勇者と魔王と聖女は生きたい【39】|連載小説
(2022/02/23:一部修正)
「あなたは、とても立派な立場にあり、人々を導いているような御方。なのに、どうして女神の予言に逆らって生きられるのですか?私は、それを知りたい」
僕とマオが初めてティアと出会った時の言葉に納得している内に、彼女は黒装束の男に必死に語り掛ける。
"人々を導いているような御方"、か。
彼女には、彼がどう見えているのだろう。
僕たちにはどうしようもない戦闘好き。戦闘狂。狂戦士。とても良い意味で称せるものが浮かばない。
しかし、彼女の目から見ると全くの別人らしい。
「ンで俺がわざわざ答えなきゃならん。薄気味悪ぃ、人の未来を勝手に見やがって」
「ッ!」
「俺は俺の好きにやってるだけだ!人を殺す!強いやつを殺す!全員殺す!それが俺の生き方だ!」
マオに地面で押さえつけられたまま、男は吠える。
「あなたの、生き方」
「女神の予言なんて関係ねぇ。生きたいように生きて何が悪い!?」
吠え、暴れだした男の上で、マオは面白そうに笑う。
「ふむ、その生き方や吉。だが、口が悪いな」
これ以上は話の無駄と判断したのだろう、マオが男の首に踵を振り落とした。念のため僕も男が気絶したのか確認のために近寄る。
「預言を持ちながらも預言に逆らう男か。それもまた面白いな」
「……すごい人です」
「ま、あの様子をみると、あまり考えずに生きているだけだろうが…」
「それでも。女神の予言に逆らい生きるのは、すごいことです」
笑みを浮かべながら言うマオに対して、ティアは唖然とした様子で感嘆の言葉をもらす。
けど、僕は全然、一欠けらも、面白くも、すごいとも思わなかった。
「コイツは、贅沢だよ」
「ほう?贅沢」
「贅沢じゃないか。だって僕たちには、もう預言はないのに……コイツは、予言を持ってるのに、女神の予言通りに生きない。そんなの、そんなのって……」
胸の中で燻る言葉が見つからない。
けれど、これは全然いい感情ではない。そのはずなのに、やっぱりマオは面白そうに笑う。
「妬みか」
「……妬み」
「それも素直なお主の気持ちだ。そして誰もがお主と同じように思うだろうなぁ。
"いいなぁ"、"その立場を自分にくれ!"と」
「……うん。僕は、コイツが羨ましい」
預言がないから預言通りに生きられない僕と、預言があるのに預言通りに生きない男。
僕は、この男が理解できないし、好きになれそうになかった。
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