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勇者と魔王と聖女は生きたい【60】|連載小説

「あんたは、どんな本を読むの」

「私は物語系が好きですね」

「……ふぅん、私、読んだことない分野だわ。おすすめは」

「そうですねぇ」

ぶっきらぼうながら、私へと質問をするエルに対して私もよどみなく答えます。今まで私やウェル様に関心がなかったエルの姿からは、とても考えられない変化です。
ちょうどこの本屋にあった、私のおすすめの本を手渡すと、興味深そうに本をペラペラと斜め読みするエルに首を傾げました。どうして急に歩み寄ってきたのだろう……。

「あ」

少し考えて、なんとなく察した。というか、確信しました。
マオ様だ。
何を言ったのかまでは分からないけれど、どう考えてもあの人がキッカケだとしか考えられない。

「へぇ、興味深いわね」

言葉のまま、興味深そうに本を読み進めるエルの姿に少し嬉しくなりました。
私は、確かにウェル様の件で怒ってはいるけれど、歩み寄る彼女を拒否するつもりはありません。なにより、私がおすすめした本を無碍にすることないのが嬉しいものです。

「……なんで」

「はい?」

「なんであんた、嬉しそうなの?」

「え?エルが私に興味を持ってもらえたことが嬉しいです」

「私があんたに興味をもったら、あんたが嬉しいの?」

「そうですよ」

「……へんなの」

エルの戸惑う様子をみて、私も気になっていたことを口にする。

「エルは、今まであまり人と話すことが少なかったんですか?ご両親とかは……」

「ん、んー……両親とは話した記憶はないわね。女神の預言で幼少期から魔法学校に入らせられたし。だから周りと話すとしても魔法のことばっかりね。私もそれでよかったけど」

あ、少し私に似てる境遇です。
私も同じように女神の預言で幼少から、教会に送られた。両親と話した記憶もない。けれど圧倒的な違いは、夢中にあるものの有無でしょう。

「だから、どうして師匠が私に魔法を教えてくれないのか分かんない。周りの人間は、すぐに教えてくれたのに……ウェルに言わなきゃいけないことってなに?全然わかんない……」

エルなりに、答えが出なくとも、しっかり考えてくれていたことが分かって私はホッとしてしまいました。
だって、マオやアイシャに付きっきりでご機嫌どりをして、とても考えている様子が見られませんでしたもの。それならば少しでもヒントになれば、と私は口を開きました。

「エルは、ウェルのことをどう思っているんです?」

「どう?」

「だって、かつては一緒に長い旅をしていたのでしょう?その時はどうしてたんですか?」

「あの時は別に、興味がなかったわ」

「興味がなくても、お話されたりとか……」

「……少しは、したと思う。野宿の時に寒くないかとか、ずっと歩くことが続いたら疲れてないかって声をかけられたわ」

「ウェル様は優しいですね。その時にエルはなんて言ったんです?」

「無視したわ」

「……わぁ」

さすがブレない。
コメントに困ってただただ気が抜けた声だけしか出ませんでした。

「……そういえば、あの中で最後まで私に話しかけてきたの、アイツだけだった」

「そうなんですか?」

「えぇ、他のメンバーは私に呆れてたわね。別にどうだっていいけど……ん、でも、アイツ、すごいわね」

「え?」

「だって私、あんたと話すのも勇気がいたのに、アイツは無視されても私に話しかけ続けてたもの。すごいわ」

「は、はぁ……」

賞賛されているところがイマイチ分からなくて、曖昧に頷く。
私と話すことに勇気がいたということにも驚きましたが、そこは置いておきます。

「ウェル様にとって、あなたも大事な仲間だったんでしょうね」

「大事な仲間?」

「そう、だから優しくしてくれるんです。んー、エル様って大事な方や尊敬している方っていないのですか?」

「学長と、師匠ね。魔法に精通しているわ」

「じゃあ、その人に無視されたり、攻撃されたら?」

「え」

エルが固まるのを無視して、言葉をを続けます。

「想像してみてください。学長さんに無視されて、攻撃されて。次に顔を合わせたら、態度はいつも通りで教えを請われて。エルはどう思うんですか?」

「――――」

目を大きく見開いて、固まったエルが次に発した言葉は……。




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