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勇者と魔王と聖女は生きたい【57】|連載小説

宿屋から出て行くティアとエルの様子を、僕とマオは2階の部屋から見送った。2人の間には、不自然なほど空間がある。
2人の仲の悪さを物語っているようだった。

「いやぁ、どうなるか見ものだのぅ」

僕はハラハラしているというのに、マオは楽しそうにニヤニヤと笑う。

「本当に大丈夫かなぁ」

「分からん」

「え!?」

「だからこそ、どうなるか見ものなのだ」

窓から2人が見えなくなったら、早々にクルリと身を翻してベットに飛び込むマオと裏腹に、僕はいつまでも窓の外を見ていたい気持ちだ。
エルはティアのことをどうとも思っていない。逆にティアはエルに怒っている。そんな2人が買い物に行くなんて、良い想像ができなかった。

「喧嘩しないかなぁ」

「どうかのぅ。その時はティアが一方的に怒っているだけで、喧嘩にはならんだろ」

「そう、だよね……エルは、そういう性格だから」

エルは冷めている。
魔法に対しての情熱に相反するように、人に対して感情を向けることが皆無だ。もしかしたら、魔法学校の人たちと話をする時は別なのかもしれないが、少なくとも僕は見たことがなかった。
マオの言う通り、喧嘩になるとしたらティアが怒っているだけになりそうだった。

「それに、こんな時に教会の刺客に襲われたら危ないんじゃ……」

一緒にいるエルは、ティアを守ってくれないだろう。
エルの性格もあるが、教会に歯向かえるとも思えない。
もし、今この瞬間に刺客に襲われたら、マオだけが聞こえる犬笛の音で危機を察知した僕たちが動くしかない。思わずベットの横に立てかけた剣を確認する。

「エルにはティアが聖女だったことと、刺客に襲われる可能性も話したぞ」

「……え!?それ、大丈夫なの!?」

「分からん」

「えぇぇ……」

エルは"女神の預言"に逆らってここにいる、と言ってはいた。ティア曰く、本当のことらしい。
だが、それが今は本当のことでも、このまま一生そうとはまだ信じられない。"女神の預言"は国民の絶対なのだから、いつ手の平を返して、"女神の預言"の下の人生に戻ろうとするか分からない。

「もしアイツが言うように、"女神の預言"に逆らう気持ちが本当なら刺客を跳ねのけるはずだ。私のご機嫌伺いの為にもな」

「それって、つまりティアは囮……」

「ティアには説明済みで、了承をもらった」

「えぇぇ……僕、すごくのけ者にされてない?」

僕の知らないところで話が進んでいたことにガクリと肩を落とした。



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