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勇者と魔王と聖女は生きたい【15】|連載小説

「アイシャは格闘系だからのう、私は慣れんのだが……」

マオ様の姿が一瞬で消えました。
私には目で追い切れなかったのですが、いつの間にか黒装束の男の1人のお腹にマオ様の拳が入ってました。

「……え?」

マオ様が一歩下がると、その男は倒れこみました。声を出したのは私だったのか、他の男たちだったのか定かではありませんが、倒れた男のお腹の辺りが凹んでいるように見えて、目を見開きました。

「まぁ、お主たちぐらいなら造作もないな」

マオ様が軽く地を蹴ります。恐らくですが、一人は後ろから首を蹴り、もう一人は頭に踵落としをしたように見えました。残像程度なのでよくわかりません。
男たちは成す術もなく倒れました。

「うむ」

マオ様が男たちを見下して満足そうに頷きます。息はあるようでピクピクと動いています。
なぜか興味深そうに男たちを見下すマオ様に、私は近づきます。

「どうして、ですか」

「ん?」

「どうして、マオ様は私を助けに来てくださったのですか?」

「んん?あぁ、お主に渡した笛は犬笛といってな、人間の耳には聞こえんから驚いたか?」

「そうではなく!」

思わず大声を出してしまいました。
それも確かに驚いていたのですけども。そういうことではありません。

「歩き出したらすぐに疲れ、街中を歩いたら倒れる軟弱もので、マオ様には一捻りの者達に攫われる……こんな足手まといの小娘なんて、捨て置けばいいではありませんか」

きっと私がいなければ、とうの昔にお二人はこの街を出て、旅に出ていたでしょう。そして、教会からの追手に追いつかれなかったはずです。
お荷物でしかない私。王城の抜け道さえ分かれば、捨て置いてもいい存在です。

「どうして、こんなに良くしてくださるんですか……」

私は、私に自信はありません。
今までは聖女だからと周囲は頭を垂れていましたが、私個人に何の魅力もないことは私自身が一番分かっています。
聖女の肩書がない私は、何の取り柄も、価値もありません。

「気まぐれなら、今、見捨てて欲しいです。ウェル様への義理ならば、もう止めて構いません。私からウェル様にご説明します。明日への希望を、持たせないで欲しいです」

王城の抜け道で"明日が分からないことが楽しみだ"と語ったことに嘘はありません。けれど、それはマオ様とウェル様の庇護下にいるのが条件です。
二人がいなければ、私の明日は死だけなのだから。

「何を言い出すのかと思えば」

溜息を吐くマオ様に、思わず肩を揺らします。

「見くびるな、小娘。私は人間の一人や二人、一生面倒をみる器はあるぞ」

やはり、ニンマリと太々しく笑う魔王様。
少女の姿とは相反して勇者様すらも頼りにしている方は、胸を張って言う。

「お前が生きたいと願う限り。お前が一人で生きれるようになるまで。私は必ず、お前を守ろう」

宣言したからには、この方は有言実行するだろう。不思議とそう思わせるものがマオ様にはありました。
気まぐれではないかと疑った自分が恥ずかしい。

「これからも、よろしくお願いいたします。マオ様」

「うむ」

やはり不遜に頷くマオ様を信じよう。
そして、一人で生きていけるようになると信じるマオ様に応えてみせよう。
私は改めて明日のことを考えるのでした。


「あと、お前、自分に取り柄がないと思っているみたいだが、結構面白いやつだぞ」

「えっ」


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