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勇者と魔王と聖女は生きたい【10】|連載小説

「マオ様は、私が武器を持つことは反対ですか?」

街へと目指す最中、ミーティアが疑問を口にした。
また魔犬化と巨大化して彼女を運ぶマオの表情は分からないが、また難しい顔をしているのではないだろうか。

「反対ではない」

「でも、マオ様もウェル様も、難しいお顔をしていました」

「えっ、僕もしてた?」

「はい。しっかり見てました」

マオの話を聞く体勢だったために、マオだけを見ていたと思ったのだが……意外と人の顔を見ていて驚いた。

「うむ。武力というのは一朝一夕で手に入るものではないのは分かるか?」

「はい」

ミーティアは素直に頷く。確かに、教会の奥深くに大切に保護されてきた聖女が、1日2日で身を守れるすべを手に入れることができるのなら、勇者なんてお払い箱だ。

「慣れぬ刃物に自身が傷つくかもしれんし、敵に奪われて私やウェルを傷つけるかもしれん」

「……そうですね。怖いことです」

「その懸念もあり私とウェルは迷っておったのだ」

「なるほど……よく分かりました」

「なにも絶対反対なわけではない。その懸念を考慮しつつ、お主に合う武器をウェルと考えてみよう」

「私に合う、武器」

「うーん、僕は考えるのは苦手で……」

「んなもん分かっておるわ」

マオから手厳しい視線をもらう。

「それに、武器を持つことよりも、先に身につけなければならないこともある」

「あ、体力でしょうか?」

「それもある。もう一つあるのだが……」

ちらり、とマオが僕を見る。なんだろうか?

「自惚れではないが、私とウェルがいればお主を守り切る自信はある」

「それはたしかに自惚れではありませんね!」

稀代の勇者と魔王ですから、とミーティアが深く頷いた。
……いや、マオにコテンパンに伸された僕はどうだろうか。ちょっと自信がない。
人間側ではトップクラスの実力を持っているのだと思うが、魔族側から見ると大したことがない実力なのかもしれない。少なくとも魔王以下だ。
魔王の側近である四天王たちの実力はマオ以下だとしても、戦わなかった僕には未知数だ。

「故に、問題は私とウェルがお主の傍にいない時だ。その時の対応を身につけなければならん。その時、どうすればいいと思う?」

マオが身震いして、ミーティアを降ろした。
少し進んだ先で少女の姿に戻り、腕を組んでミーティアに問いかけた。

「助けを待つ、とか?」

「では、助けをどう呼ぶ?」

「叫んで呼びます」

「殺意を向けられていても声を出せるか?」

「え?」

「恐怖が目の前にある時、声を出すのは至難のわざだ。それでも声を出せる自信はあるか?」

「それは……どう、でしょうか?分かりません」

「では、練習だ。大声を出してみよ」

「え」

殺意に空気が震えた。
僕は、思わず剣を抜いてミーティアの前に立った。足が震えそうになるのを堪えて、目の前の少女の形をした化け物を睨みつける。
後ろで人が倒れる音が聞こえた。振り返らなくても分かる。ミーティアが強い殺意に耐え切れず気絶したのだろう。

「なんじゃ、あっけないのう」

あっさりと殺意が消えた。僕は大きく息を吐きだした。

「お前、何をして……!」

「本番前に、本物の殺意を味わった方がいいだろう?」

あっけからんとした様子で、マオはいたずらっ子のように舌を出す。

「魔王の殺意を味わえるなど、レアな経験だぞ。感謝すると良い」

「もう二度と味わいたくなかったよ……」

後ろを見ると、やはりミーティアが真っ青な顔をして倒れていた。口から泡を吹いているのは……見なかったことにした。

「……変な娘じゃのう」

「え?泡を吹いているのが?」

「なんでじゃ。そうではなく……恐らく、お主よりも早く一人で生きていけるぞ、この小娘」

「え」

僕は目を見開いた。日焼けもしていないような色白の肌と、筋肉なんて一つもなく弱弱しいミーティアが一人で生きていける、という言葉に驚くしかなかった。

「女神の預言は人間の個性を失くし、自分で考える力を奪い、依存させる。お主だって、女神の預言に見捨てられて、女神の預言に頼れぬことに不安……落ち着かぬだろう?」

「あ、ああ」

「それが普通じゃ。今まで依存してきたものを取り上げられたら、不安になり混乱し、自我を保てぬもの」

「でも、僕にはマオがいる」

「んん、そうだな……今、お主は私がいることで心の均衡を保っている状態だ」

少し変な顔をしつつマオは頷いた。

「だが、この小娘は違う。聖女であれば誰よりも女神の預言に触れてきただろう。依存度は誰よりも酷いはず。なのに、自分でものを考え、疑問を口にし、対応を考える姿は、女神の預言への依存が見られない」

変な娘じゃ、と泡を吹くミーティアを見下ろしてマオが首を傾げた。



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