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勇者と魔王と聖女は生きたい【98】|連載小説

時は、少し前に遡る。
勇者一行を見つけることができた私……アリスはルーファウス様と共に戦っていた。

すべては魔王様の仇のために!

戦いは終始、こちらが優位な戦況に胸が高鳴った時だった。
魔王様の仇を取れるのだ、と期待した瞬間、光による目くらましを受けてしまった。

「あと少しで…!勇者を殺せたのに!」

光が消えた後、勇者一行の姿は消えていた。
なんて卑怯な手を使うのだろう。悔しさにギリッと強く歯を食いしばる。

「ルーファウス様!今ならきっと追いつけます!行きましょう!!」

目が使えない間に勇者たちの姿は消えていたが、そんなに時間は経っていない。
それにルーファウス様によって、勇者は傷だらけ。私が相手をしていた女も消耗が激しいはずだから、遠くへは行けないはず。
きっとすぐに追いつける。

「…………」

「ルーファウス様……?」

すぐに追いかけると思っていたルーファウス様が、動かない。
それどころか返事もなく、茫然と立っている様子に戸惑う。
もしかして、彼らになにか精神的な攻撃をされたのだろうか?

「あの、ルーファウス様?」

「…………一度……魔王城に戻ります」

「え?」

ポツリと呟くように、力ない声で出たのは、まさかの撤退。
戸惑う私に目もくれず、ルーファウス様はゆるりと歩き出す。私も戸惑いながらも彼の背中に続いた。

ルーファウス様の様子は、なんだかおかしかった。
道中はずっと考え事をしているようで塞ぎ込み、声をかけても生返事。
こんなルーファウス様を見たのははじめてで、落ち着かない。

いや、違う。一度だけ、こんなルーファウス様を見たことがある。

――……魔王様が、勇者に、殺されてしまったとき……彼は、泣き崩れて、それで……。

「――――」

思い出したくない。
ギュッと爪が食い込むぐらいに、手を握り締めた。



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