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勇者と魔王と聖女は生きたい【62】|連載小説

「だって、そんな想像したことなかった。誰も教えてくれなかったもの」

少し落ち着いたエルが、ばつが悪そうな顔でそう言った。

「想像力の欠落。今まで魔法だけを学んで来た弊害だの」

「……」

マオ様の言葉を受けてエルは顔を俯かせる。
ウェル様は居心地悪そうにキョロキョロとエルとマオ、たまに私を見る。私を見られても…と、私はサッと視線を逸らしました。

「それが一概に悪いとは言わん。しかし、魔法を知りたいというお主の願いを叶えたいのなら、人との交流は否が応でも必要となろう。知りたいというお主の主張ばかり通ってきたのは、魔法学校という閉鎖空間のおかげだったということを忘れぬことだな」

「わ、悪かったわよ。考えが足りなかったのは認める」

「ふむ」

素直に謝るエルの様子に、マオ様はウェル様に視線を向ける。
マオ様の視線を受けたウェル様はというと、落ち着きを取り戻して頷いて返しました。

「ティアは……」

「私も、ウェル様に謝っていただけたので十分です」

私には名を呼んで確かめようとしましたが、何を聞きたいのか何となく分かっていたので、そう言葉を返しました。
一瞬呆気にとられた顔をしたマオ様は、すぐに頷いてエルに向き直りました。

「人との交流をするというのなら、このまま旅についてくればよい。面倒だと思うなら魔法学校に戻るのだな」

「い、いいの?」

「私とティアが気に入らんかったのはウェルに対する態度だけだ。教会を敵に回す根性もあり、魔法に対する探求心もあるのは好ましいと思っておった」

「でも、ウェルは?ウェルはいいの?」

「うん、僕もいいよ」

恐る恐る確認するエルに、ウェル様はあっけからんと返す。

「なんで?」

「え?」

エルの問いに首を傾げる。何を聞かれたのか、本当に分かっていないのでしょう。慌てた様子で、エルは言葉を重ねました。

「なんで、酷いことをした相手にも優しくできるの?」

「うーん、たぶん、今の僕は幸せだからかな」

「私に、仲間に攻撃されたり、裏切られたのに?」

「でも、今の僕にはマオもティアもいる。きっと人は幸せなら、人に優しくできるんだ」

「……そう、そうなの」

「うん。僕は幸せだよ、エル」

複雑そうな顔になるエルの気持ちが、なんとなく分かります。
ウェル様にとって、かつての仲間は過去のもので、終わったことなのが分かります。もしかしたら、どうでもいいとすら思っているのかもしれない。
エルにとっても、かつての仲間はただの旅の同行者でしかない。魔王を倒せばそこで終わりの関係。それでも、やはり複雑な心境にもなるでしょう。

「もちろん、エルも、これからはちゃんとした仲間になれたら僕は嬉しいな」

「……」

照れ臭そうに言うウェル様に、しばらく無言でいたエルはふいに小さく笑う。

「……えぇ、そうね。今度こそ"ちゃんとした"仲間になりたいわ」

変な話ですが、かつて魔王を倒すという苦楽を共にしたウェル様とエルが、ここではじめて仲間になったような気がしました。



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