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勇者と魔王と聖女は生きたい【17】|連載小説

「このッ……言わせておけばァッ!」

マオ様のお言葉に怒りを見せて、突進してくる黒装束の男。
詰まらなさそうに立つマオ様の前に、人影が降り立ちました。瞬きする間もなく剣が舞います。ナイフが飛び、剣の腹で男を吹き飛ばしました。

「マオ!ミーティア!」

人影はウェル様でした。
しかし、こちらの無事を確認して安心した様子を見せるウェル様の姿に、私は首を傾げます。

「どうして仮面をしているのです?」

「私が顔を隠してから来いと言ったんだ。だが、それにしたってお主それは……」

「お祭りの仮面ですね」

「子供向けのな」

「うるさいな!しょうがないだろ、急いでたんだから!」

可愛いヒヨコを模した仮面をしたまま、ウェル様が言い返しましたが、全く迫力がありません。「犬だったら評価したのに」と呟いているマオ様がおりましたが、ウェル様はスルーしました。

「おぉ、一撃で伸したか」

吹き飛ばした男をマオ様が見に行きます。気絶しているのか反応をしません。ホッと私の肩から力が抜けました。

「それで、コイツ等は?」

「教会関係者らしいのぅ」

「私を、連れて戻りたかったようです。……次代の聖女が直接手を下すために」

「……シオンか」

ウェル様が複雑な顔をして黙りました。
勇者一行のお一人であり、そして、次代の聖女シオン・エーデル様。
艶やかな長いピンクの髪、青い大きな瞳が魅力的な方です。お話した事はありませんが、熱心な女神信者であると聞いたことがあります。
そういえば、勇者様と並んで歩く姿が絵になる、と城のメイド達が噂していました。恋仲、だったのでしょうか?

「今のところ、教会の最優先はミーティアのようだの」

「……えぇ」

マオ様の言葉で向けられたナイフを思い出してしまい、体が震えます。

「私、やっぱり、死ぬのが怖いです」

聖女ならば、女神の預言に従うべき。
そう思うし、周囲の者達もそう思うだろう。けれど、やはり死ぬのは怖い。

「ウェル様、マオ様。私、生きるためならなんでもします」

足元に落ちていた黒装束の男のナイフを拾う。
驚いている二人に気付いていましたが、自身の腰まで伸びた銀色の髪を無造作にまとめて掴む。

「お、おい」

マオ様が慌てて手を伸ばします。
それが、先ほどの黒装束の男に向けた無表情とは違いすぎて、つい笑ってしまいました。
なので思ったよりもあっさりと、伸ばしてきた髪を肩口辺りの長さに切ることができました。

「え……えぇ!?」

「お、思い切ったのぅ」

散髪は、「この長い銀髪が目立つから」という単純な意味もあります。
けれど、聖女だったころの情けない自分との決別の意味もありました。

「どうぞ、次からはティアと呼んでください。私の名前はあまりにも世間に広がりすぎていますから」

もう、何があろうとも諦めないで生きてみせます。

マオ様の手を煩わせないように、早く一人で生きられるようにもなってみせましょう。




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