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勇者と魔王と聖女は生きたい【6】|連載小説

(2022/01/26:一部修正)


ミーティアの案内で、僕と魔王は中庭へ出た。
夜中だが、ぐるりと円を描くように高くそびえる城壁が目に入る。僕たちは、この城壁の外に脱出しなければならないのだが、とても飛び越えることも、よじ登ることも到底できそうにない高さだ。

「抜け道はこちらです」

だが、ミーティアが向かう先は城壁ではなかった。
城壁内には大きな建造物が二つあり、未だにボヤ騒ぎが続いている城がその一つだ。白を基調とし、繊細さと美しさを追求したと云われる城も、激しく燃える炎のせいで、煤を被ってしまっているように感じる。ただ不思議な事に、被害が広がっている様子がない。

「火のやつが加減しておるのだろう」

僕の疑問にそう魔王が簡単に答えた。
訳も分からなかったが、ミーティアの足が止まったので続きを聞くのは諦める。
目の前にあるのは、もう一つの大きな建造物。城と並び立つ教会だった。

「外に向かわんのか?」

「はい。教会内に誰も知らない抜け道があります」

「誰も知らない抜け道か。だが、お前は知っている、と?」

「はい。"女神の預言"で大司教様が使うところを"見た"ことがありますので」

「?」

"女神の預言を聞く"、と言うが、"見る"と称するのは違和感があり僕は首を傾げた。
疑問を口にする前に、またミーティアが進みだし正面の扉から堂々と入る。
僕は焦って止めようとしたが、教会内で寝泊まりする神官たちも、消火のため出払っているらしく人気は一切なかった。
入ってすぐステンドグラスで輝く、広い聖堂が迎える。木の椅子が並んだ奥には女神クルクスルーナの像が奉られている。
女神像の横も通り過ぎ、神官しか使用しない奥の扉に入った。

「これは……」

魔王が足を止めた。
僕と、少し遅れてミーティアもつられて足を止めて、魔王の関心を奪ったものを見る。

「あら、マオ様。そちらに興味がありますの?教会の創始者様が作った壁画です」

そこには僕も一度だけ見させてもらった、女神が衰退する人々の前に降臨した様子から、人の世が発展するまでを描いた壁画があった。
とても古いもので、良く見ると何度も修繕した跡がある壁画だ。

「その神々しいお姿に感動した創始者様は、壁画の他にも石像を作ったそうです。先程通った聖堂の女神像がそうですね」

「なるほど」

ミーティアの説明も、耳に入っているのか怪しいほど、魔王は壁画の女神を見つめていた。
つられて、僕もミーティアも女神を見つめる。
……僕たちの死を詠んだ女神。
慈愛に溢れた笑顔に反した今の僕たちの状況を考えると複雑な気持ちになり、僕はすぐ目を逸らしたのだが。

「……どこの世も、女神の姿を残したがるのは一緒か」

「え?」

魔王の呟きに似た小さな声を拾って、僕は声を上げた。

「いや、なんでもない。余計な時間を取らせてすまないな。抜け道は近いのか?」

「ええ、もうこちらです」

ミーティアが、発展した様子を描いて終わっている壁画の横に足を向ける。
そして、壁に取り付けられた燭台に手を伸ばす。

「えーっと、右に傾けて戻して、また右に。そして左に」

ミーティアはブツブツと呟きながら、燭台を動かした。
すると、ガコンッと何かが外れる音が響き、壁画の横の壁がまるで扉のように開いた。

「なるほど、隠し通路か」

その扉の先には、下へ下へと続く階段があった。

「はい。こちらから外へ参りましょう」

どこに繋がっているか分からない階段を、僕たちは下りだした。


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