勇者と魔王と聖女は生きたい【75】|連載小説
「アイシャ?」
「あ!ウェル様、あれを!」
吠え続けるアイシャの姿に首を傾げている僕の後ろから、吠えている原因に一番に気づいて声を上げたのはティアだった。
アイシャが吠える先、ティアもまた指で示した先には、魔物に襲われている馬車が遠くにあった。
「誰か、戦ってるみたいだけど……」
業者は馬車の上で震えているが、その周りに馬車に同行していたらしい旅の者か、護衛か戦っている姿が複数見えた。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「さすがに魔物が多すぎね。まずそうだわ」
ハラハラするティアとは反対に、エルが冷静に判断を下す。
そう、今は何とか魔物を退けているようだが、魔物を倒すに至っていない。ただただ戦っている者たちの体力を削っているだけの状況だ。いつ均衡が崩れるか分からない。
「助けに…!」
「助けに行っていいの?」
「え!?」
エルの遠回しの"待った"に、僕とティアが目を見開いて固まった。
「だって、私たちがここにいるのは、女神の予言にはないことよ。冷たいようだけど、今、私たちが介入して彼らを助けることは、いいことなのかしら?」
「そ、それは……」
ギクリ、とした。
女神の予言には存在しない僕らが介入することで、彼らはどうなるのだろう?
助かる予言なら、まだいい。
しかし、万が一、彼らがここで死ぬ運命の予言であったなら?
僕たちが介入して助けることで、彼らは僕らと同じ"擬い物"になってしまう。
「て、ティア……」
「ここからでは、見えません……」
ティアの予言が見える目を頼ろうとするも、無情にも首を振られてしまった。
――……彼らは僕らと同じ"擬い物"にする。
"擬い物"になってしまったら、彼らは今までと同じ生活には戻れない。
それは、あまりにも罪深いことだ。
"擬い物"の僕やティアを背負ってくれたマオのように、僕は背負える気がしなかった。
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