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勇者と魔王と聖女は生きたい【51】|連載小説

「それと、もう一つ、奴らに私の生存を言えない理由があるのだが……うーむ……」

またしても、そう言ってからマオが口ごもる。どう説明していいものか、悩んでいるようだった。

「ウェル、お主に最初に会った時に、”私にはお主の力が必要だ”と言っただろう?」

「うん。”身勝手な願いだから僕の判断を待つ”って言ってたよね」

「うむ。それに関わることなんだが……」

「なんだが?」

「ちと迷っておる」

その言葉が理解できなくて、しばらくの沈黙が続いた。

「え?マオ様が迷っている??」

「お前が迷うことなんてあるのか!?」

「お主らは私のことを何だと思っておるのだ?」

呆れた様子のマオだが、僕らの反応は仕方のないものだ。いつでも自信満々で、女神の預言をなくして途方に暮れる僕たちの先頭を歩いて、道を示してくれる絶対的存在のマオ。驚くなと言う方が無理な話だった。

「私のお願いは、まだ話したくないのだ。故にもう一つの理由も話せん。しかし、それではお主らに誠意がないと思っていてな」

「……ああ、そういうことか」

"誠意で応えたい"。
最初の出会いでマオが僕にそう言っていた。
僕らの女神の預言がなくなり、みっともなくマオに頼るしかない現状になってもまだ、僕らに誠意で応えようとしてくれる姿に嬉しくなる。だからか、自然と僕の本心が口から出た。

「マオが話してくれるのを待つよ。僕はマオを信じているから」

強く断言する僕に、マオがパチリと大きく目を瞬かせた。
ここまで強く自分の意思を伝えるのははじめてだったからだろう。

「……それは、お主の意思か?」

「うん。これが女神の預言に従わない、マオの指示にも任せない、最初の僕の意思なんだ」

預言に頼らず、マオを信じることを決めた。今までの人生で女神の預言に頼りっぱなしだった僕には、大きな一歩だった。

「私もです、マオ様。私を見捨てずにここまで連れ出してくれたマオ様を信じていますので、お話してくれるのを待ちます」

「……二人とも、ありがとう」

ティアもまた同じ意思を伝えたことで、マオは少しだけ下を向いて礼を言う。その表情は、照れているような、安堵のような感情が浮かんでいる気がした。
僕とティアもそれに気づき、顔を見合わせ、つられて笑いあう。

「……では、当面の間、私の生存は秘密の方向で頼む」

マオが顔を上げると、もういつもの表情に戻りいつも通り話はじめた。

「仇扱いされるウェルは大変だと思うが……」

「いや、それは構わないよ」

僕が四天王たちを相手にすることは何の問題もない。
いや、問題は実力差だけだ。
アリスの動きは速かった。でも、油断しなければ僕でもついていけるスピードだ。彼女を相手にする分は問題ない。問題は、ルーファウスだろう。僕は相手をしたことがないので未知数だが、マオ曰く魔王より強いらしい。

「……ちなみに、ルーファウスは剣と魔法、どっちで敵わないんだ?」

「剣は全く敵わん。魔法はかろうじて私に軍配が上がるようになった」

「かろうじて」

「うむ」

「……僕もマオに魔法習おうかな」

マオに正しい魔法の使い方を習った時、森を燃やしてしまってから魔法を敬遠していたが、そうも言っていられない気がした。




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