勇者と魔王と聖女は生きたい【11】|連載小説
「う、ううーん……」
「おぉ、ようやく起きたか?」
ベッドの上で唸りながら身じろぎしたミーティアを、マオが覗き込んだ。
「ここは……」
まだ寝ぼけているのか、瞬きを繰り返している。
現状を把握したミーティアが勢いよく起き上がったら、額をぶつけ合うのではないだろうか。
「……あ!わたし、いたっ!」
「ぴえ!」
懸念してマオを止めようとしたが、遅かった。
ミーティアが眠りから覚めて勢いよく起き上がり、ゴツリ、と痛そうな音を立てて二人の額がぶつかり合った。
「い、痛い……」
「殺意をあてて気絶させた報いなんじゃないか?」
痛みに唸るマオとは逆に、ミーティアは目を瞬かせて自分自身の額を撫でるだけだった。
「ぐぅぅ、石頭め……」
魔王を唸らせる石頭は気になるが。
「ミーティア、大丈夫?」
「あの、私、一体……」
「マオの殺意に当てられて気絶したんだ」
「あ……」
あれから、倒れてしまったミーティアを背負い、近くの街まで来た僕たちは、街の片隅にある小さな宿を借りたのだ。
犬耳があるマオは、僕のマントを使ってローブのように頭と全身を隠すことで、宿屋の女将の目を誤魔化していた。
「見事に、声も出せずに気を失ったのう」
「か、返す言葉もありません」
頭突きされたことの腹いせか、にやりと笑ってマオがからかう。
素直に落ち込むミーティアに、僕はフォローを入れた。
「いや、この世界で最も強いお前の殺意を向けられて、一般人が声を出すのは無理難題すぎる」
「なれば、これ以上の強い殺意はない、ということだ。良かったな」
「良かったか?」
マオの理論に僕は首を傾げた。ミーティアはなぜか納得したように頷く。
「確かに身を持って味わったことで、心構えはできそうです。ありがとうございます」
「……」
お礼を言われたマオは居心地が悪そうな顔をして、ミーティアが寝ている横のベッドにダイブする。
殺意を向けたお礼を言われる体験など早々なく、反応に困ったのだろう。
「さっさと顔でも洗ってこい。涎すごいぞ」
「え!恥ずかしいです、すぐ洗ってきますね!」
慌てて隣の洗面所に駆け込んでいくミーティア。
安宿のため部屋は狭く、洗面所で鏡をジッと見つめるミーティアの姿がここからでも見えた。
「…………」
涎が出ていないことに、気付いたのだろうか。
鏡の中の自分の顔を見つめている。
「…………」
……嘘を言ったマオに、どう文句を言うか考えているのだろうか?
まだ無言で鏡を見続けている。
「…………」
「可愛いからっていつまで自分の顔を見つめておるのだ」
「えぇ!?そういうわけじゃありませんよ!?」
マオから容赦のないツッコミが入った。
我に返ったミーティアが慌てて顔を洗い出す。
「なんじゃ、お主。ナルシストか」
「もう、違いますよ」
タオルで顔を拭きながら戻って来たミーティアを、マオがからかう。
ミーティアはむすりとした顔で否定した。
「私の顔、こんな顔だったんだなと思っていただけです」
「?」
それは、まるで自分の顔をはじめて見たような言葉だった。
しかし、今まで生きてきて鏡を見たことがないなんて、そんなことがありえるのだろうか。
「んん?部屋に鏡がなかったのか?」
「あるにはあったのですが……」
マオの疑問にミーティアは言いよどむ。
「自分の顔を、見ることはできなかったんです」
自分の顔に何かトラウマがあるのだろうか。
でも、今は鏡を見ることができたことが不思議だったが、僕もマオもミーティアの話しづらそうな様子を見て、話題を今後のことについて話し合いを始めた。
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