勇者と魔王と聖女は生きたい【54】|連載小説
僕を殺そうとした、かつての仲間の一人。
魔法学校の天才少女、エルが駆け寄ってくる姿をみて、僕は慌てて剣を抜いてティアとマオの前に立った。
「もうこちらから攻撃するつもりはないわ。その剣、降ろしてくれない?」
「……信用できない」
かつての仲間の言葉を信じられない僕は、非情なのだろうか。
だが、どうしても信用はできなかった。
さきほど攻撃してきた件もそうだが、ここにいる三人ともが全国民が例外なく敵視する"擬い物"だ。マオがなんとかしてくれるだろうが、もし万が一にも攻撃されてティアとマオに怪我をさせたくない。
「私は、魔法のことが知りたい。私の人生は魔法一つなの」
両手を上げて、武器がないことを示す。
エルは確かにロッドで物理攻撃も行うが、魔法使いだ。武器を持っていなくても油断はできない。剣を下す理由にならない。
「あんたが"擬い物"だろうが、関係ない。教えを乞うためなら頭も下げる。私が知らない魔法のことを教えてくれるなら、女神の預言にだって逆らってみせるわ!」
それは、どうなのだろうか。
後ろにいるティアを見ると頷かれる。女神の預言に逆らってここにいるのは間違いないようだ。
「”教えを乞うためなら頭も下げる”。良い心がけだ」
「マオ!?」
ティアを見ている合間に、マオがスルリと僕の隣に立つ。
その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「女神の預言に逆らうということは、教会から異端者として”擬い物”と同じ扱いを受けるのだったなぁ?それとも、勇者一行は特別か?新聖女がパーティーにいたのだろう?」
「関係ない。新聖女ってシオンのこと?私が女神の預言に逆らってウェルを追うって言ったら絶縁されたわ」
「ほう!新聖女にわざわざ宣言してから来たのか!」
「当然でしょ。今までの立場は全て捨ててきたわ。魔法学校の首席卒業もなし。新しい魔法を知ることができるなら、何だって捨ててみせる!」
「ほーーう……」
きっと、隣にいる僕にしか聞こえないほど、小さなつぶやきだった。
"危険思考だのう"、とマオが言った。
「城の時も、今も、魔法の支配権を奪ったのは私だ」
「アンタが……?」
「だが、教えを乞う前に。お前、ウェルに、何か、言うことはないのか?」
あえて、だろう。
区切り区切りに、強調するようにマオが言った。
「え?言うこと?」
エルと一緒に、僕まで首を傾げた。
お前までなんだその反応、という顔をされてしまった。いや、思い当たることがないのだから仕方ないと思うのだが。
マオが深くため息を吐く。
僕にか、それとも、エルにか。
「それが分かり、ウェルに伝えるまでは、私が知っている魔法の知識を教えるわけにはいかん。ウェルも、ティアも、いいな」
「はい」
「え、あ、うん」
「そ、そんな……!」
意外にもあっさりと頷くティアに戸惑いつつ、僕も頷いた。
ティアは、マオがこう言いだした理由が分かるのだろうか?戸惑っている僕に対して、苦笑していた。
「よーく考えてみることだ」
マオが冷めた顔でエルに伝える。
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