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勇者と魔王と聖女は生きたい【94】|連載小説

「い、イリヤ様?」

「あ、ああ、いや、その……」

どうしたのだろう?顔から血の気が引いて、視線が落ち着きなくあっちこっちへ向く。手も腰に伸ばしたり、胸にやったりとバタバタと落ち着きがない。

「おはようございます、イリヤ様。どうかしましたか?」

「……、……はー。何でもありません。おはようございます。よく眠れましたか?」

「はい、おかげ様で」

何だろうか、観念したかのように長く息を吐いた後、にっこりと笑顔になって挨拶をされた。
確かに壁画の話の時は顔色を悪くなっていたが、夕食後に別れた時は普通だったはずだ。夜の間に何かあったのだろうか?

「すみません、僕は、これから月に一度の女神様の預言を聞かなければならないので、そろそろ……」

「あ、はい」

教会の人間らしい男と共に、速足で去るイリヤ様の背中を見送る。

「何だったんだろうね、ティア」

「――――」

「ティア?」

「ど、どうして……」

反応のないティアの顔を伺うと、こちらも先ほどのイリヤ様と同じように驚愕に染まっていた。
その視線は、遠くなっていくイリヤ様の背中を見ている。

「イリヤ様の、女神の預言が……」

「あ」

そういえば、ティアの話だとイリヤ様の女神の預言はもう見えなくなっており、"擬い物"になっているはずだ。これから教会の者に女神の預言を詠まれてしまうと、"擬い物"とバレてしまい、処分されてしまいかねない。
僕は血の気が引いたのだが……

「イリヤ様の女神の預言が、見えるようになっているんです!」

「え?」

ティアの言葉の意味が理解できず、僕はしばらく思考が停止してしまった。



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