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勇者と魔王と聖女は生きたい【46】|連載小説

「君は……」

「忘れたとは言わせないわ」

僕を紫の瞳で鋭く睨みつける少女に、見覚えはあった。

「魔王の……四天王の……」

最後に見たのは、魔王討伐の知らせに泣き崩れた姿。

「私は四天王の一人であり、魔王様の義理の娘よ」

腰まで伸ばした艶やかな金髪の人型をした魔族が淡々と言う。
その口調とは裏腹に、その瞳は殺意で僕を突き刺すようだった。

「え、娘?」

チラリとマオを見ると、「シッ!」と人差し指を立てて口に当てた。黙っていろと言いたいらしい。
マオの生存のことすらも黙っていなければいけないのだろうか。
聞こうとしたが、マオはすぐに僕の後ろでティアとコソコソと何かを話し出してしまった。何も分からないまま、彼女と相対する。

「魔王様は私に優しくしてくれた。私の大好きな人だった。なのに、なのに……あなたを絶対に許さない!!」

「そ、それは……」

「魔王様の形見の愛犬も、どこにやったの!!」

その愛犬は僕のすぐ後ろにいる。
もしかして、人型になった時の姿を知らないのだろうか。
僕がチラリと後ろを見たら、答える気がないと思われたのか、彼女の琴線に触れたのか、殺意がブワリと増した。スラリ、と腰のレイピアを引き抜いた。

「あっ、待って!」

駆けてくる少女に、僕は慌てて剣を抜こうとした。が、速い!あっという間に目の前にいた。スピードなら、魔王に匹敵するのではないだろうか。
剣を抜くのが間に合わない僕を、無表情のままレイピアを突き刺そうとする。

「魔王様のかた、きぃいああああああ!?」

きっと、"魔王様の仇"と言いたかったのだろう。
言い切る前に、彼女の姿は悲鳴と共に忽然と目の前から消えた。

「……え?」

僕は剣に手をかけた姿のまま、ゆっくりと彼女が消えていった地面を見下す。そこには、つい先ほどまでなかった大きく深い穴があった。

「……落とし穴?」

どこから見ても、誰が見ても落とし穴である。

「どうでしょうか?私、うまくできましたか?」

「うむうむ。良くやった。大きさ、タイミング共にバッチリだ」

ティアとマオが僕の隣に並んで来て、落とし穴の中を覗き込んだ。
後ろでコソコソと話していたのは、土の魔法で落とし穴を作る打ち合わせだったらしい。

「……気絶、してらっしゃいますね」

穴の底には、動かない少女の姿があった。大きな怪我もなさそうなので、気絶しているのだろう。いや、けどレイピア危ないな。

「いやはや、素直な子に育って……我は嬉しいぞ」

落とし穴に一直線の義理の娘に対し、本気か冗談か分からないことをマオが言った。



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