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勇者と魔王と聖女は生きたい【26】|連載小説

マオによる魔法の常識を覆す話が長くなってしまい、すっかり日が暮れ始めてしまった。野宿ができる場所を探して、僕は腰を落とした。
この場所を探すまでに拾った薪だけでは一晩持たないから、とティアとマオが薪ひろいに行っているので、この場にいるのは僕一人だ。

「火だねだけでも、用意するかな」

ちょうどいいサイズの石を円状に並べて簡易なかまどを作り、中央に少ない薪を置く。火の魔法を使おうと、無意識にいつも通りにしようとして思いとどまった。
マオの、魔素が生きているという説明を思い出したのだ。

「えーっと、お願いするように、だったっけ……」

無理矢理従わせるんじゃなくて、お願いすることを意識してみる。するとすぐに反応があった。

「すご、あったかい」

魔素が……精霊が僕の周りに集まってくるのが分かる。
いつも魔法を使う時、魔素が集まる感覚はあった。だが、ここまで集まることはなかったし、暖かいと感じることもなかった。
感覚だけれど、歓迎されているような、嬉しそうな雰囲気がある。

「マオの真似をして……」

後ろから、マオとティアが戻ってくる気配を感じながら、僕は目の前に集中する。いつもなら、"火の魔素よ、燃えろ"と唱えるだけだったので、お願いする文言を考える。

「……んん?ティオ、ちょっと、ま」

この時の僕は、文言を考えるのに必死でマオの制止の声が届かなかった。
お願いする気持ちを込めて、文言を口にした。

「"火よ、これを燃やしてくれ"」

瞬間、目の前が真っ白になった。
そして、すぐに肌に熱風が襲ってきた。

「…………」

バチバチと燃える音が耳に入るが、目の前にあった焚き火の土台は、なぜか消え去っていた。
恐る恐る、顔を上げると一面火の海で僕は茫然と立ち上がる。

「……え?」

目の前にあった森が、勢いよく、どこまでも燃えていた。

「ッバカ!焚き火レベルで精霊を大量に呼びすぎだ!!」

「えぇ!?いつも通りに魔法を使っただけだよ!?」

マオの怒鳴り声に慌てて返す。命令からお願いに変えただけで、ここまで変わるものなのか。
いつもなら手のひらに乗るサイズの火にしかならないのに、見える範囲全て燃やし尽くす火に変わるなんて誰も思わないだろう。

「これを燃やしてってお願いしただけなのに!」

「だから言ったじゃん!精霊と常識が違うから、伝え方を誤ったら城一つ更地にするって!」

「ごめん!ほんとごめん!」

「これ消えるのですか!?山一つ消えるのでは!?」

マオ、僕、ティアが荷物を持って慌てて炎から遠ざかる。

「はやく、早く火の精霊にお願いして止まってもらえ!」

「ど、どうやって!?」

「はぁ!?」

「だってこんな勢いのある魔法なんて見たこともないし!」

「魔法を使う時に止める条件を設定せんかったのか!?」

「焚き火レベルでそんな設定しないよ!?」

「そうだけども!!」

僕たちは声を上げながら、火の精霊にお願いしたり、水の魔法や土の魔法を駆使して消火活動を行い、被害を最小限に収めたのだった。
幸い、村から遠く、人もいなかったので人的被害もなかった。

3人で、煤だらけのまま土の上に寝っ転がる。誰も汚れを落とす気力もなかった。

「……お主、しばらく私がいる時以外は魔法禁止」

「……はい」

「……まほうこわい、まほうこわい」

しかし、自然破壊に慌てる魔王というのもなんだか不思議だな、と星空を見上げながら現実逃避をした。



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