勇者と魔王と聖女は生きたい【28】|連載小説
僕とティアが魔法を怖がるようになったり、山を一つ焦がしてしまったり、マオが僕とティアを戦々恐々の目で見たりと、いろいろなことがあった道中だったけれど、無事に次の街へ着くことができた。
「わぁ、前の街とはまた違う雰囲気ですね」
「山と山の間に作られた街だから、風が強くて風車が多く作られているらしいよ」
前の街は人が多く、ぎっしりと詰まるように家が建てられていたが、ここは、のどかで緑が多い街だ。住人はまだ少ない方で、家と家とでほどよい間隔を取って建てられている。遠くにも風車がギシギシと回っているのが見えた。
とはいえ、王都から比較的近いため人通りはそれなりにある。
「ふぅん、ここの特産品は?」
「えっ、ブドウのはずだよ」
「へぇ、じゃあ良いワインがありそうだな」
「いや、マオ、その体で飲むの?」
「ぬ」
僕の言葉にマオが眉間にシワを寄せた。見た目が幼女なのだから、ワインを飲んでいたら誰かに咎められることは間違いない。
そもそも、犬にアルコールは大丈夫なのだろうか?魔犬だからいいのか?
「あっ」
そんな会話をしながら宿屋を求めて歩いていると、街の中心に出た。当然のように中心には大きな建物……教会が目に入った。
「私、大丈夫でしょうか……バレたりしません?」
「こういうのは堂々とした方が目立たぬものだぞ」
顔も隠していないティアが、ソワソワと落ち着きがない様子で短くなった髪を弄る。反して、犬耳をフードで隠しただけのマオは堂々とした歩みで教会の前を歩いていた。
……魔王が堂々と人間の街の中を歩く方がおかしいのだが、鼻歌すら歌っていた。
「何もしなければ、私たちの中で印象に残るのは仮面をしたウェルだ」
「あ、そういう狙いもあるんだ?」
「うむ。まぁ、男目線からだとティアも印象に残るか?」
「あぁ……」
「?」
ティアが首を傾げる。
整った顔に、日焼けを知らないような白い肌の旅人。目立たない方がおかしいだろう。
「ま、自然体にいれば早々問題はないだろう。それより、これぐらいであれば人酔いはないのか?」
「えぇ、これぐらいであれば……」
話を変えて、マオがティアに問いかける。前の街では、前に進むのも困難な人混みでティアは倒れている。
この街では視界に入る人は十人ほどなので、早々人酔いもないだろう。
「だが、"ソレ"はいつか解決せんといかんの」
「……はい」
重々しくティアが頷いたが、今度は僕が首を傾げる番だった。
人酔いを解決しなければならない問題だろうか?
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