリヤ様がにこやかに頷いた。
「図書室にありますよ。好きに読んでいただいてかまいません」
「そ、ありがと。ティア、あんたも本が好きでしょ。落ち着くかもよ」
「は、はい」
もう、断れそうにない。
「それじゃあ、すみませんが、お世話になります」
僕がお願いすると、やはり穏やかな雰囲気のままイリヤ様が頷く。
ティアからの情報がなければ、善人の塊のような人だ。
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