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勇者と魔王と聖女は生きたい【82】|連載小説

怪しい一行でる僕たちを連れた馬車は、街に入ると真っ直ぐに中心部の大きな建物へと向かう。馬車の小さな小窓から見える街の光景に、ティアの「わぁ」という感嘆が何度も漏れる。

「とても、キレイな街でしょう?」

「はい、とても。それに、穏やかでいい街ですね」

「はい。僕の自慢の街です」

最北端の都市アデスイリス。
まるで海に浮かぶように作られたこの街は、どこに行っても水が流れる音が響いている。道の横には水路があり、常に水が流れているのだ。建物も水を連想させるような淡い水色が多く使われており、水が流れる音とともに落ち着いた気持ちにさせてくれた。しかし、活気がないわけではない。港の方からは活気のある声が聞こえてくる。つい、魚がすごく美味しかったのを思い出した。

「……このまま平和であってほしいものです」

ぼそりと呟かれたイリヤ様の言葉が、妙に記憶に残った。
その言葉に質問を投げかける間もなく、馬車が大きな建物の前で止まる。

「昼食の準備をさせます。その間、我が館を案内させてください」

「いいのか?」

「はい。お礼ですから。今日はぜひ泊まっていってください」

にこやかに告げられたお礼の内容に、僕たちは顔を見合わせた。正直、路銀が心許ない状況なのでありがたい申し出だった。


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