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勇者と魔王と聖女は生きたい【83】|連載小説

昼食をご馳走になった僕たちは、恐縮なことに案内を買って出たイリヤ様を先頭に屋敷内を歩いていた。
本来なら屋敷の執事が行うべきだろうに、何を気に入ったのだろうか。
当の本人はニコニコとした顔で、ティアに広大な中庭の花を解説している。

「海に近いのに、花が咲くものなんですね」

「はい。この花は潮風に強い花で、毎年綺麗に咲いてくれるんですよ。ぜひ夜も見てください。月の光に輝いて、さらに綺麗に見えますから」

のほほん、とした雰囲気が似ていて波長が合うのだろうか。
ティアは興味深そうにイリヤ様の話を聞いているが、エルは興味なさそうに別のところへ視線を向けている。

「すみません。退屈でしたか?」

「あ、いや、花をゆっくり見る機会がなくて新鮮な気持ちだよ」

気をつかって声を掛けてきたイリヤ様に慌てて返す。新鮮な気持ちというか、どう思えばいいのか分からないというか……。
苦笑いするティアの視線に肩を竦めた。
そんなやり取りの後、庭から離れて渡り廊下を歩き始めた時だった。

「あ」

ティアが短く声を上げる。
僕もエルもティアを見てから、彼女の視線の先を追った。

「……壁画だ」

僕もつい言葉を漏らした。
渡り廊下の壁には、女神が降臨した様子が描かれている壁画が飾られていたのだ。

「この壁画は、城にある壁画と同じ見た目ですね」

「うん」

右から左へ壁画を眺める。衰退する人々の前に女神が降臨した様子から、人の世が発展するまでを描かれている。
城と遺跡の壁画は明確に違うのが分かるが、この壁画は城にあった壁画と同じように見えた。

「でも、城の壁画よりは新しそうだ」

「はい。こちらは城にある壁画のレプリカですから」

「レプリカ」

模造品ならば、城の壁画と同じ構図なのも頷けた。
では、遺跡にあった壁画は何だったのだろうか?

「そんなに壁画が気になるの?」

「…………」

不思議そうに壁画を眺めるエルに、ティアと僕は顔を見合わせた。
城と遺跡、2ヶ所で見た壁画が記憶に残っているから、つい過剰に反応してしまったのは確かだ。しかし実際に気になるのは壁画よりも、壁画を見たマオの反応だ。
事の顛末を話しつつ、アイシャへと視線を向ける。瞳の色が変わらない。

昼を過ぎても、マオはまだ来ていなかった。



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