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勇者と魔王と聖女は生きたい【52】|連載小説

すぐにアリス達が襲撃してくるものとばかり思っていたが、数日平和な旅路だった。
その間、マオの魔法講義をティアと一緒に受けたのだが、マオが”才能のある人間はこれだから……”と呟いて複雑そうな顔をしていた。

「マオの教え方がうまいからだよ」

「そうですね。それに、唯一の教師ですもの」

珍しく落ち込んでいるような雰囲気も感じて、ティアと僕で慌てて持ち上げる。というか、マオの築き上げた努力のおかげなのだから、比べるのも烏滸がましいと思う。

「しかし、才能だけの問題ではないのかもしれんな」

「そうなのです?」

なんとか気分を持ち直したマオの言葉に、ティアが首を傾げた。

「精霊たちは、どちらかというと人間への好意を持ちやすいように感じる。あのような従わせるような魔法でも力を貸していたのが根拠だが……」

「あー……」

"従わせるような魔法"、と優しい言い方をしてくれたが、事実を知る僕は複雑だった。精霊を奴隷のように扱う魔法、とはマオも何度も言いたくないのだろうけども。

「強制力があったのでは?」

「ある程度はそうだろう。しかし、世の中には正と負、光と闇の2つに分類される。人間と精霊は光、魔族と魔物は闇だな。故に、人間の声が精霊に届きやすいのではないかと思う」

「光と、闇?」

「なかなか興味深いな。今度アイシャと比べてみるか」

嬉々として魔法について考察するマオの様子をみてティアは微笑ましそうに見つめた。

「マオ様は、魔法が好きなのですね」

「あぁ、そうだな。精霊を理解できるのは楽しい」

肯定するマオに、僕は懐かしい仲間の姿が頭に浮かんだ。
同じように魔法について語る少女が、仲間にいたのだ。

「こんな状況じゃなきゃ、エルと話が合ったかもしれないね」

「お前の仲間にいた、火の魔法を放つやつか」

「うん。エルは魔法しか興味がないみたいで、旅の間もずっと魔法の本を読んでたぐらいだよ」

「そうか。……それは、話してみたいものだな」

マオとエルが魔法の話で盛り上がる姿なんて、可能性はない夢想話だった。

そのはず、たっだのだ。



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